[Zuka] 星組『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』(3)旅は道連れ世は情け

10月1日(月)から『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』(サンファン2)が始まったと思ったら、12月24日で13回分が終わりますね。さびしい。

ねんどろいど 紅ゆずる」に続いて、「ねんどろいど 殤不患」が発売されるようです。商品ページはまだありません。「ねんどろいど 凜雪鴉」(2017年03月発売)、「ねんどろいど 蔑天骸」(2017年04月発売)はすでに売り切れ。ちび殤様も予約しなくては。

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解説・公演評風にというリクエストがあったので、今までの分をまとめて、やや硬めに書いてみます。→書いたらイズム38の小柳作品論の続きみたいになりました。

小柳奈穂子が日本・台湾共同制作の同名の布袋人形劇を宝塚化した第3回台湾公演用の星組公演『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』(通称:サンファン)は、東離という架空の国を舞台にしたものである。

神誨魔械(シンカイマカイ)という魔具を守護する護印師の丹翡(タンヒ/綺咲愛里)から伝説の魔剣・天刑劍(テンギョウケン)を奪おうとする蔑天骸(ベツテンガイ/天寿光希)の一味・玄鬼宗 vs.丹翡に手を貸そうとする謎の男・凜雪鴉(リンセツア/紅ゆずる)、流浪の義侠士・殤不患(ショウフカン/七海ひろき)、一旗揚げようと故郷を飛び出した捲殘雲(ケンサンウン/礼真琴)らの争いを描く武侠ファンタジー。

小柳は原作の布袋人形劇による同名のテレビ番組13話分に敬意を払いながら大胆に刈り込み、縦軸に天刑劍を巡る攻防、横軸に丹翡と捲殘雲の成長の旅を据えて90分の舞台作品・宝塚版『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』にまとめ上げた。

台湾での伝統芸能として知られる布袋劇。傀儡(クグツ)とは操り人形を指し、木偶(デク)も木彫りの操り人形を指す。布袋劇の人形操作は素晴らしく、私は『生死一劍』のおまけ映像や霹靂布袋戲(FB)などで見た程度だが、人形を俊敏に操作し、身体動作や心理描写を表す熟練の技量は息を呑むほど見事なもの。

また中国で親しまれる娯楽大衆小説の一ジャンルに武侠小説があり、義に厚い英雄好漢や文武に長けた豪傑を主役にした冒険ものが多い。第1回台湾公演用に同じく小柳が舞台化した『怪盗楚留香外伝-花盗人-』も古龍による武侠小説を原作にしている。

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』は、人形劇による東離を舞台にした英雄好漢達の武勇譚である。

ヅカ版『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』は、東離の傀儡師(クグツシ)の一座が語り広める物語の体裁を取っている。一座の座長は如月蓮。傀儡師達は白妙 なつ、瀬稀ゆりと、紫月音寧、ひろ香祐、紫 りら、音咲 いつき、彩葉玲央。傀儡子達が東離の歴史を語り、解説をする。本来なら入れ子構造にするといいのだろうが、舞台では傀儡子達が舞台転換を行うほか自らがパペットとして動く以外に目立った役割がなく、やや物足りなかった。星組の約半分とはいえ、39名の組子に役を振るには公演時間90分はやはり短い。座付き作家の苦悩するところだと思う。

人形といえば、夜魔の森に住む妖魔・刑亥(ケイガイ/夢妃杏瑠)も死人(ゾンビ)使いから人形使いに変更された。原作では刑亥は、死人(ゾンビ)を操るが、ヅカ版では赤いお衣装で髪の毛を2つのお団子にまとめた人形ちゃん達を操る。歌を歌いながら操る仕草をする刑亥が優美でございました。ヅカ版では人間が人形の役を演じたため、原作の「布袋劇」という特徴を出すために、工夫が凝らされたが、ここは原作を知らないと判らないため、「布袋劇」「人形劇」を強調したいのなら傀儡師の一座部分でもうひと工夫あればよかったのかも。

旅の始まり

槍(鉾)使いの捲殘雲(ケンサンウン/礼真琴)は、東離において弓の名手として知られる狩雲霄(シュウンショウ/輝咲玲央)の元に弟子入りするために、父母(拓斗れい、万里柚美)の止めるのも聞かずに出立する。金髪の捲殘雲は英雄になりたいと歌い上げ、2番手・礼真琴の声が高らかに武勇譚の始まりを告げる。

宝塚版『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』の開幕である。

小柳が、公演パンフレットに「宝塚の作品づくりにおいてここまで趣味に走った作品を担当することはあまりなく」と書いているように原作は原案・脚本・総監修の虚淵玄(ニトロプラス所属)の熱意が非常に感じられる出来で、下記のような記事を読んでも“布袋劇”に傾倒し、その普及(布教)を図りたいという意欲が強い。サブカルに強く、ゲームメーカーであるニトロプラスの動向も長くウォッチしてきた小柳にとって、今回の布袋劇+サブカル+宝塚のコラボは、宝塚歌劇を広く知らしめ、布袋劇の普及に協力するという絶好の機会であったことは間違いなかった。

『まどマギ』『Fate』、希代のヒットメーカー・虚淵玄氏が語る、テレビ人形劇の可能性と“アナログ手法の再評価” | ORICON NEWS

日本のテレビ人形劇の系譜が途切れつつあるなか、台湾の伝統芸能“布袋劇(ホテイゲキ)”に目をつけて、新たな挑戦に挑んだ虚淵氏に、同作への思い、今後のコンテンツとしての人形劇の可能性などを聞いた。

第3回台湾公演の旅の始まりは小柳が『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』を演目に選んだところから始まるのであろう。

旅は道連れ世は情け

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』は武侠小説や霹靂布袋劇の世界観で構築されており、宝塚歌劇の作品群とは世界観がかなり異なる。私は原作にもハマってサンファン2も毎週楽しみにしているが、正直な話では宝塚化となると台湾公演向けで大劇場以外の別箱で行うという条件あっての演目であると思う。

まず【配役】

本作を小柳が思い描いた時に、「凜雪鴉が紅ゆずるにしか見えず、丹翡は綺咲愛里、捲殘雲が礼真琴にしか見えなかった」(公演パンフ)とあり、星組の布陣で配役を考え、原作では主役の凜雪鴉とのW主役と言われる殤不患に3番手格(3番目)の七海ひろきを当てた。

宝塚歌劇のスターシステムでは、トップスター・紅が主演、2番手・礼が準主役となるのがセオリーだが、ここは原作での役とキャストの持ち味のマッチングが優先された。紅と七海は、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』や『うたかたの恋』でも一期違いの相性の良さを見せており、本作でも凜雪鴉と殤不患は静と動。権謀術数の凜雪鴉と直言直行の殤不患という対比の芝居が注目だった。

2番手の礼が配された捲殘雲は、原作にない両親を配置し、師匠の狩雲霄との場面を増やし、物語的にはトップ娘役・綺咲の演じる丹翡と捲殘雲が主役の成長の旅を横軸に据えて群像劇を構築している。狭い世界から出てきたばかりの、英雄志望の捲殘雲と護印師の丹翡という若い二人を見守る役目を凜雪鴉と殤不患は担う。ここが原作より濃いのは、やはり宝塚。学年と番手という宝塚的スターシステムの比重を保つことで出来上がる世界である。

丹翡の綺咲も捲殘雲の礼もはまり役で、立ち回りや槍を振り回すのが決まっていて、似合っていた。心情の深まりや2人の掛け合いもほんと可愛かったし!凜雪鴉と丹翡、殤不患と捲殘雲の関係性も良かった。

狩雲霄は持ち味と役者としての技量から輝咲玲央が配された。オレキザキがイケオジ枠からイケメン枠に移行していて幅広くてびっくりしたよん。原作で人気の高い蔑天骸と殺無生は天寿光希と麻央侑希。刑亥は夢妃杏瑠。このあたりも別項かな ^^;。

次に【役柄】

私がサンファン1期では凜雪鴉が主役、2期では殤不患が主役と思って見ている。サンファン1期と1期を原作にしたヅカ版サンファンでは、物語を始めるのも動かすのも凜雪鴉。縦軸である天刑劍攻防の旅の方向性を決めるのは凜雪鴉だからである。

ただ凜雪鴉は悪名高き大怪盗、権謀術数に長け、悪党の驕慢の気風をぶっ潰して屈辱に変えるという底意地の悪いダーティーヒーローである。紅は見事に宝塚的に美麗に謎めいた奥深さで凜雪鴉を演じてみせ、原作のファンからも好評を得たが、トップスターの役どころとしては異例ではないかという気がする(BADDYより全然悪いよ)。

七海が演じた殤不患は西幽から東離に来た風来坊で、凜雪鴉に旅の道連れにされる。事態に超然とした態度を取って距離を置くため、捲殘雲に「刃無鋒(なまくら刀)」という通り名(あだ名)をつけられるが、仁義に厚く情にもろいので丹翡と天刑劍を守るために戦う。そしてヅカ版クライマックスでは最強の強さを発揮し、ヒーローとなる。クライマックスは原作とはやや様相を異にする流れで、物語を動かして最後まで締めたのは紅の凜雪鴉であったが、クライマックスの主役は七海の殤不患が務めた。

まぁほんとにカッコよかった(気を許すと延々とそのカッコよさについて書いてしまうので別項)のでタカラヅカ的には好まれるんですが、物語の比重は凜雪鴉のほうが高く、殤不患は準主役であると考えている。小柳もそう調整しているから、ラストで捲殘雲と丹翡に、殤不患が使った須彌天幻・劫荒劍の柄と鍔を渡す役目を原作から変更して凜雪鴉が担い、また新たな旅の始まりを凜雪鴉が宣言するのであろう。

小柳が工夫をこらして原作の宝塚化を図り、タカラジェンヌが演じると、世界観がかなり異なっても宝塚的舞台になることに感心したが、宝塚歌劇の作品としては異色の部類だと思う。本作をチョイスした小柳の度胸と星組の熱演に盛大な拍手を送りたい。

本論に入れずに前段部分のこんなことを長々と書いているのか自分でも呆れたがそれだけ込み入った作品なんだよねとしみじみした。

「旅は道連れ世は情け」って日本人好きよね。