[Stage] [773] 科白劇 舞台『刀剣乱舞/灯』(5)頭が猿で、尾は蛇

科白劇かはくげき 舞台『刀剣乱舞/灯』ともしび
綺伝きでん いくさ徒花あだばな
改変 いくさ世の徒花の記憶

(脚本・演出:末満健一)【公式サイト

感想です。


[あらすじ]

改変 いくさ世の徒花の記憶』は、神の国を中心とした歴史改変を進めようとする細川ガラシャ(七海ひろき)を盟主と仰ぐキリシタン大名達に抗して、正史を守ろうとする刀剣男士の物語であり、また細川家由来の刀剣男士が語る、細川忠興(早乙女じょうじ)と細川玉(七海ひろき)夫妻の物語でもある。

歌仙兼定(和田琢磨)の率いる第三部隊の「特命調査・慶長熊本」とは異なる、「別の」特命調査・慶長熊本は、2つの物語が蛇のように絡み合う世界であった。

歴史改変によって正史から分岐した放棄された世界ではキリシタン大名達が熊本に神の国を築いていた。そこに古今伝授の太刀(塚本凌生)と地蔵行平(星元裕月)の二振りは、政府から派遣された特命調査員として潜入した。

二振りは細川家ゆかりの刀剣である。彼らを派遣した”政府”は、この改変世界の因果が細川ガラシャ(七海ひろき)であることを突き止めていたのだろう。

古今伝授の太刀と地蔵行平は、正史を守るために細川ガラシャを斬らねばならない。だが、地蔵行平(星元裕月)は、ガラシャを連れて熊本城から逃走してしまう。

もう一振りの特命調査員である古今伝授の太刀(塚本凌生)は、忠興の佩刀であった歌仙兼定(和田琢磨)達に助っ人を求めて入電し、地蔵とガラシャを探す。


鵺(ぬえ)のような何か

歴史を守るのは刀剣男士の本能。それなのに地蔵行平は歴史改変の因果である細川ガラシャを連れて逃げた。地蔵の行動を訝しむ山姥切長義(梅津瑞樹)に古今伝授の太刀(塚本凌生)は言う。

地蔵を斬らせるわけにはいきません。

刀剣男士の仲間意識は強い。古今伝授の太刀は忠興の父である細川幽斎の刀で、忠興の妻である玉(洗礼名ガラシャ)を知らない。それは忠興と玉の三男忠利の刀であった篭手切江(大見拓土)も同様である。古今伝授の太刀は、歌仙や篭手の力を借りて、細川ガラシャを滅ぼし、地蔵行平を取り戻すつもりだった。

改変世界の因果であるガラシャを滅ぼせば、この放棄された世界の神の国は、そこに生きる人々はどうなるのか。

山姥切長義もキリシタン大名達に、「お前たちより先にガラシャをみつけ出し、彼女を殺す」と宣言していた。

ドン・フランシスコ、大友宗麟(三浦浩一)は、生きたいだけだ、刀剣男士たちと戦うつもりはない見逃してくれと言っているのに。ドン・シメオン、黒田孝高(山浦徹)は刀剣男士に問うた。

ここにある世界は生きたいと願う心じゃ
幸せを願う祈りじゃ
苦しいものを救いたいという慈悲じゃ
わしら人間がそういった心をなんと呼ぶか知っておるか

それを人は愛と呼ぶ

その心を滅ぼすというのか、刀剣男士よ

「滅ぼす」。山姥切長義は、黒田孝高にとそっけなく返答した。

さっきも言ったはずだ、俺達は人ではない。
お前たちの願いは十分にわかったさ、だから斬るしか無いんだ。

山姥切長義と亀甲貞宗(松井勇歩)は、歴史を守るのは僕たち刀剣男士の本能であり、正義ではないという。歴史を守るのが刀剣男士の本能。歴史改変の動機がなんであれ、改変された歴史は歴史ではない。

キリシタン大名達と刀剣男士がお互いの腹を探り合う。アーカイブ配信で、この場面を何回も見てるけれど、本作の世界観がくっきりと表現されている場面である。刀剣男士達とキリシタン大名達との温度差が激しく(お芝居の掛け合いのテンポが素晴らしい)、刀剣男士の本能に妥協はないことがはっきりする。

刀剣男士達は、慶長熊本の歴史改変について所感を述べ合い、頭の切れる亀甲貞宗(松井勇歩)はこの歴史改変を「行動と目的がちぐはぐに思える。動機に必然性がなく判然としない」と首をひねり、獅子王(伊崎龍次郎)は、「ここにいるキリシタン大名達は鵺みたいなんなだよな。純粋じゃないっていうか混じってる」とキリシタン大名達を訝しがる。

「鵺(ぬえ)」とは「頭が猿で、体は狸、尾は蛇で、手足は虎」という複数の動物が混じり合った、『平家物語』に登場する妖怪である。

この慶長熊本のキリシタン大名達は、誰の、何の行動と目的がちぐはぐで、何が混じってるのか。


変容

細川忠興を高山右近(黒川恭佑)によって喪ったガラシャに激しい変容が訪れる。白い髪に白装束のガラシャは地蔵行平に自分を殺すように言うが、地蔵は拒否する。

そして、その変容は熊本城にいるキリシタン大名達にも起こっていた。

ドン・シメオン=黒田孝高は悟る。

これもまたガラシャ様の願いの現れなのであろう

ドン・フランシスコ=大友宗麟は決断する。

神はわしらに戦えと申されておる
この聖戦ははらいそへと続く道じゃ

こうして刀剣男士達が感じた違和感の本元は、この改変世界の因果である、細川ガラシャに収斂(しゅうれん)されていくのである。



[雑感]篭手切江と獅子王がご飯食べている場面も好きでした。刀ステでは公演内でよく刀剣男士がなにか食べてる。仲間意識の強さと刀ステの世界観を映し出していて、面白かった。刀剣男士いっぱいいるのに刀剣の歴史的背景とキャラクター設定で個性を出していて面白いですね。(※相変わらずゲームはよく判ってないひと)。

歴史を守るのが本能の刀剣男士といえど、人間の願いと生を斬るのである。彼らも、自分でその意味を考えることが必要なのであろう。


おまけ