[Zuka] 深読み★ネタバレ『愛と革命の詩』

『愛と革命の詩-アンドレア・シェニエ-』について、つらつら考えている。手堅くまとまっていて、判りやすい構成になっているのだが、どうにも主題が読み取りにくい。

特設サイトの【演出家・植田景子による見どころ紹介】で、タイトルの由来は以下のように紹介されおり、植田景子氏は、『“不安定な社会の中でいかに生きるか?”、“愛こそ希望”という想いが伝えられる作品になれば』と述べている。つまりこのタイトルと「愛こそ希望」に主題が込められているのだろう。

を求めるマッダレーナ(蘭乃はな)。
革命に燃えるジェラール(明日海りお)。
に生きるアンドレア・シェニエ(蘭寿とむ)。
フランス大革命という激動の時代、その中で、真実の、人間の平等、そして魂の自由を追求する三人の物語。

【★警告★深読み★ネタバレ★

しかし、ストーリーの構成が、この『愛と革命の詩』というタイトルに込められた意図が伝わる作品になっているか、というと、ちょっと首をかしげる。

本作は、フランス革命という歴史的な事件によって引き起こされた人間模様を描くという、群像劇っぽい作りになっている。登場人物が多いためか、個々の心理描写は少なく、観る側は、演者の表情とセリフ、行動によって、その心中を推し量るしかない。

この物語の方向性(演出家の意図と言って良い)は、「善」、「光」の象徴であるAngel White(白い天使)@冴月 瑠那が、アンドレア・シェニア@蘭寿とむに寄り添い、「悪」、「影」の象徴であるAngel Black(黒い天使)@柚香 光が、カルロ・ジェラール@明日海りおに近づくことで示される。この天使の存在と天使の羽を象った舞台装置のため、舞台全体に寓話めいた印象を持ってしまう。寓話というのは、教訓的な諭しが込められたもので、物語の中で、善と悪、正義と不正義の価値判断がなされる。

だが、「愛こそ希望」という命題は、教訓ではないし、「善」と「悪」という価値判断が必要なものでもない。本作の意図は、不安定な社会の中で、「自由、平等、友愛」を求めて、生きている人々を善悪で断罪するものではないはず。人々は、不安定な社会の中で、生きのびるために、信念を持つが故に、行動している。「長いものに巻かれろ」と歌う市民や、大衆受けする作品で儲けるマリー=ジョゼフ@華形 ひかる、ジャコバン党に刃向かうものを検挙するジュール・モラン@春風 弥里。彼らは、「悪」なのだろうか。

天使が、「善」と「悪」を表象しているという設定は、本作のねらいである「愛こそ希望」とは相容れない気がして、どうにも、すっきりしない。天使が、「光」と「影」だけの象徴だったら、まだ理解できる。「影」=「悪」ではないからね。

それに、「愛こそ希望」だが、アンドレア・シェニア@蘭寿とむとマッダレーナ@蘭乃はなが、手に手を取って向かう先は断頭台だし、ジェラール@明日海りおは、かなりかなーり救われない境遇で終わるし、真面目に解読してみると、悲しすぎる。本作は人を見る視線が柔らかくて、しっとり感があふれた世界観が素敵なので、余計につらい。

パンジュ侯爵@望海 風斗が後世に伝えようとする、アンドレア・シェニエの詩が、シェニエとマッダレーナの愛が生み出した希望となって輝いていることと信じたい。