(1)~(4)は正塚晴彦作品の作品解説の一文です。それぞれ作品名を当ててください。
(1)予測不可能な時空旅行の中で、恋におち、生きる上で大切なものを見出して行く若者の姿を描く、ファンタジック・ラブコメディ。
(2)夢を追い求める若者達と、彼らを支えるスタッフ達の姿を描く群像劇。
(3)二人が様々な出来事を経て大人へと成長していく過程の中で経験する男女の心の機微、男同士の友情などを描いた、ほろ苦いながらも切ない甘さのある青春群像劇です。
(4)一人の青年が、様々な人との出会いを通じ自らの生き方を問い直す姿を描く青春群像劇。
全問正解者は正塚晴彦作品の愛好者だと思われます。答えは次ページに。
__
さて今回の本題でございます。作・演出/正塚晴彦、瀬央ゆりあ主演『デビュタント』。観劇は10月16日11時公演と10月19日14時30分公演の2回。
瀬央ゆりあ様、バウホール単独初主演おめでとうございました。
「青春群像劇」が得意の正塚先生。正塚芝居は間合いが難しそうといつも思います。緩急の間合い、セリフのテンポ、シリアスとコメディの転調、芝居の流れの波(大波小波)。正塚作品はそれらが独特で、下級生には難易度が高い気がするけれど、お芝居のいい訓練になるんだと思います。演者(特に主演)は波に合わせてペースを調節していかないといけないのですが、肩に力が入ると一本調子になったりするので、作りすぎず、流れに身を任せる、ということが出来るようになるのには経験値も必要なんでしょうな、と『デビュタント』を見ていて思いました。勉強になった。
初見時は、せおは優しくて真面目で折り目正しい人なので、ちゃんとちゃんと作らなきゃって、がんばったんだなぁって思って見ていました。緊張かな。がんばっちゃうと彫りの深い超絶2枚目シリアスな瀬央ゆりあが出現して、えっらいカッコいいのですが、ずっとがんばっちゃったままで正塚芝居の波に乗れていない気がしたんですね。
『デビュタント』は1幕は割とシリアス路線で話が進み、2幕でオチがつくのですが、初見時は2幕で急に転調してあるオチがつく。初見時はその1幕と2幕のギャップに終演後に狐か狸に化かされた?あれでいいの??コメディ??という不条理感がある終演でしたが、2度目の観劇時には1幕と2幕のギャップが落ち着いていた気がします。
このギャップの有無や良し悪しは、お芝居の意図や演出によると思うのです。主演のせおは、イブという人物の役作りと全幕を通した流れを作るという役割だったわけですが、ただ『デビュタント』はお稽古開始時には1幕しか出来ていなくて、2幕はお稽古中に出来上がったと小耳に挟んだもので、全体の流れを創り上げるのが遅れたか難しかったか、という推測ががが。
舞台の幕が上がると、キャストは諸々の事情をすべて飲みこんで芝居をするわけで、すべて経験値になります。真ん中を経験した人にしかできない芝居というものがあるはずなので、10年を迎えた95期男役の一人、瀬央ゆりあの活躍が楽しみです。デビュタント色とは結局、何色だったのか。瀬央色ということにしておきます。
(あらすじ)
19世紀フランス。正業につかず、なんでも屋めいた仕事をしている男爵家の次男イヴ(瀬央ゆりあ)は、デビュタント・ボール(社交界デビューのための舞踏会)の運営を取り仕切るリーズ侯爵夫人(音波みのり)から、ミレーユ(星蘭ひとみ)という伯爵令嬢のエスコートを頼まれる。箱入り娘のミレーユの極端な人見知りを懸念したバルタザール伯爵(漣レイラ)と夫人のフィービー(華鳥礼良)からの依頼だった。
イブは、上流階級のマナーに精通する友人ビュレット(紫藤りゅう)に教えを乞い、ビュレットの妹ナタリー(桜庭舞)や彼の恋人ニコール(水乃ゆり)の協力を得てダンスやエスコートマナーのレッスンに励む。
やがて迎えた舞踏会当日、ろくに口がきけないミレーユの態度に業を煮やしたイヴは、強引なエスコートでミレーユや他の女性たちを振り回し、会場を混乱させる。落ち込むイヴに、彼に好意を寄せるナタリーが新たな事業を手伝って欲しいと声をかける。自分が本当にやりたいことを考え始めたイヴ。そんな彼のもとに、リーズ侯爵夫人の執事ラサール(天路そら)が訪れる。夜中に侯爵夫人の屋敷に駆けつけたイブは、同じく呼び出された刑事オットー(極美慎)とともにデビュタント・ボールで起こった宝石盗難事件の解決を依頼される。
盗難事件には”イルミナティ”という秘密結社が関わっている可能性が示唆される。侯爵夫人の先祖とイルミナティには因縁があったという。イブはオットーとともに事件に探りを入れ始めたところ、古物商を始めたビュレットから宝石盗難の噂を教えられる。
__
便利屋をして生活しているモラトリアム青年イブ(瀬央ゆりあ)と叩き上げ青年のビュレット(紫藤りゅう)、背景は不明だがリーズ侯爵夫人の信頼厚い刑事オットー(極美慎)の男三人。
伯爵令嬢のミレーユ(星蘭ひとみ)とビュレットの妹ナタリー(桜庭舞)、ビュレットの恋人ニコール(水乃ゆり)の女三人。
それぞれの立ち位置と関係が面白かった作品でした。詰めが甘かったり、安易さ、ご都合主義を感じる箇所もあるんですが、マサツカイズムが漂う作品。登場人物たちの日常の生活を描き、その中で事件や出来事が起こるというものなので、登場人物たちの方向性が決まったり、生活が落ち着けば、ハッピー❤エンドですね。
弁護士の資格まで持っているイブが、なぜ便利屋めいた仕事をしているのか理由は判らないけれど、叩き上げのビュレットとは親友で、妹のナタリーの王子様。瀬央のイブはやさぐれ感とぶっきらぼうさと女性を大事にする気障な王子様感が絶妙のバランスで成立しているのですが、まだ若僧感もあり、男三人でソファに座って歌っているときがいっちゃん馴染んで居心地良さそうという不器用な男でした。ナタリーの尻に敷かれるのが幸せへの道だと思いますが(笑)。
イブの親友のビュレット妹ナタリーと二人でたくましく生き抜いてきて、苦労もしたはずだけれど、紫藤りゅうのビュレットは開放的で前向き。「結婚したぞー」の雄叫びから、ここまでやっとたどり着いたというビュレットの心からの快哉を感じました。商売も抜け目なさそうで、オットーと絡んだりするスピンオフが見たい。華やかで機転が効く紫藤は、燃ゆる風の織田信忠のような陰を含む役もうまいので、幅広い役が期待できそう。
刑事オットー役の極美慎。去年のベルリン新公(宝塚)から格段の進化でこの1年間の成長ぶりにびっくりしました。無造作に立っているだけで目立つ。オットーは落ち着いた印象を与える、やや年かさの刑事に見えました。リーズ侯爵夫人に信頼され、プライベートで事件解決に呼び出される関係というのは何なのか、職務を離れて動くその動機は何なのか、スピンオフが見たい。
ナタリーは待てるんだったら、もうしばらく待って画廊が軌道に乗ったら、できる女としてイブに対峙するのが良いと思ったり。女性と一緒に所帯持って苦労できるほど、大人じゃないんでしょうねイブ。桜庭舞のナタリーが面倒見が良くて、生活力もあって、兄のビュレットと2人でぐれずいじけず、働くものは報われると行動する女性であるというのが、『私立探偵ケイレブ・ハント』のイヴォンヌ(咲妃みゆ)ともリンクする、正塚作品の現代的なヒロイン像でした。
正塚作品でよくあるWヒロインのもうひとりが、伯爵令嬢ミレーユ(星蘭ひとみ)。デビュタント・ボールでの白いドレスのミレーユは、ローマの休日のオードリー・ヘプバーンのようにノーブルで美しかった。その繊細さは貴重。ミレーユの緊張と高揚感を感じるお芝居も◎で、ナタリーとニコールと出会って、女友達が出来て自分の居場所を自分でつくろうとする素敵なレディでした。これから期待の娘役ですね。
ビュレットの恋人役ニコールの水乃ゆり。『霧深きエルベのほとり』の新人公演で初ヒロインおめでとうございます。夢咲ねねちゃん似の美人で、スタイルよし、ダンスよしの娘役さんですが、歌うと声がひっくり返るような感じに聞こえて気になりました。ビュレットの恋人役で美しく強気に出れるけれど、ソフトなまろやかさがあるのが良い持ち味です。
漣レイラ(ミレーユ父のバルタザール)+華鳥礼良(ミレーユ母フィービー)、音波みのり(リーズ侯爵夫人)はさすが上級生で1幕2幕通して自分の波を作って、オーバーアクションながらも全体を安定させていました。このオーバーアクションは演出指定なんでしょうね。漣レイラがひっぱる形のバルタザール伯爵夫妻でしたが、娘を引きこもりに育て、金遣いは荒く借金だらけというなんだかダメさ加減で悪人というよりは駄目なお貴族様でした。この夫妻の設定とイルミナティ(?)の人々に安易さを感じなくもないですが、作品の中で収集がつくようになっているのが良かったです。華鳥礼良にはソロもあってよかった。『エルベ』で退団ですが、その歌唱力を生かせる方向で考えてほしいと思っています。
馥郁たる美女で気高き侯爵夫人の音波みのり、はるこちゃんは、やっぱりうまいですね。イブを振り回すリーズ侯爵夫人ですが、その会話の間合いが絶妙。突撃インタビューで「これが日常」「日常の会話をお見せしている」みたいなコメントが有って、そうか瀬央ちゃんを振り回すはるこちゃんかぁという面白みでした。フィナーレのダンスも相変わらずキレキレで美しいです。
イルミナティ関係者(?)のアダム(朝水りょう)、リュカ(颯香凜)、ファビアン(夕陽真輝)。一気に事件を解決に導いた謎のひとびとですが、コメディリリーフ的な登場でした。朝水りょうは堅実な芝居をする人で別箱では要所に配されるのですが、個性をもっと押し出していけるようになるといいですね。颯香凜と夕陽真輝は新人公演でもいい役どころなのでがんばってください。
大家さんアレクシアの澪乃桜季、執事ラサールの天路そらも芝居がうまい人達で、要所を締めていました。侍女クロエの彩園ひなは可愛かったです。
役がね、正塚作品は少ないからね、七星美妃のお芝居も私は好きなのですが今回は役なし。天希ほまれはイメージの男で踊るソロダンスが印象に残りました。あとは朱紫令真は姿勢が良くて端正な立ち姿で目につくかな。そんなとこ。
【答え】は次ページに。