[Zuka] 星組『うたかたの恋』(5)終

(5)で終わりです。さすがに終わる。

気持ちをギリギリに絞り込む悲恋『うたかたの恋』を見て、ルドルフもはまっているけれど、紅さんの当て書きオリジナルを見てみたいという気持ちになった。アドリブではなく日常の中での笑い、ウィットに富んだ笑いの人情話。

谷先生のRAKUGO MUSICAL『ANOTHER WORLD』はどんな感じなのかな。落語が題材の“あの世”話ということで、上方落語のボケとツッコミの世界かな。楽しみです。

かいちゃん(七海ひろき)は本人が宝塚おとめに書いた演じてみたい役が見たいです。2018年版の発売日は4月20日。

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マリーを案内してきた執事ロシェック(ひろ香 祐)を紅ルドルフが部屋の外に出るように促す場面がある。そこの空気感は絶妙だった。

2週間ブタペストに蟄居して帰国したルドルフはマリーと抱き合い再会を喜ぶが、ロシェックが出入り口前に佇んでいる。書類ばさみをロシェックに渡し、退出を促そうとわざとらしく咳払いするルドルフに、観客から好意的な笑いが起きた。

そう、その時のルドルフにはちょっと紅さんの素が出ている気がしたんだよね。アドリブ※を一所懸命がんばるひーろー(ひろ香 祐)をねぎらうな、クルンとしたいたずらっぽい目つき。自然な無言のツッコミ。 (・-・*)ヌフフ♪

※今回の『うたかたの恋』では、唯一のアドリブ場面はロシェックが担っていて、ルドルフの私室に通じる秘密通路で、ラリッシュ伯爵夫人とマリー相手にくり出される。名古屋出身のひーろーは名古屋出身の有名人の肖像画をよく挙げていた。「これが、かの有名な○○の肖像画でございます」。丁度、冬期オリンピック(平昌)の時期だったので、浅田真央さんとかそんな覚えが。

それからロシェックとコンビみたいな、ルドルフの従者?ブラッドフィッシュには如月 蓮。れんたはOSO休演もあり、ブラッドフィッシュでは久々にれんれんの上手さを堪能した。UFA重役マイヤーホフもすごく表情をつけていたけれど、もうちょい出番があればなぁ。。

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あーちゃん(綺咲愛里)の可愛さが爆発していた。スカーレット・ピンパーネルでマルグリットを演じる前までは、お姫様的な役が多かったのに、マルグリット、OSOシャンティ(2役)、ベルリンのジルと大人っぽい役が続いて可愛らしい面が抑えられていたけれど、マリーではその可愛さ爆発。

ルドルフのみを見つめようとするマリーの中に綺咲愛里の強さを見た。

「花のように萌えいで 花のように散りぬ」マリーあってのうたかたの恋。

三つ編みのおさげのマリーは、皇太子が自分に目を止めて、会いたいと手紙をくれたと有頂天になる。ルドルフに正妃(皇太子妃ステファニー)がいて、数多の美しい女性に囲まれているのは知られている。諫めようとするばあやのジェシカ(澪乃 桜季)に、あの方は私を見るために2度も公園を行き来なさったのよ!と反論するマリー。自分も皇太子を取り囲む数多の美しい女性の一人になれるかもしれないという野心ともいえる望みを抱き、頬を紅潮させる若い女性。

それでもルドルフとの橋渡し役のラリッシュ伯爵夫人(七星美妃)が、執事のロシェック(ひろ香 祐)に「(皇太子の私室への秘密通路を)何人もの女性を案内したんでしょう」と言うのを聞いて彼女はどう思ったろう。

そして目の前に現れたルドルフは、「私が描いていたお姿よりずっとお寂しそうで」。華やかな世界の憧れの王子様が現実の生きた人間に変わった瞬間であったかもしれない。

ルドルフの無事を祈ってデスクに置いてある髑髏に祈るマリー、ルドルフの母エリザベート(万里柚美)に会ってしまい、温かい言葉を掛けられてエリザベートのルドルフへの愛情を喜ぶマリー。

そんなマリーとの未来を考え始めたルドルフを皇太子の地位から追い落とそうと、ツェヴェッカ伯爵夫人(華鳥礼良)と組んだ、フリードリヒ公爵(凪七瑠海)があれこれと策動し、ヨゼフ皇帝に注進に及んでいた。

紅さんのルドルフはマリーと生きていきたい人だった。皇太子の身分を捨てても構わない、南の島でもどこでも良い、ひっそりと2人で生きていけたら。自分の身より、マリーが修道院に禁足を命じられたのが最後の打撃。強大な皇帝の権力に阻まれて2度と会えなくなってしまう。紅ルドルフが「ちぃちぃうええええぇ」と、ヨゼフ皇帝(十碧れいや)に走り寄る勢いがすごかった。

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マイヤーリンクの山荘でかくれんぼうをして過ごすルドルフとマリー。紅ルドルフと綺咲マリーのかくれんぼうには照れやてらいが少しも無かった。かくれんぼうに真剣なのである。ここも紅さんらしかった。かくれんぼうが2人のここでのコミュニケーションツール。そして狼男ごっこ。通常、ここまでやるとバカップルだけれど、紅ルドルフも綺咲マリーも本気で遊ぶことが2人の間には重要だと思っていた。一所懸命に2人で遊ぶ、生を楽しむ愛おしい時間。

この時間を過ごした後、ルドルフは赤い薔薇の花で飾られたベッドで眠るマリーに銃口を向け、ためらい、号泣してマリーに駆け寄って手を握り、そして再び銃を握りしめる。

生きていたかった。

ジャンへの遺書に「十分に生きた」と書いたルドルフだけれど、生きていたかったよね。

ジャンが(毎回ではないけれど)、かいちゃんらしく号泣していて(涙もろい)、2人を悼む心や間近に接していたのに気づかなかった事、守れなかった事への自責の念や自分への怒りなど、きっとない交ぜ。ジャンとミリーがいるからこそ、ルドルフは後事を託せたわけだけれど、託されたほうの辛さも判っているから「十分に生きた」と書く。でもそんなはずない、そんなはずないんだよ。

遺書を読む場面でミリー(音波みのり)が、「あなた達の永遠の愛を受け継ぐため、ジャンと私は幸せになりますわ」と涙でぬらした顔で誓うのが、実にキリッとしていた。はるこちゃん、バイトでボヘミアの女でガンガン踊る姿も格好良かった。

マリーとルドルフの死を引き受けて前を向くジャンとミリーがいるから、観客は救われて、白軍服のルドルフと花嫁衣装のマリーが踊る姿を見て癒やされる。カゲソロは、夢妃杏瑠とひろ香祐。

さすが宝塚歌劇の古典的名作『うたかたの恋』と得心のいく中日劇場公演でした。終わり。