[Zuka] 宙組『天は赤い河のほとり』(1)

ポーの一族の続きを書いていないのですが、大劇場千秋楽も近いので、宙組『天は赤い河のほとり』を先に書いておきます。

原作の篠原千絵氏の『天は赤い河のほとり』(小学館)は、『少女コミック』に1995年から2002年まで連載された、単行本全28巻の長編漫画。七海ひろき氏の愛読書なのは知っていたのですが、読んだのは宙組上演が決まってからです。ちなみに現在の宙組で熱烈な愛読者という地位を築いているのは、お稽古時に指南役となっていたらしい愛月ひかる氏と凛城きら氏なのかな。

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宝塚化と単行本全28巻を1幕物(95分)にまとめる難しさを考えてみたよ。

『天は赤い河のほとり』の舞台化(宝塚化)が難しいのは最初から予想されました。単行本全28巻を1幕物(95分)にまとめる必要があり、しかも舞台は、紀元前14世紀、古代オリエントのヒッタイト帝国。どこそれ?というのが普通です。

その時代のその場所に召喚され、現代からタイムスリップした女子高生、鈴木夕梨:ユーリ(星風まどか)が、ヒッタイト帝国の第3皇子カイル(真風涼帆)に救われ、明けの明星、戦いの女神ユーリ・イシュタルとして戦場で大活躍して、すったもんだの挙げ句(このすったもんだが長編作品の読み応えの部分にあたる)、カイルが即位と同時に、皇妃(タワナアンナ)となって大団円というストーリーですね。無茶苦茶ショートカットしましたよ、はい。

本作や『はいからさんが通る』(花組、2017年)を見ると、小柳奈穂子氏が長編原作を舞台化(宝塚化)する手法は、本筋を残して、話を膨らませるエピソードや細かいエピソードを刈り取り、始まりと終わりは原作に忠実という形式です。

そこで本筋にどの部分を据えるかというのが、検討事項になるのでしょうが、本公演は宙組第8代目トップスター・真風涼帆と宙組初の生え抜きトップ娘役・星風 まどかのトップコンビ大劇場お披露目公演であり、20周年を迎えた宙組のお祝い公演です。だから可能な限り、たくさんの組子に役を与えて舞台上で言祝ぐのが本筋なのかな、と思って見ていました。

これはね、ガチ宝塚歌劇的な事情で、他の劇団やカンパニーで舞台化するのとは異なります。そういう意味で、小柳先生は小池先生と共同で『エリザベート-愛と死の輪舞(ロンド)-』(宙組、2016年)の演出を担当し、「宝塚化とは70人を超える出演者に役を与えることであり、…」(ポーの一族パンフレット)という意義を良くご存じなんだろうなと推測してみました。

それらを考慮した上で、展開は早いし、省略も多いけれど、必要な情報は入っている脚本と演出だと思いました。初見時の率直な感想は、「宙組天河は、カイル(真風涼帆)とユーリ(星風まどか)、ナキア(純矢ちとせ)とウルヒ(星条海斗)、ネフェルティティ(澄輝さやと)とマッティワザ(愛月ひかる)の3組の生き様を描くものになっていて、味わい深い」です。それはMY楽まで変わらなかったです。

課題と思う箇所はあります。個人的にはカイルが赤い獅子として起兵する場面(カイルが黒太子マッティワザを説得する場面)があると判りやすいとか、原作ではユーリが主役だけれど宝塚ではカイル(男役)が主役なので、そのための工夫が必要だなとか。公演時間が120分もあれば(できれば1本物150分)、改善している課題で、端的に28巻分を1幕物95分で構成するのは難しいという事だと思います。

ちなみに小池修一郎氏による『るろうに剣心』と『ポーの一族』は、メインキャストと本筋一部を生かして、オリジナルキャラクターとオリジナルエピソードを投入し、スピンオフのように仕上げています。銀英伝@TAKARAZUKAは、話の区切りの良い新書2巻分(キルヒアイスが死ぬまで)を手際よくまとめていて、1本物としてきれいに収まっていました。

導入部分はとっても上手いと思った。

大和和紀氏『はいからさんが通る』は和物で人物名も用語も日本語ですが、本作は、人物名は聞き慣れないカタカナ、聞き慣れない専門用語(?)が混じります。世界観を提示するために、舞台上で言葉の共通認識化から始めるのは時間がかかるし、説明くさくなるリスクを負います。それを上手く処理したなと思うのが、冒頭の第1場 ボアズカレ村(現代)での遺跡発掘現場の場面です。

古代ヒッタイトの首都、ハットゥサの遺跡を発掘中の氷室聡(希峰かなた)と詠美(天瀬はつひ)が、出土した大量の粘土板[タブレット]に、古代ヒッタイト語のムルシリ2世とその皇妃[タワナアンナ]ユーリ・イシュタルの記述を見つける。

「タワナアンナ?」「お妃様のことだよ」

ユーリの妹、詠美とユーリのボーイフレンドだった氷室聡によって、ユーリが神隠しにあったように行方不明になり、そのまま見つかっていないことが明らかになる。

そして粘土板[タブレット]を記したキックリ(凛城 きら)が語り部となって、カイルとユーリの物語を語り出す。

良い導入部でした。タブレットと言われるとiPad(スレートPC)と答える現代人ですが、たぶん粘土板や石板のタブレットが語源なんですね、と思ったらビンゴでした(Wikipedia)。言葉は難しい。