[Zuka] 2013年宙組『うたかたの恋』

宙組全国ツアー演目で、ミュージカルとレビューの2本立て。完璧、素晴らしい!!レビューは、『モンテ・クリスト伯』の時に上演された『Amour de 99!!-99年の愛-』だが、本公演より演者数が少ない全国ツアー用に細かな変更がなされていた。5人の演出家の写真もカット。相変わらず素敵なレビューで、大好きな演目です。

クロード・アネによる小説『うたかたの恋』(原題:Mayerling)は、宝塚歌劇における定番『エリザベート』のエリザベート皇后の息子ルドルフを主役にした恋物語である。この物語は、実際に起きた、オーストリア=ハンガリー帝国のルドルフ皇太子とマリー・ヴェッツェラ男爵令嬢との心中事件をモデルに描かれている。この心中事件については暗殺説など諸説あるようだが、小説・映画・宝塚版はすべて、ルドルフとマリーの情死として描いている。

幕が上がると、ハプスブルク家の紋章である双頭の鷲が描かれたタペストリーをバックに、ルドルフを演じる凰稀かなめとマリー・ヴェッツェラ役の実咲凜音が現れる。ルドルフ@凰稀が、マリー@実咲に向かい、「月曜日にマイヤーリンクに狩りに行こう」と誘う。マリー@実咲はこぼれるような笑顔で「明後日でございますね!」と答える。

そして、白い軍服のルドルフ@凰稀と白いドレスのマリー@実咲は、幸せそうに「はかなくも美しい 束の間の恋 うたかたの恋」と歌い始める。凰稀かなめのアルトと実咲凜音のソプラノが美しく調和する。歌い終わると2人は向き合う。背景がライトで真っ赤に染まり、暗転。響き渡る銃声。

出だしから、結末は見えている、見えているのだ。胸が苦しくなる。

孤独に苦しむ皇太子ルドルフ@凰稀が、ようやく手に入れたマリー@実咲という小さな安寧。その恋を失うまいと、死を選んだ2人。物語は、悲劇に向かってひた走る。

“うたかた”とは、すぐに消えてしまう泡を言う。”泡のように儚い恋”と歌いながら、その恋に殉じて死を選ぶ。「生きて恋してこそ美しい」と知っているのに、2人から目が離せなくなっていく。

そして場面は、1889年1月26日、ドイツ大使館でのパーティに切り替わる。名士と貴婦人たちが華やかに踊る中に、ルドルフ皇太子@凰稀の姿が見えず、貴婦人達が噂する。ヨゼフ皇帝@悠未 ひろとエリザベート皇后@美穂圭子は不安気に座っている。ようやく現れたルドルフ皇太子@凰稀は、妻のステファニー皇太子妃@伶美うららに目もくれず、マリー・ヴェッツェラ@実咲をダンスに誘う。

ここで、ルドルフの従兄弟のジャン・サルヴァドル大公@朝夏まなとが登場し、「この時、2人はすでに死を決意していたのだろう」とここから回想になることを示す。

ハプスブルク家の御曹司であり、オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子であるルドルフ@凰稀は、父ヨゼフ皇帝@悠未とはソリがあわず、母エリザベート皇后@美穂は、不在がちで、会いたくても会えないことが多い。政略結婚したベルギー王女ステファニー@伶美うららとの仲は冷え切っており、彼が心を開ける者は、従兄弟のジャン・サルヴァドル大公@朝夏だけだった。だが、彼にはミリー@すみれ乃 麗という恋人がおり、2人でふらりと南の島に旅に出そうなくらい、自由気ままに生きている。

ルドルフ@凰稀は、ジャン・サルヴァドル@朝夏と一緒に、自由主義を標榜する若者達と語らうことを好み、立憲民主制を望んでいた。ヨゼフ皇帝@悠未ひろとフリードリヒ官房長官@緒月遠麻は、そんな皇太子を好ましく思わず、ルドルフ@凰稀を追い詰めていく。凰稀かなめは、ほんのわずかな仕草と憂いを秘めた表情で、皇太子ルドルフを襲う虚無感と絶望感を余すことなく表現する。

自分のデスクの上に、常にドクロの置物とピストルを置き、死を見つめるルドルフ@凰稀。

ルドルフ@凰稀は、多くの女性と浮き名を流すが、”自分から、「皇太子」の地位を、「ハプスブルク家」を、取り去ると何が残るのだろう”。そんな気持ちが、彼を襲わなかったとは言えない。 そんなルドルフに対して、無邪気な憧れを寄せ、清らかな笑顔で「ルドルフ」と呼ぶマリー@実咲は、彼が得たたった一つの宝物だったような気がする。

ルドルフ@凰稀は、マリー@実咲と正式に結婚することを望み、ローマ教皇にステファニー皇太子妃との離婚を願う手紙を送る。ローマ教皇は離婚を認めず、ルドルフ@凰稀の願いは、ヨゼフ皇帝@悠未の知ることとなる。オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子とベルギー王女との婚姻は、高度に国際的な政治問題であり、その無効を願うことは、結婚を進めた皇帝の顔に泥を塗ることになる。ヨゼフ皇帝@悠未は、マリー@実咲を修道院に送り、幽閉することを決意する。

場面はドイツ大使館で開かれたパーティに戻る。白い軍服を着た皇太子ルドルフ@凰稀が、薄いピンクのドレスを身にまとったマリー@実咲にダンスの相手を申し込む。マリー@実咲は、はにかみつつ、それでも当然のように、差し出されたルドルフの手に、自らの手を重ね、2人は踊り始める。死を覚悟した達観と昂揚が、踊る2人を夢のように美しく、清らかに見せる。

エリザベート皇后@美穂は、夫ヨゼフ皇帝@悠未に引き裂かれようとしている恋人同士を痛々しく見つめる。ヨゼフ皇帝@悠未は、ルドルフ@凰稀にマリー@実咲を紹介され、「それだけ美しければ、今後どのような将来も望めように」と呟き、良心の呵責に耐えかねて席を外す。

皇帝に紹介された後も、マリー@実咲は、可憐であり、控えめな態度を崩さない。だが睨みつけるステファニー皇太子妃@伶美を、穏やかに見返すマリー@実咲には、愛する人に愛されているという自信がみなぎっていた。

この4日後の1989年1月30日、2人はマイヤーリンクの別荘で、心中を遂げる。享年、オーストリア皇太子ルドルフ30歳、マリー・ヴェッツェラ17歳。

2人の死後、マイヤーリンクの地に立つジャン・サルヴァドル大公@朝夏とミリー@すみれ乃は、ルドルフとマリーの分も生きていくことを誓う。

あまりにも、宙組トップコンビの演技が素晴らしく、切ない故に、最後にジャン・サルヴァドル大公とミリ-が睦まじく寄り添う姿が、悲劇の中の唯一の救いとなった。

このような悲劇は、物語の中だからこそ、心に響く。「生きて恋してこそ美しい」。本当にそう思わずにはいられない。

■主演・・・凰稀 かなめ、実咲 凜音

ミュージカル・ロマン『うたかたの恋』
原作/クロード・アネ 脚本/柴田 侑宏 演出/中村 暁
<全国ツアー公演 公演期間:7月19日(金)~8月11日(日)

 レビュー・ルネッサンス『Amour de 99!!-99年の愛-』
作・演出/藤井 大介

(7月20日(土)梅田芸術劇場メインホールにて観劇)

【身もふたもない事実】(文字色変更) 調べていると、ルドルフは死の前日に、高級娼婦と一夜を共にして、彼女に財産を譲渡する遺言を残していたとか、ステファニー皇太子妃はルドルフから性病(性行為感染症)をうつされたために不妊になり、再婚しても子どもは出来なかったとかという、身もふたもない事実を知ってしまった。よい子の皆さんは、「うたかたの恋」は、儚い夢だと思って、STD(性行為感染症)に気をつけましょう。子宮頸がんは、皮膚や粘膜の接触=性行為によるヒトパピローマウイルス (HPV) の感染が元で、発症するんだよ!