[Zuka] 月組『BADDY』悪党(ヤツ)は必ず蘇る(終)

終わらせよう。Done is better than perfect. ←Facebookの社是らしい。

というわけで『BADDY(バッディ)-悪党(ヤツ)は月からやって来る-』です。ただいま、月組は『雨に唄えば』『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald’s last day~』『愛聖女-Sainte♡d’Amour-』に分かれてお稽古中ですが、珠城さんとちゃぴ様の月組は確実にpost-BADDYの時代に突入しているんでしょうね。

その前に10回目の上演となる『エリザベート』の月組ポスター。制作発表会(公式)では、小池先生が、「トート(死)は死のエネルギーそのものを表した役」「時には世界を滅ぼすほどの“死”の力」とコメントされたそうですが、私は、このステージナタリーの1枚目の珠城りょうのトートの写真に、”エネルギッシュな死”っぽさを感じて、ぜひ珠城トートには吠えて欲しいと思いました。

ちゃぴ様(愛希れいか)が、「エリザベートの“根本”を表している曲」と選んだのが『パパみたいに』。自由に憧れ、木登り、馬術、サーカスごっこが好きで、パパが大好きな少女が大人になったらどうなるのやら。”エネルギッシュな死”に抗うには強くもあらねばならないと思いますがはてさて。楽しみです。

宝塚月組「エリザベート」に小池修一郎が期待「珠城はエネルギッシュな“死”」 – ステージナタリー

月組エリザベートポスター

鏡の中にいるトート(珠城りょう)と手を合わせているけれど、目線は合っていないエリザベート(愛希れいか)。ポスターを見て、小池先生も『ポーの一族』後だと思いました。一枚の写真に物語がある。

__

上田久美子氏の初めてのショー作品は、タカラヅカ104年の歴史で初めて女性演出家が手がけたという冠付きで華々しく打ち上げられた『BADDY(バッディ)-悪党(ヤツ)は月からやって来る-』

「上田先生は『私がコケたら、もうショーの女性演出家が出ない』とおっしゃって…」と、稽古場の様子も明かした】とたまきさんのコメントが記事になり、物議を醸しました。

評価はいろいろあるでしょうが、私の結論は『ショーであろうと芝居であろうと、上田先生の次回作も楽しみにしています』です。どっち作ってくれても歓迎すると。

形式としては、芝居仕立てのショーです。そして、ネット上での好まれ方では、善と悪の相克やジェンダーフリー、タブーへの挑戦などのテーマ性、BADDYやスイートハートのキャラクター性小芝居への反応が大きいと見ていて、これはショーの受け方ではなくて、芝居の受け方に近い。

前半は世界観と背景の説明、キャラクター紹介に費やされる芝居的な進行で、ショーとしては平板でした。中詰めの「カオス・パラダイス」から全体的な盛り上がりを見せ、「BADDYの覚醒」~「ビッグシアターバンク式典舞踏会」から、「グッディの怒り(ラインダンス)」に突入し、ショーとして目玉になったのは怒りのラインダンスです。怒りのラインダンスのテーマは、BADDY(珠城りょう)が惑星予算を強奪したことで、平和を乱され、信念を覆されそうになった善の象徴であるグッディ捜査官(愛希れいか)の怒りですが、娘役主体(男役含む)のラインダンスで、女王(憧花ゆりの)や王女(早乙女わかば)、パトロールバード達(夏月都、白雪さち花、天紫珠李)が応援部隊だったために「女性の怒り」の象徴と見た向きもあったようで、受けとめ方はそれぞれです。

私もこの「グッディの怒り(ラインダンス)」は大好きでした。なにせ、ちゃぴ様(愛希)は本気で怒ってましたからね。怒りの炎を瞳に浮かべて、その勢いでスカートを剥ぎ取って(と見える)ラインダンスに突入し、続くのは晴音アキ楓ゆきですよ。ひゅーひゅー、いいぞ、もっとやれー(*゚∀゚*)

上田氏は様々な問題意識を抱いて作った作品のようですし、私としてはその問題意識に異論はありません。(上田氏の作品を愛好する方達は、より熱心に『カンパニー』の粗探しをしているように見えて、人の心理は面白いなと思ってしまいましたよ)。

作品の背景について上田は「ネット上の口コミには絶大な力がある。批判を恐れ、サービスを提供する側は個性を出すことを控え、おもしろいものが生まれにくくなっていないか」という問題意識を挙げた。上田は、同じことが宝塚歌劇にもいえるとした上で「固定観念にとらわれては進歩できない。怖がらずに攻める部分と“これ以上はダメ”という部分の間で常にせめぎ合わなければ」と語った。

魅・宝塚、たゆまぬ挑戦:「BADDY~悪党は月からやって来る~」 月組トップ・珠城りょう ダークヒーロー大暴れ – 毎日新聞

私がこのショーで最も(いいぞ、もっとやれ的に)罪深いと思ったのは、トップ娘役の愛希れいかが演じるグッディ捜査官を、トップスターの珠城りょうが演じるBADDYと同格のポジションに据えたことです。『星逢一夜』→『金色の砂漠』→『神々の土地』と来て、じりじりとヒロインのポジションが上がっているのは感じていましたが、とうとうここまで来ちゃったかという感じでした。これも、ちゃぴ様に配する役だからこそ出来た(やってしまった)と思っているのですが、どうなんでしょうか。本作でのグッディ捜査官のお衣装はどれもこれも、似合っていて、ちゃぴ様の可愛らしさ、きれいさ、美しさを引き立てました。ちゃぴ様が大劇場公演のショーに主演するのはこれで最後ですから、上田先生の気遣いを感じます。

そしてBADDYの位置づけは面白かった。「悪はダサかっこいいもの」である。BADDYが「一番悪いことをする」「俺にしか不可能な、でかい、夢」は、惑星予算を強奪することだったが、なんと現金です。仮想通貨は存在しないのか。そして口伝えで伝達可能な金庫の暗証番号。BADDYの責任ではないけれど、なんじゃそりゃ、ダサっ。

そして究極のところ、悪を知り善に立ち戻るポッキー捜査官(月城かなと)はカッコいいのである。スイートハート様(美弥るりか)の心変わり。

珠城りょうだから、情けなくもならず、フーテンの寅さん的ダサさも可愛さに転換し、果敢にガビーン顔に挑み、グッディ捜査官と激しい戦い(デュエットダンス)を繰り広げ、天国で大暴れする(フィナーレ)。なんという、一途さ。私は珠城さんの度量に感銘を受けました。それがBADDYでの収穫です。

というわけで、芝居的なショーですが、それがダメなのかというと、そういう訳でもない。宇月颯のクールと早乙女わかばの王女のエピソードやホットの紫門ゆりや、シェフの千海華蘭、出向銀行員で宇宙人の輝月ゆうま、王子の暁千星、バッディーズの海乃美月美園さくらなどの月組子の小芝居には見所も多い。実は銀行の頭取(貴澄隼人)と頭取夫人(佳城葵)も好きで、銀髪の頭取はダンディでした。頭取は舞踏会で、スイ様(美弥)に拉致されて、踏まれてましたが、上田先生はちょいサドですよね。歌ではスイートハートの嘆き(美弥るりか)と悪の華(宇月颯)ですね。

※やすくん(佳城)はケガのため『雨に唄えば』全日程休演だそうですが、お大事にしてください。音風せいやくんも。

面白ければ良いじゃん的なところもタカラヅカにはあり、上田久美子氏には悲劇以外の作品も期待したいところで、お芝居は悲劇でいくのなら、違う方向性のものも見たい。違う方向性のものはショーで実現なのか?お芝居で喜劇でも良いんですけれどね?

『BADDY』が上田先生の糧になっていればいいなぁ。そこですね。