第三回台湾公演ブルーレイ『TAKARAZUKA in TAIWAN 2018 Stage & Document』の特集ページが出来ています。凜雪鴉(紅ゆずる)、丹翡(綺咲愛里)、捲殘雲(礼真琴)、殤不患(七海ひろき)の4人と彼らが写ったパッケージの写真あり。
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デザインノート 最新号に小柳奈穂子氏のインタビューが掲載されていました。
デザインノートNo.82 (2018年11月26日発売)
特集: 漫画・アニメ・ゲームのデザイン
連載:佐藤可士和の視点とデザイン
「制約」と「個性」の折り合いから生まれる、自分だけの物語
小柳奈穂子(宝塚歌劇団 演出家)×佐藤可士和
クリエイティブディレクター、アートディレクターの佐藤可士和氏との対談です。宝塚歌劇の座付き作家としての現在の小柳流の方法論にたどり着いた経過が垣間見えて興味深いですが、『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』に関連した箇所があったので引用します。
例えば、宝塚というのは男性を主役にした物語を書く必要がありますが、私自身は女性なので、女性の視点というものを大切にしています。(略)凜雪鴉という男性の主人公の視点に立って考えようとすると私にとっては難しい部分があるのですが、女性の視点に立ち、丹翡という女性をさまざな男性たちがサポートする冒険譚として捉えることで、自分らしい物語を書くことができるんです。(前掲書p.93)
産経新聞の記事【橋本奈実の芸能なで読み】
宝塚歌劇団星組トップ、紅ゆずると座付き演出家、小柳奈穂子氏に学ぶ“1行の要約” (
(略)立てた1ライン・プロットは、『主人公にお友達ができる話』だ。
ヒロインを守るクセのある仲間たちの1人で、主人公の凜雪鴉(りんせつあ)は謎の人物。「彼は何でもできる人であるがゆえに、人生に退屈していた。でも、ある人に興味を持つことで、生きる意味を見つけていく」と小柳さん。
『女性の視点に立つ』と『主人公にお友達ができる話』という2つのインタビューを合わせて考えるとまんま下の画像(紅ゆずるの凜雪鴉と綺咲愛里の丹翡)ですね。凜雪鴉のお友達というのは殤不患(七海ひろき)だと思いますが、丹翡と捲殘雲(礼真琴)は「年少のお友達」なのかな。
あーちゃんの丹翡ちゃんこそ、人形がそのまんま人間サイズになった感があった。立ち回りは経験があまりないはずですが、カッコよかった。健気で一途な丹翡ちゃんでした。
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- [Zuka] 星組『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』(1)
- [Zuka] 星組『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』(2)
- [Zuka] 星組『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』(3)旅は道連れ世は情け
異次元的夢の世界
BEST STAGE 1月号に掲載の紅ゆずるインタビューで、紅さんが凜雪鴉について語っています。公演期間終了後のインタビューで結構、本音で語っています。
私も最初はまったく理解できなくて、どうして凜雪鴉ってこんなに性格が悪いんだろうと(笑)。逆に人形劇ファンの方の中には、いくら人形のようなお化粧をしても、顔も動いて感情もリアルに伝えることができる人間が演じるのは、(中略)、いろいろ悩みました。でも、最後には ”やっぱり私の凜雪鴉を作るしかない” と決めたので、公演が始まり、再現率が高いと言っていただけたのは本当に嬉しいです。(p.41)
『生死一劍』の殺無生編での凜雪鴉は、ダーティーヒーローに近い。殺無生編での殺無生に対する凜雪鴉は、殺無生が極悪の殺し屋でも、かわいそうになるくらい驕慢の潰し方が厳しくて、殺無生が恨むのもわかるようん。そこから一心不乱に凜雪鴉の命を狙って追っかけなのね。
逆に殤不患編での凜雪鴉は、道化の変装で殤不患の武勇譚を自慢して回る。西幽から来た謎の男・殤不患の言動が、面白くてたまらないという風情で、「凜雪鴉は殤不患が大好きやな」という結論に達する。
ヅカ版サンファンを見たら、その通りな『主人公の凜雪鴉に殤不患というお友達ができる話』で、さすが小柳先生と心の中で快哉を叫びました。殤様はお友達というか凜雪鴉は同類だと思っている気がしますね、同類項。
それから、サンファン1を見たときに「え、殺無生は蔑天骸に屠られてしまって、凜雪鴉とは戦えないのね」とか、「狩雲霄のアニキは捲殘雲と仲直りしないまま、刑亥のアネキに殺されちゃうのか。しかも殺され方…」と軽く呆然としたんですよ。原作は霹靂布袋劇や武侠小説の世界観で、剣鬼の跋扈する弱肉強食の東離だから、そうなんですけれど。原作はオリジナルなのでそれが正史なんですけれど。
ヅカ版は凜雪鴉(紅ゆずる)と殤不患(七海ひろき)が中心になった分、殺無生(麻央侑希)は出番が少なくなりました。しかも凜雪鴉は殺無生を相手にないで煙に巻いちゃったりするのです。
原作の殺無生は凜雪鴉を付け狙う冷静沈着な殺し屋。2本の長剣を振るい、血風を巻き起こす “鳴鳳決殺” 。勝てぬと判っていても蔑天骸に戦いを挑む。その死は蔑天骸と凜雪鴉でさえ悼む潔さ。
ヅカ版サンファンでは出番は減り、殺無生の人となりや背景を表すエピソードは削られたけれど、天刑劍を祀る鍛劍祠前にメインキャストが勢揃いした中、蔑天骸(天寿光希)と相打ちを果たし、死に場所を得る。浮かばれた気がしましたよ。麻央くんがんばったよね。
そしてヅカ版サンファンでは、捲殘雲(礼真琴)と師匠の狩雲霄(輝咲玲央)の今生の別れを見ることが出来て嬉しかった。
殘凶(大輝 真琴)に殺された兄・丹衡(桃堂純)の思い出して、丹輝劍訣・流陽凌日を使う丹翡(綺咲愛里)を慰めるために剣術指南を行う捲殘雲。そんな2人を見ていたのは殤不患だけだったのか。
「傍目に英雄らしく見える手管ならこれからいくらでも教えてやろう」とうそぶいていた狩雲霄が、捲殘雲に「英雄になれ」と絶叫して果てる。その思いはどれほどのものだったか。
ヅカ版サンファンは、2.5次元というか二次創作的サンファンかもしれないけれど、美しく最高の再現率で、『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』の世界に浸ることができ、宝塚歌劇でもある。正史とパラレルワールドの夢の世界。贅沢の極み。
朋有り遠方より来たる
ということで、ヅカ版サンファンの凜雪鴉(紅ゆずる)と殤不患(七海ひろき)について語りたい。(すでに長い)。
宝塚星組が台湾へ 現地の人気人形劇をミュージカルに:朝日新聞デジタル
紅ゆずるの凜雪鴉と七海ひろきの殤不患は、役へのアプローチが好対照に感じられて、とても面白かった。原作の殤不患に寄せながら、自身の味を濃くしていった七海殤不患と原作に寄せず独自の役作りをしながらも、テイストは凜雪鴉そのものという紅凜雪鴉。
配役が発表になった後に私は原作を予習して思ったわけです。人形が生きているように見える、まぶたの動き、顔の角度、指先で顔を触る動き、揺れる髪。それ以外の重要ポイントは声の演技。
台湾の霹靂布袋劇は一人の口白師が、登場人物の声とナレーションを担当し、演じ分けるそうですが、『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』は日本で盛んなアニメーションの手法を用いて声優さんが起用されている。というのは後から知りましたが、今をときめく声優さん達が声の演技で盛り上げている作品です。
そこで、声優経験があるひろきさんには、口調と声音を研究してね❤とお手紙をしておきました。幕が上がってみたら、めっちゃイケボな七海殤不患。口調もCV:諏訪部順一ライク。さすが研究熱心。ワンダホー。メリハリのきいた、歯切れのよい口跡。普段は高めのかわいい声なのにどれだけボイストレーニングしたら、あそこに到達するんですか。台湾公演限定DVDを見たら完全に自分のモノにして低めの声にやられるカコイイ。
2月くらいから殺陣を習いだしたというだけあって、マントと長髪を翻しながら、軽やかな足取りと素早い身のこなしで敵をさばいていく。
丹翡の真摯さにうたれ、捲殘雲の青さにあてられながら、凜雪鴉に道連れにされた厄介事に向かっていく。「刃無鋒(なまくら刀)」と捲殘雲に名付けられた通り名に、「いいじゃねえか、刃無鋒」と懐の深さを見せる。強大な力を振るって破壊神となるよりは、刃無鋒のほうがよほど好ましい。
原作の殤不患のおっさんくささも醸し出し、丹翡や捲殘雲と距離感を図りながら、かまう姿も豪放磊落でイケメンな義侠士そのものの七海殤不患。
それに対して、紅凜雪鴉は高めの地声を生かした声の演技が冴え渡る。難読語の多いセリフを流暢に話し、イントネーションを変え、強弱をつけて凄みを出す。赤い目を光らせて重々しく言葉をひとつひとつ吐き、睨みを利かせる。
すでに述べたように、原作の凜雪鴉は敵の多い、どちらかというとダーティーヒーロー。CV:鳥海浩輔さんの声で、優雅かつ男性的で骨太。最終回には蔑天骸様との一騎打ちで剣をとり、果てのない剣の道を歩んできた剣豪であることが明らかになる。
紅ゆずるの凜雪鴉はやや線が細いが、その立ち居振る舞いの優雅さ、思索を巡らす表情と緩急のある声音で、「掠風竊塵」たる奥深さと風格を醸し出す。剣は取らずとも豪放磊落な義侠士に勝るとも劣らない。
凜雪鴉はいつの時点から殤不患を見ていたのか。殤不患が「我らが知らぬような」剣を持っているかもしれないと、どうして思えたのか。
一件が落着し、餞別だと赤い唐傘を渡す凜雪鴉に、傘を断る殤不患。
「傘一本の義理がどんな大仕事になるか、わからねえ。雨が降ったら濡れればいいさ。じゃあな」
殤不患を見送る凜雪鴉はひとりごちる。
「確かに。あいつから盗むものはなにもない。(略)。それに悪党より面白いのは、善か悪かわからぬ、なまくら刀。見逃す手があろうものか」
殤不患の思いをよそに、見込んでしまった凜雪鴉。
殤様はお友達を探しに西幽から東離に来たんじゃないんですけれどね(いち観客より)。
凜雪鴉は、殤様が自分のターゲットになり得ないところが気に入り、殤不患が歩んできた道のりに自分と同じような壮絶さを見出したのだろうと、そう思った幕切れ。
新たな旅の始まりである。
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七海担としては殤不患は、ひたすら、うまくなったなぁと思った役でした。研16までに培った男役技術の結晶のような殤不患で、ただ感心しながら見ていた。まぁ紅さんの凜雪鴉もすごかったからね。
とっても( ・∀・)イイ!! 紅カイだったんですよ。
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ヅカ版サンファンは作品を公演時間90分に収め、舞台を効率的に運ぶために、様々な工夫が凝らされていた。岩山に見立てた背景舞台セットはほぼ固定で魔脊山になったり、映像を使ったり、傀儡子達が運ぶ仕切板に隠れてキャストがスタンバイしたり、せりや幕を使って舞台転換を行ったり、異次元の空間を生み出したりしていた。大劇場以外の別箱で公演するには、該当別箱の舞台設備も考慮して演出を考えるのだろうが、そういう条件のうちで宝塚を見せるのも座付き作家の腕の見せ所なんでしょうね。