[stage] 鋼鉄の瞳を持つ女-タマラ・ド・レンピッカ

『La Vie – 彼女が描く、絵の世界』大阪公演前楽(8月24日)に行ってきました。24日は『La Vie』に出演中の岡崎大樹さんのお誕生日だったようで、ファンから御祝いのミニ・アドバルーン(っていうの?)も飾られていました。

↓写真をクリックすると拡大します。『ifi』と『CICAGO』のポスターが掲示されています。蘭寿さん退団後初舞台の『ifi』【→公式】は本日(9月5日)初日おめでとうございます。

「大空祐飛様へ 五拾六世 二代 梅若六郎玄祥」
「大空祐飛様へ
五拾六世 二代 梅若六郎玄祥」

本公演の脚本・演出は、昨年、宝塚歌劇団を退団した児玉明子氏。

宝塚歌劇を知っている演出家が外部で活躍しているというのは、卒業して外部で活動するOG達にとっては心強いと思う。「大劇場」の広い空間を埋める演出技術を持っているし、宝塚歌劇の「お約束」を知った上で調整ができる。そういう演出家は、荻田浩一氏や児玉明子氏くらいのようで、貴重な存在だね(そそのかしているわけではないです。念のため)。

(もっと貴重な存在なのは、外部と歌劇団の公演を掛け持ちをして途切れることなく舞台を作り続けている小池修一郎氏かも ^^;)。

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1920年代、二つの対戦の狭間に、流行の最先端のシンボルであった自動車を乗り回し、「自動車時代の女神」と呼ばれたタマラ・ド・レンピッカという女性がいた。ポーランド出身の画家である。

タマラ・ド・レンピッカの描く人物は、陰影の濃淡によって身体のフォルムがくっきりと浮かび上がり、光の当たり具合でまろやかで艶やかな肌の質感が強調されている。特徴的なのは彼女が描く、人物像の眼差しである。挑むような、問いかけるような、誘うような眼差し。蠱惑的でありながらも、媚びた感じが全くしない。それゆえに、タマラは「鋼鉄の瞳を持つ女」と呼ばれた。

タマラ・ド・レンピッカ
タマラ・ド・レンピッカの作品群

『La Vie – 彼女が描く、絵の世界』は、メキシコの病院に入院していた晩年のタマラが、日本から取材に来たインタビュアーに答えるという形式で進んでいく。これはアートディレクターの故・石岡瑛子氏の行った取材をベースにしてるのだろう。

車いすに座り、一人では歩くこともままらず看護師(いいむろなおき)の支えを必要とする晩年のタマラが、自信と美しさに充ちていた若き日に描いた作品にまつわるエピソードを語る。タマラ役の大空祐飛は出ずっぱりで、話し歌い踊り続ける。

取り上げられたタマラ・ド・レンピッカの作品は5つ。

  • タマラの最初の夫である「タデウシュ・ド・レンピッキの肖像」(1928)
  • 緑色のブガッティに乗るタマラの「自画像」(1925)
  • 裸の男女が寄り添う「アダムとイブ」(1932)
  • 裸婦像「美しきラファエラ」(1927)
  • 5人の裸婦達「リズム」(1929)

エピソードの一つ目のキーワードは”肖像画(Portrait)”。

タマラの最初の夫タデウシュ・ド・レンピッキは、ポーランド人のハンサムな弁護士だった。タマラとタデウシュが結婚した翌年の1917年にロシア革命が起こり、二人はパリに移り住む。貧乏のどん底の二人の間に娘のキゼットが産まれ、タマラは生活費を稼ぐために、画家になろうと決意する。

タマラは強い意志で「売れっ子の画家」という夢を実現し、自画像「緑色のブガッティに乗るタマラ」はファッション雑誌の表紙を飾った。華やかな美貌で社交界でもスターダムにのし上がる。ハリウッド女優のようにポーズを取った自らを、プロのカメラマンに撮らせて発表し、「セルフ・プロデュースの女王」とも呼ばれた。

タマラの作品には肖像画が多い。そして肖像画には、そのモデルにまつわるエピソードが必ずある。

彼女を誘惑した作家ガブリエーレ・ダンヌンツィオ(いいむろなおき)。

彼女に求婚した指揮者ピエール・モントー(那須幸蔵)。

夫タデウシュの肖像画を描いた時、タマラとタデウシュは離婚寸前だった。タデウシュの肖像画は、結婚リングをはめる左手が未完成のまま。

”絵として未完成でも、物語はこれで完成なの”。そんな声が聞こえた気がした。

モデルの人生を絵に込めようとするタマラ。なりふり構わず、”美(Beaute)”を追究することに没頭するタマラ。

モデル(月央和沙)が林檎を食べる姿にインスピレーションを受けたタマラは、アトリエから飛び出し、おまわりさん(岡崎大樹)をモデルにスカウトする。そうして描かれた「アダムとイブ」。

男女問わずに浮き名を流すタマラ。優美で美しいラファエラをタマラは愛した。

赤いドレスをまとうラファエラ(珠洲春希)と踊り出す緑のドレスのタマラ(大空)。丸みを帯び、優雅に優美に、肉体を使って描かれるラインが美しい。

森で出会い、モデルを頼んだ三週間もの間に名前も聞けなかった女性が佇む「リズム(rythme)」。

ラウル・クフナー男爵と二度目の結婚したタマラは米国へ渡る。

時はまさにゴールデンエイジ。エネルギーが満ちあふれている狂騒の時代。

The Jazz Age! ”Amérique”

気障に陽気に楽しく。栄華に酔うアメリカの雰囲気を、豪快でスケールの大きいとした大空のソロステージで表現する。ジャズやポピュラーソングの馴染みのある名曲が次々と歌われ、しかも生バンドなので、この場面だけでも十分に楽しめた。

Sing, Sing, Sing!!!

そうして舞台は、不遇だったと言われる晩年のタマラに辿り着く。

画家を引退し、過去に描いた自分の作品を模写するタマラ。「あなたはおかしな方ね。60年も昔のことをどうして聞こうとするの」と言いながら饒舌に過去を語っていたタマラだったが、体調はかんばしくなく、老いと死を恐れ、現実から逃げ惑うようになっていた。

“La Vie-人生”

スクリーンに大写しになった大空祐飛の顔が変化し、老い、眼窩が落ちくぼみ、死の象徴である髑髏が映し出される。タマラの美貌や華やかな人生を打ち壊すかようなショッキングさ。

そうして、白いカンバスを背景に白いドレスを身にまとったタマラとタマラの影(月央)が踊り出す。肉体から解き放たれた魂達が軽やかに、しなやかに舞う。

ラスト。現代的な展覧会会場でノースリーブのワンピース姿の大空祐飛が生への賛歌を歌い上げる。このラストソングを歌い上げる大空祐飛の晴れやかな立ち姿が素晴らしく、感動的だった。生きとし生けるものは、すべて老いて死ぬ。あがきながら生きるからこそ、輝く人生。“La Vie”

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初見の印象は既に書いたとおり【→2014/08/23】。

個別に感じたことは、5月11日に宝塚歌劇団を退団した月央和沙のダンスが相変わらずシャープで見応えがあった。これはまだ退団後まもなくで、ばりばり男役ダンスだったからだと思うが、ロングドレスの裾をばっさと捌いて、足を蹴り上げ、上半身がバネのように反る。那須幸蔵岡崎大樹の男性ダンサーズを率いて、ロングドレスで踊る月央和沙は格好いい!!のひと言だった。

真瀬はるか珠洲春希も元男役だが、こちらは女役ダンスになっていて、男役ダンスとの違う、優美さを堪能した。元男役ダンサーズは、男役ダンスと女役ダンスと使い分けられるのかな?これは、『ifi』大阪公演がかなり楽しみ。

キャストは [コーラス]となっている池谷京子、真瀬はるか、新良エツ子が踊りまくっていた。

素晴らしい舞台をありがとうございました!