[Zuka] 星組『ロックオペラモーツァルト』(5)終 宿命のライバル

フレンチ・ミュージカル『ロックオペラ モーツァルト』

The Musical ≪Mozart, l’opera rock≫
Produced by WAM PRODUCTIONS
International Licensing & Booking, G.L.O, Guillaume Lagorce, info@glorganisation.com
潤色・演出/石田 昌也

『ロックオペラモーツァルト』はお衣装がほんと素敵で。舞空ちゃん(舞空瞳)のコンスタンツェが着ている花があしらわれた白基調のドレスとか、なっちゃん(白妙なつ)のオランジュ皇妃のヘッドドレスと白いドレス、あんるちゃん(夢妃杏瑠)のマダム・カヴァリエリの喪服?黒いドレスとかどれも現代風の軽やかなテイストを取り入れながら、豪華で品がいい。

設定と役柄に合わせて作っている、万里組長のアンナ・マリアやはるこちゃん(音波みのり)のセシリアの髪型(カツラ)も見ていて楽しい。お衣装は有村淳先生。BEST STAGE 2020年02月号に有村先生のロングインタビューが掲載されています。

ル・サンク特別編集『ロックオペラモーツァルト』
ル・サンク特別編集『ロックオペラモーツァルト』表紙


敵か味方か サリエリ

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(礼真琴)の前に大きく立ちはだかるのは、ミュージカル『M!』で、神聖ローマ帝国のザルツブルクのコロレド大司教(輝咲玲央)、映画『アマデウス』ではイタリア人音楽家でオーストリアの宮廷楽長となったアントニオ・サリエリ(凪七瑠海)。

『M!』では山口祐一郎演じるコロレド大司教の存在が巨大な壁となり、ヴォルフガングはその壁にバンバンぶち上がって立ち上がれなくなってしまうという印象がある。山口さんのコロレド猊下の巨大さというのは半端なものではなくて、始めて観劇した時は気持ち悪くなるくらいの(褒めてます)生々しさに彩られていた(褒めてます)。

『ロックオペラモーツァルト』では髭のイケオジ専科の輝咲玲央が演じるコロレド大司教は、『M!』ほど大きな壁としては描かれておらず、1幕ではモーツァルトを解雇して放逐するのがメイン。2幕でコロレド大司教と色っぽい愛人(彩園ひな)といちゃついているのはローゼンベルグ支配人(紫藤りゅう)がサリエリ(凪七瑠海)にコロレド大司教との癒着を問いただされる場面。

ちなみに本作で、ひろ香祐演じるヨーゼフ2世は、仏オリジナルではカウチで愛人とラブラブしながら登場し、仏オリジナル独特の軽さを出す。宝塚版ではセクシャルな場面はカットされ、侍従(咲城けい)の長い先触れを止めちゃう真面目で鷹揚な皇帝。

サリエリは1幕のプロローグで登場。プロローグで本作でのモーツァルトに対するのはサリエリだよって宣言して、次の登場場面は2幕。サリエリはモーツァルトに対する悪役(悪人)か敵役(ライバル)というと、本作では混在している。

サリエリの差し金で、コンスタンツェ(舞空瞳)との結婚を促しに来たセシリア(音波みのり)の後見人とヴォルフに鎮魂歌(レクイエム)の依頼を行った黒衣の訪問人は本作では同一人物の”後見人”(桃堂純)として描かれる。

仏オリジナルでの後見人は白い巻毛カツラの貴族風の男で、鎮魂歌を依頼した黒衣の訪問人とは別の人物である。宝塚版では、黒衣の訪問人をサリエリの差し金の後見人とすることで、サリエリがヴォルフに死の使いを差し向けたような印象を与える演出がなされている。

憔悴したヴォルフに「君は音楽を愛する仲間じゃないか」「笑ってるほうがいい」と言われ、ラストで「運命のライバル」と歌うサリエリ。

だけど、嫌がらせに奔走して死の使いを差し向け、殺人交響曲(殺しのシンフォニー)を歌うサリエリが、ライバル(好敵手)というのも複雑性が高いデスよね。確かに史実ではベートーベンやシューベルトを育てた音楽家だけれど、モーツァルト相手になると嫉妬深い陰謀家として語られてしまうアントニオ・サリエリ。カチャ(凪七)さんはなんだか厄介な役が続いているような気がしますが、専科さんだからでしょうか。お疲れさまでした。

細かいことまで突き詰めて考えると演じ切るのが難しくなるときも往々にしてあるんだろうなと推察します。

コンスタンツェ(舞空瞳)のことを書かなかったけれど、舞空ちゃんはできる娘役さんだと思います。楽しみだ。

やっと終わり。