オペレッタ『こうもり』を潤色した宝塚版『こうもり』(脚本・演出/谷 正純)ですが、昨日、新人公演(ファルケ博士:紫藤 りゅう、アデーレ:真彩 希帆、アイゼンシュタイン侯爵:綾 凰華)があり、本公演の脚本をさらにカスタマイズしてあったとか(担当は 町田 菜花先生?)。
宝塚版『こうもり』は、宝塚歌劇とキャストに合わせて、オリジナルから主役をアイゼンシュタイン侯爵からファルケ博士に変更し、それに伴って、ヒロインのアデーレとロザリンデの比重も変えるという根本的なところが変わっていたのですが、新人公演ではそれに微調整が入り、さらにブラッシュアップされたらしいです。新公は見れていないのですが、本公演と新人公演の位置づけが発展的になっている気がします。
新作は上演して、観客の反応を見て変更したほうが良いかなと思うところがあっても、公演期間中は大幅な変更は難しいですから、公演期間中の新人公演で調整があるというのは、良いことなのだろうなと勝手に思ったりします。
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プロローグは、燕尾服の男役とドレスの娘役が華やかにワルツを踊っているところに、北翔海莉が登場して、コウモリの翼型のマント?を広げて歌う。北翔のお衣装は白を基調としたものなのだが、マントがど派手な蛍光の虹色でやたら目立つ。
プロローグに次いで始まる、「こうもり」幕開けは、夜中にファルケ博士(北翔海莉)とアイゼンシュタイン侯爵(紅ゆずる)が酔っ払って女神公園でくだを巻いている場面で始まる。ファルケ博士は、なぜか、ジュジュクロクロと、どこかで聞いたメロディを歌うのも、北翔主演のオペレッタ『THE MERRY WIDOW』(→感想1)の演出を担当した谷氏らしい。
酔っ払ってご機嫌で馬鹿騒ぎを繰り広げている二人のところへ、アイゼンシュタイン侯爵(紅)の執事アルフレード(礼 真琴)が呼びに来る。アルフレードにロザリンデ奥様(夢妃 杏瑠)と親友のどちらかが大事かと問われた侯爵は、「むろん、妻だ!」と即答し、酔っ払ったファルケ博士を置き去りにするために、アルフレード(礼)と二人で公園のサモトラケのニケ像にファルケ博士をくくりつけてしまう。そして仕上げにニケの腕の部分にコウモリの翼状のものをつけて、遁走する。
夜が明けて、コウモリに見立ててニケ像に縛り上げられたファルケ博士は、町中の人に笑いものになり、4人の助手クリプトン(十碧 れいや)、ポロニウム(麻央 侑希)、アルゴン(瀬央 ゆりあ)、キセノン(紫藤 りゅう)からも嘆き怒られる。
パンフを読んで気付いたけれど、ファルケ博士は、「物理学者であり、童話作家」だったらしい。童話作家??と思ったけれど、ファルケ博士の恩師ラート教授(汝鳥 伶)の発明「空耳スピーカー」なるものが出てきて、そうかこの弟子にしてこの師匠ありという気がした。運動物理学が専門のラート教授が発明した「空耳スピーカー」とは何か。それは、このスピーカーで話すと遠く離れた人の耳元で、話した言葉が空耳として聞こえるというものだ。スピーカーは指向性を持つので話しかけたい人に耳元に言葉が届くという。ドラえもんのポケットから出てきたみたいな発明品だが、これも宝塚版オリジナル。
ラート教授は、アイゼンシュタイン侯爵への怒りに燃えるファルケ博士に復讐は愉快にやるものだと諭し、空耳スピーカーを貸し出すのだった。
サブタイトルに、「こうもり博士の愉快な復讐劇」と付いているように、ここまでは復讐劇メインで話が進む。女神公園でのファルケ博士(北翔)とアイゼンシュタイン侯爵(紅)の掛け合いは軽妙で、間合いがトントンと進む。女っけゼロだが、助手4人のキャストが華やかで、おおっとなる。性格まで見分けられておらず、行動に注目したい。
『こうもり』は背景転換に使われる緞帳の彩色や絵柄が美しく、観ていて飽きない。天空に広がるように色とりどりの花々が咲き誇る花壇が描かれた緞帳やファルケ博士の研究室で使われるE=MC2などの物理定数や記号が描かれた緞帳がオシャレである。この天空に広がる緞帳が、舞台全体にファンタジー的な印象をもたらしている。