[Zuka] 星組バウ『龍の宮物語』(2)

龍の宮物語 上演時間

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『歌劇』11月号の『龍の宮物語』の鼎談を読んでいたら、

指田:(略)瀬央さんってとにかくパワフルと言うか、HPがすごくある方なので、そのHPを今回は削ぎたいな(笑)。

ということで、本作は瀬央ゆりあを「ヘロヘロに」、「ボロボロに」するための作品であるらしいのです。そうか、それであのラストなのかと腑に落ちたのです。

物悲しいを通り越して虚無でした虚無。
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(あらすじ的な物語のさわり)

伊予部清彦(瀬央ゆりあ)は徹底的に喪失したのです、失ったのです。

清彦は、夜叉ケ池の奥底にある龍神の城・龍の宮で数日、過ごした後に地上に帰りました。そして地上では30年の月日が経っていることを知るのです。

清彦の時間は数日しか経っていないのですが、地上では明治天皇崩御(1912年)により大正が始まり、関東大震災(1923年9月1日)で大勢の人が亡くなり、そして大正天皇崩御(1926年)で、昭和の世になっていました。

清彦は書生として勤めていた島村家に赴き、そこで密かに恋心を抱いていた島村家の令嬢・百合子(水乃ゆり)に再会します。ところが百合子の顔をした娘は清彦を知らないのです。娘は百合子の娘・雪子(水乃ゆり・二役)でした。老いず姿形が変わらない清彦が、同じく老いてない百合子に再会できたと思ったのも束の間でした。

清彦が失った30年という時間。それは何を引き起こしたのでしょう。

島村家に書生仲間の姿はなく、清彦は自分の生きていた現実に戻れません。社会の人間関係の中で生かされていた書生の伊予部清彦という存在は社会的には死んだも同然となったのです。

清彦にとって唯一確かな実在は、龍の宮に住まう龍神の姫・玉姫(有沙瞳)から「再び会いたければ開けるな」と言われて手渡された小箱だけでした。夜叉ヶ池の底にあるという龍の宮で過ごした思い出が清彦の拠り所となります。

清彦はいつも物思いにふけっていた美しい玉姫に心を掴まれたまま、実体のない幽霊のように街を彷徨うのでした。

これが一幕の終わりと二幕の始まりくらい。

ここから更に清彦はボロボロに失っていくのです。

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『歌劇』11月号の鼎談で、指田先生に「ボロボロになるの好きです」、「ゾクゾクする」という返事を返す、なおみちゃん(瀬央)に、マゾですか、と思いながら読みました。

『25ans』1月号[公式サイト]で、「いつも周囲を笑いで包んでいる」と書かれ、「何があっても楽しんでやろうという気持ちが基本にあるんです」と返す、瀬央。この返事もその楽しんでやろう精神から出てるんでしょう。

瀬央が過去に演じた役は権力者や強者が多く、演じるのにものすごいエネルギーを投じていました。男役の場合、男役スイッチが入ると切り替わるというパターンが多いですが、瀬央は気遣いで不器用な人なので、切り替えるのに莫大なパワーを費やしていそう。

過去の舞台写真を見てみると、その姿にはエネルギーを注ぎ込み過ぎの力みや気負いも感じられる。それがHPがあると言われる理由なのかもと思いました。なので見栄をはらず、力みなく自分に正直に生きていた清彦さんの造形は今の瀬央にはちょうどいいのかもなと観劇して思いました。ボロボロになってHPを削って新境地を開いてほしい。でございます。

ネタバレを気にしている。12/9が千秋楽ですね。(3)に続く。