『愛と革命の詩-アンドレア・シェニエ-』で一番、好きな場面は、冒頭の夜会で、アンドレア・シェニエ@蘭寿とむ、伯爵令嬢マッダレーナ・ド・コワニー@蘭乃 はな、革命の闘士カルロ・ジェラール@明日海りおが、3人並んで歌うところ。
アンドレア@蘭寿が「自由を求め」と言うと、ジェラール@明日海が「平等」、マッダレーナ@蘭乃が「愛」と受け、そして3人で「魂の翼 広げ はばたこう」と声を揃えて歌うハーモニーが美しい。
【★警告★深読み★ネタバレ★】
3人で歌うのは、後半にもう一度ある。マッダレーナ@蘭乃が、捕らわれたシェニエ@蘭寿の助命を嘆願しに、ジェラール@明日海のところを訪ねた場面である。冒頭と後半では、3人の立場がずいぶん変わっている。後半ではジェラール@明日海の取り残され感が半端ない。
「平等」という目的達成のために、血の粛清に手を染めて、突っ走ってきたジャコバン派のジェラール。落ちぶれて物乞いする父親@高翔 みず希から罵られ、アンドレア・シェニアの詩には打ちのめされ、憧れ恋したマッダレーナには拒否され、目指した理想はどこへ…。明日海りおの好演もあり、ジェラールの無残さがひどく堪える。
【脱線】ジャコバン党を率いたマクシミリアン・ロベスピエールは、テロリズム(恐怖政治)を強行し、貴族、聖職者、反ジャコバン派を次々と断頭台に送り込んだ。貧しい家の出身ながらも勉学に励み判事を経て弁護士になり、政治家として活動を始めた頃は、死刑廃止論者であったという。それなのになぜ、恐怖政治を行うようになってしまったのだろう。ちょっと調べたら、ロベスピエールの演説が出てきた。
「平時における人民政府の活力が徳であるとすれば、革命時における人民政府の活力は、徳と恐怖である。徳なくして恐怖は有害であり、恐怖なくして徳は無力である。
恐怖は迅速・厳格・不屈の正義以外の何ものでもない。それは、したがって、徳の発露であり、特殊な原理であるよりもむしろ、祖国のもっとも緊急の必要に適用される民主制の一般原理の帰結なのである」
【1794年2月5日 ロベスピエールの演説「政治道徳の諸原理について」】より
via【 ロベスピエール・・理想と政治理念と民衆・・・(徳永 智之)】
ロベスピエールは、恐怖政治を、確信的に「必要悪」と考えていたことが判る。
春風 弥里が演じるジャコバン党員ジュール・モランも、この思想に依拠していたのだろう。モランは「真実が見えるのは飢えた者だけ」と歌うが、「モランは貧しさを経験しているから、そこには絶対に戻りたくないし、だから権力欲も人一倍ある。一番リアルに痛い思いを知っている人」(植田景子氏)なのである。対照的にカルロ・ジェラール@明日海は、平民だが、伯爵家に代々仕える家の跡取り息子で、書物が読めるくらいの教育を受け、主人である伯爵令嬢の名前を呼び捨てにするというアンドレぶり@ベルばら(←要は育ちが良い)なので、そこで揺らいでしまったんだな、と思った。
アンドレア・シェニエ@蘭寿は、理性の人である。虚栄虚飾を嫌い、『自由・平等・友愛』の理念を信じる。それゆえにジャコバン党の恐怖政治を忌避し、潜伏生活の中で詩人である自分に懊悩する。それが匿名のファンレター(実は落ちぶれたマッダレーナ@蘭乃から)が届くようになってからは、どんどん感情を表に出すようになり、人間味がます。シェニエの生き生きとした変化を、蘭寿とむが描き出す。
シェニエとマッダレーナと結ばれる場面は、周りでデュエットする4組の恋人達も幸せそうで、素敵な場面だった(特にベルシ@桜一花とファビアン@鳳 真由のラブラブぶりが素敵)。この場面はみんなが幸せになりますように、という願いを感じた。植田景子氏と振り付けの大石裕香氏のセンス、花組生の力の相乗効果が素晴らしい。
シェニエは、自分に逮捕命令が出たと知ったときは、仲間のルーシェ@悠真 倫やモーリス@水美 舞斗を庇い、テキパキと使用人を逃がすよう指示を出したり、身重の妻@華耀 きらりを抱えるパンジュ侯爵@望海 風斗に、通行証を譲ったりとリーダーぶりを発揮していた。マッダレーナという伴侶を得て、シェニエが変わったなぁと思った。
だからこそ、 リーダーとして、マッダレーナと共に生きのびて欲しかったなと思ったり。いや、それじゃ、タカラヅカ的に話にならんのだけど。 リーダーとしては、生きのびるべきだったんだよ、なんとしても。 それがジェラールに出された交換条件に対して「詩人の魂の自由を奪われては生きていけない」って拘るから、「”高潔すぎる”詩人」(パンフ)とか言われちゃうんだよね。
そういう話なんだよ、『愛と革命の詩ーアンドレア・シェニエー』(←無理矢理まとめたw)。
若手・中堅がどんどん育っており、花組充実躍進中。
【[Zuka] 2013年花組『愛と革命の詩-アンドレア・シェニエ-』『Mr. Swing!』】
【[Zuka] 深読み★ネタバレ『愛と革命の詩』】
【[Zuka] 2013年花組『Mr. Swing!』】
■宝塚大劇場公演
公演期間:8月16日(金)~9月23日(月)
■主演・・・蘭寿 とむ、蘭乃 はな
Musical 『愛と革命の詩(うた)-アンドレア・シェニエ-』
~オペラ「アンドレア・シェニエ」より~
脚本・演出/植田 景子
ショー・オルケスタ『Mr. Swing!』
作・演出/稲葉 太地
■主な配役 :出演者(新人公演)
- アンドレア・シェニエ: 蘭寿 とむ(芹香 斗亜)
- マッダレーナ・ド・コワニー: 蘭乃 はな (朝月 希和)
- カルロ・ジェラール :明日海 りお (柚香 光)
*~*~*
- 老ジェラール :高翔 みず希
- アルフォンス・ルーシェ :悠真 倫
- ベルシ :桜 一花 仙名 彩世
- マリー=ジョゼフ・シェニエ: 華形 ひかる
- デュマ 紫峰 七海
- コワニー伯爵夫人 :花野 じゅりあ
- ジュール・モラン: 春風 弥里
- エルネスト 夕霧 らい
- アリーヌ・ヴァラン: 華耀 きらり
- フーキエ・タンヴィル: 月央 和沙
- フランソワ・ド・パンジュ侯爵 :望海 風斗
- 大道芸人のオルガン弾き/アンリ・ド・ラトゥーシュ: 彩城 レア
- マリー・クロワシー: 梅咲 衣舞
- アベル・ド・フォンダ :瀬戸 かずや
- Angel White(白い天使): 冴月 瑠那
- ファビアン: 鳳 真由
- ジャン:天真 みちる
- シャルル=ルイ・トリュデーヌ・ド・モンティニー: 芹香 斗亜
- 監獄の看守/若きヴィクトル・ユゴー :真輝 いづみ
- メルヴェル・ラコット :大河 凜
- ピエール/サント=ブーヴ: 航琉 ひびき
- ルル: 仙名 彩世
- ペペ :和海 しょう
- マリアンヌ・ド・トリュデーヌ :華雅 りりか
- ダグー: 羽立 光来
- モーリス・クリヨン:水美 舞斗
- Angel Black(黒い天使) :柚香 光
- シャルル=ミシェル・ド・ラ・サブリエール:優波 慧
- イデア・ド・レグリエ:乙羽 映見
- ユディット:朝月 希和
- ルジェ :飛龍 つかさ