[stage] 『レベッカ』(1)

ミヒャエル・クンツェ&シルヴェスター・リーヴァイのコンビによる『レベッカ』は8年ぶり、3度目の日本上演。シアタークリエ開場10周年記念公演だそう。

ダフニ・デュ・モーリエの小説『レベッカ』原作のロマンティック・ミステリー。同小説を原作にヒッチコック監督によるサスペンス映画『レベッカ』(1940年)が制作されている。『エリザベート』・『モーツァルト! 』・『レディ・ベス 』などのクンツェ&リーヴァイの作品にしては物語は小粒に感じて、どちらかというとキャストの歌とお芝居で作品を堪能した。

つらつら書いていたら長くなったので2回に分けました。

__

ヒロインの「わたし」はトリプル・キャスト(大塚千弘/平野綾/桜井玲香)、主要人物のダンヴァース夫人がWキャスト(涼風真世/保坂知寿)で、大阪公演初日12月20日(木)18時公演での観劇は、「わたし」はミュージカル初挑戦という乃木坂46のキャプテン・桜井玲香、ダンヴァース夫人が涼風真世

ヒロインの「わたし」(桜井玲香)は、付き添い契約をしていたヴァン・ホッパー夫人(森公美子)について出向いた保養地モンテ・カルロで、イギリス人資産家のマキシム・ド・ウィンター(山口祐一郎)に出会う。

マキシムは1年前にヨットの事故で前妻のレベッカを亡くして独身であり、ホテルの宿泊客ではその噂でもちきり。ヴァン・ホッパー夫人もマキシムの目に留まりたい一人であった。

「わたし」は、ヴァン・ホッパー夫人が風邪で寝込んでいる間に、マキシムに誘われて海辺で時間を過ごすようになり、2人は惹かれ合う。ところが急にヴァン・ホッパー夫人がN.Y.に帰る言い出した。マキシムは「わたし」に結婚して彼の大邸宅があるマンダレイに来るように誘う。

「わたし」はびっくりしながらも夢中でプロポーズを受けるが、ヴァン・ホッパー夫人は、マンダレイの完璧な女主人であったレベッカに敵うはずがないと言い放つのであった。

__

「わたし」は身寄りがなく、これといった資産もない。上流階級のヴァン・ホッパー夫人からはマナーもなにも判ってないと言われており、背中を少しかがめながら、おどおどした自信なげな様子で歩く。シャツとスカートにカーディガンを羽織った服装も野暮ったい。桜井さんは小柄で華奢でそういう様子でいると心細さが伝わってくる。ただそんな衣装と居方でもヒロインとして存在できる力があって、歌声も澄んでいて美しかった。カーテンコールでは、海外ミュージカル初挑戦で、これからも頑張っていきたいと挨拶されていましたが、記念すべき初日に立ち会えて儲けものでした(たまたま抽選であたったんだけれどね)。ややギクシャクしているかなぁと思ったりもしたけれど、そういう役でもあるので、熟れればもっと進化していくんでしょう。

マキシム役の山口さんは身長186cmで、155cmの桜井さんの「わたし」と寄り添うと身長差がすごく、年の差カップルで「わたし」がマキシムに相手にされていないと思っていそうな儚げな感じが出ていた。

ヴァン・ホッパー夫人役の森さんは相変わらず押し出しがすごかった。その強烈な個性ゆえに、何の役を見ても「森公美子はすごかった」という感想になってしまうのだけれど、作品のスパイスとして貴重な存在である。「わたし」にあたりがキツくて、マキシムの保護欲をそそったのではないかと思った。

__

マンダレイでは使用人たちが主人と新しい女主人の到着を待っていた。前ド・ウィンター夫人であったレベッカは贅沢で華やかであった。新しい奥様はどんな女性か。

家政婦頭のダンヴァース夫人(涼風真世)は、レベッカに子どもの頃から使え、彼女の結婚とともにマンダレイに来た。執事のフリス(朝隈濯朗)よりも権限を持つダンヴァース夫人はレベッカが亡くなって1年経った今も屋敷をレベッカの指示通りに整え、レベッカの愛用品はいつでも使えるように取り揃えている。モーニングルームには、レベッカの愛用した机と椅子、引き出しにはイニシャル入りの封筒と便箋、名刺がそのまま残され、レベッカの好んだ濃いピンクのカトレアが飾られている。「わたし」は、盲信的にレベッカを称揚し、絶対的な忠誠を示すダンヴァース夫人の威容に圧倒される。

ダンヴァース夫人の歌う『何者にも負けない』のナンバーが重厚なコーラスと重なって、ものすごいパワーで迫ってくる。これだけで「レベッカってどんなひと?ダンヴァース夫人があれだけ崇拝するのだから、すごいひとね!」みたいな説得力がある。そしてこのナンバーで一気にサスペンスフルな展開に持っていってしまう。世界が変わった。

涼風さんの黒いドレス姿のダンヴァース夫人はしなやかで蠱惑的な魅力があり、母的なイメージがある映画のダンヴァース夫人とは異なる印象で、レベッカへの狂気じみた思慕を感じさせる。

★ネタバレ★

タイトルロールのレベッカ。肖像画の顔はカーテンで隠れ、人となりは生前を知っている者の証言でしか知ることは出来ない。個人的なイメージは性的に奔放だが、教養のある社交的で活発な女性で、実は夫のマキシムのことを深く愛していたのではないかとも思える。彼女はレベッカの威を借りて、マキシムを押さえつけていたであろうダンヴァース夫人をどう思っていたのか。亡きレベッカにキャストすべてが振り回されるという作品だけれど、レベッカがもし「わたし」に会ったら、マキシムをよろしくね、くらい言ったかもしれない。そんなことを考えたりする

ダンヴァース夫人は亡きレベッカの乳母だったが、マキシムにとっては使用人の家政婦頭なので、新しいド・ウィンター夫人の機嫌を損ねたら解雇もありえる。だから追い出したいのかなぁとか理性的に考えちゃったりすると、作品を見る目があやしくなってしまうので、おとなしく受け身で見るが勝ちでした。

ダンヴァース夫人の断末魔の高笑いは必要なのか。映画と違って表情のアップが出来ないので高笑いなのか。ちょっと唐突でびっくりしました。

__

「わたし」:大塚千弘/平野綾/桜井玲香
マキシム・ド・ウィンター:山口祐一郎
ダンヴァース夫人:涼風真世/保坂知寿
フランク・クロウリー:石川禅
ジャック・ファヴェル:吉野圭吾
ベン:tekkan
ジュリアン大佐:今拓哉
ジャイルズ:KENTARO
ベアトリス:出雲綾
ヴァン・ホッパー夫人:森公美子

脚本/歌詞:ミヒャエル・クンツェ
音楽/編曲:シルヴェスター・リーヴァイ
原作:ダフネ・デュ・モーリア
演出:山田和也