[Zuka] 星組『うたかたの恋』(2)

『うたかたの恋』はオーストリア皇太子ルドルフと男爵令嬢マリー・ヴェッツェラとの短く激しい恋とその結末を描いたもの。原作は史実を元に描かれたクロード・アネの小説『うたかたの恋』。今回は9回目の再演です。

ミュージカル・ロマン 
『うたかたの恋』
原作/クロード・アネ
脚本/柴田 侑宏 演出/中村 暁
19世紀末、オーストリアで実際に起こった悲恋を描いたクロード・アネの小説「マイヤーリンク」をもとに、オーストリア皇帝の嫡子ルドルフと、男爵令嬢マリー・ヴェッツェラとの許されざる恋をドラマティックに描いた傑作ミュージカル。1983年の初演以降、再演を重ねてきた、儚くも美しい愛の物語です。

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『オーム・シャンティ・オーム』もそうだったけれど、演じるキャストが異なると見える風景が違う。

プロローグが終わる。ドイツ大使館での舞踏会が始まり、皇太子ルドルフ(紅ゆずる)が、恋人マリー(綺咲愛里)をダンスに誘う。

「マリー・ヴェッツェラ男爵令嬢、私と踊って頂けますか」

「はい。喜んで」声を弾ませて、答えるマリー。

白い軍服姿のルドフルが、ピンクのドレスを着たマリーの手を手を取って踊り出す。笑みを浮かべて見つめ合う2人にざわつく貴婦人達。

2人を見守るヨゼフ皇帝(十碧 れいや)とエリザベート皇后(万里 柚美)。怒りを露わに立ち去る皇太子妃ステファニー(星蘭 ひとみ)。壁際に控えるフリードリヒ公爵(凪七 瑠海)とフェルディナンド大公(極美 慎)。

下手に現れたルドルフの従兄弟のジャン・サルヴァドル大公(七海 ひろき)が、切ない追憶の表情を浮かべて、舞踏会での2人を語り出す。

「マイヤーリンク」。ウイーンの森の中の雪景色の美しい土地の名、2人の死に場所となった土地の名を大事そうに愛おしそうに丁寧に呼ぶ。

そんな七海ひろきの姿を見て、私は「うたかたの恋」というこの物語(舞台)は、ジャン・サルヴァドルの思い出、ジャンの目線で語られる物語なのだろうかと思った。そう、七海ひろきは私にいつも新鮮な驚きと感動を与えてくれる。

1888年春4月。シェイクスピアのハムレットが上演されているブルグ劇場。オーストリアの上流階級が集う観劇日にルドルフとマリーは再会する(すでに一度、公園ですれ違っている)。そして翌年1月30日にルドルフとマリーは雪のマイヤーリンクの別荘で死出の旅に発つ。

「うたかたの恋」はこの9か月間の短い物語であるが、その背景にあるものは膨大である。皇太子ルドルフの家族関係、生育歴、ハプスブルク家(帝国)、ヨーロッパの政治と外交。宝塚歌劇の常連なら『エリザベート-愛と死の輪舞(ロンド)-』(潤色・演出/小池 修一郎)でその一端を垣間見ている。(子ルドルフってば、猫を殺してるんですよ。えええええむんくのさけび)。

ウイーン新聞の論説委員でルドルフやジャンの友人でもあるゼップス(大輝 真琴)は、ヨゼフ皇帝の後継者であるルドルフにヨーロッパの期待が集まっており、その「気晴らし」に「女遊びに興じている」という。ただいまのお相手はポーランド貴族のツェヴェッカ伯爵夫人(華鳥 礼良)であり、ロシアの亡命貴族マリンカ姫(夢妃 杏瑠)もお相手として選ばれる。その行状は皇太子妃ステファニー(星蘭)も知るところであり、娘を一人産んだものの、これ以上は子どもに恵まれることのないステファニーの不機嫌はあからさまであった。

そんなオーストリア社交界に17歳の男爵令嬢マリー・ヴェッツェラ(綺咲)はデビューし、貴族令嬢達の憧れの的である皇太子ルドルフ(紅)に見初められる。