[stage] NAPPOS PRODUCE『グッド・バイ』

6月21日~7月1日までポケットスクエア  ザ・ポケット(東京・中野)で上演されているNAPPOS PRODUCE『グッド・バイ』の23日(土)18時公演を観劇してきました。チケットは普通にぴあで買ったよ。観に行けたのは、3つくらいの予定と抱き合わせにできたからでラッキーでした。遠征は減らしたい気持ちとこれは観たい気持ちの相克💦

演劇集団『悪い芝居』の山崎彬さんが脚本・演出、池下重大さんと大空ゆうひさんがダブル主演。お目当ては当然、ゆうひさん。現役中の舞台は生では観ておらず、映像で見てからの追っかけです。最近は現役の七海ひろき優先になっておりますが、退団後の表現者・大空ゆうひの舞台は可能な限り、観たいものの一つです。

観たものメモ

感想を書いてないだけで、意外に観ていましたが、東京公演のみのものと星組公演とバッティングする場合は観れてない。退団後のゆうひさんの舞台は自分自身のための、思索を深めていく過程を、観客にも見せてくれているような気がしていて、だから出演作も割と選んでいるんじゃないか(と思っている)。

  • 『上方花舞台』/国立文楽劇場(2013年1月) →感想(1)/ 感想(2)
  • 『唐版 滝の白糸』/シアターBRAVA!『(2013年12月)
  • 『新版 天守物語』/中之島フェスティバルホール(2014年2月)
  • 『La Vie – 彼女が描く、絵の世界』/梅芸DC(2014年8月)
  • 『Familia -4月25日誕生の日-』/兵芸阪急中ホール(2014年11月)
  • 『死と乙女』/シアタークリエ(2015年3月)
  • 『TABU タブー シーラッハ「禁忌」より』/兵芸阪急中ホール(2015年6月)
  • 『HEADS UP!』/兵芸阪急中ホール(2015年11月)
  • 『SHOW ル・リアン』/大阪サンケイホールブリーゼ(2016年4月)
  • 『冷蔵庫のうえの人生』/兵芸阪急中ホール(2016年6月)
  • 『円生と志ん生』/兵芸阪急中ホール(2017年10月)
  • 『人形の家』/兵芸阪急中ホール(2018年5月)

『グッド・バイ』

話を戻すと。太宰治の遺作となった『グッド・バイ』と太宰治の人生を重ね合わせて描いたという本作『グッド・バイ』。

題材を知ったときに読書家のゆうひさんが選びそうな作品だと思いました。私は太宰治作品は高校の頃に『人間失格』を読んだくらいで、舞台を観る前に付け焼き刃で『斜陽』を読みました。なるほど惹かれる文体。破滅型の世界観。しかし高校時代の私にはダメだったんだろうな。

舞台でのゆうひさんの登場は、遺稿『グッド・バイ』より、赤いドレスの永井キヌ子。雑誌「オベリスク」の編集長・田島周二(池下重大)が愛人達と別れるために、妻役を頼んだ「すごい美人」。

田島が料理屋へキヌ子を連れて行き、キヌ子のリクエストで店の自慢料理を全て頼むと、豪快に食べ出すキヌ子。「黙って話を聞け」「返事をしろ」という田島に矛盾しているわ、と言い返し、がっつくキヌ子。狼狽える田島と謎の女・キヌ子の対比が見事で、見入るねえ。料理は小道具かと思ったら、キヌ子が、焼き鳥の串を掴んで食いつき、とろろ?をすすり、コロッケかトンカツかに箸を突き刺してがぶっといったので受けました。ああ、永井キヌ子とは、こういう女よ。

美容師の青木(飛鳥凛)の店にキヌ子を連れて行って妻と紹介し、別れを告げる。「グッド・バイ」。青木に向かって怒り出し、髪を切るために肩に掛けられたケープを剥ぎ取って投げつけるキヌ子(*)。田島から成功報酬に財布を奪って去るキヌ子。赤いドレスのすごい女。

(*)私が観た回では、キヌ子(大空)が青木さん(飛鳥)めがけて投げたケープが、青木さんを飛び越えて、一列目のお客さんの所にストライク。客席と舞台がめっちゃ近い。田島(池下)が青木さんにペコペコ謝り、お客さんにも謝ってケープを回収していました。

場面が交差する。

太宰の自宅に居る妻・津島美知子(原田樹里)のもとを、太宰の秘書・太田静子(永楠あゆ美)が訪れる。原稿を管理する本妻と作品の進行をチェックし、読者の役目も果たす愛人。美知子は静子に優雅に微笑み、原稿を包んで手渡す。静子は、次回作『グッド・バイ』のことを美知子に告げる。その微妙な距離感。

うどん屋で知り合った愛人の山崎富栄(野本ほたる)と呑む太宰。美容師の富栄に『グッド・バイ』の青木は自分だと思わなかったか、と問う太宰。妻と秘書が原稿の管理をしている傍らで、愛人と飲み交わす太宰。

過去へ遡る。21歳の太宰は、18歳の女給・田部あつみ(飛鳥凛)と入水心中を図る。あつみは死に、太宰は生き残る。太宰は心中事件の翌年2月に最初の妻・小山初代(中西柚貴)と同居生活を始める。

太宰の不在の間、家を守る妻・美知子のもとに料理屋の店主(異儀田夏葉)と女将(荻窪えき)が訪れる。美知子は店主と女将に太宰はふらりと出かけていって帰ってこない日もあり、1か月くらい家を空ける事もあると告げる。猛り狂った店主は太宰が店の常連で必ず女連れで来ること、初回に来たときに10円支払い、その後はずっとツケで呑んでいて、それを取り立てに来たことを話す。それを聞いて、笑い転げる美知子。そして驚く2人に向き直り、平身低頭して、自分が働いて返すので、収めて欲しいと頼むのだった。

田島は酒を抱えて、キヌ子の部屋を訪れる。ボロボロ(というか短冊状の色とりどりの布を縫い付けた)寸胴のチュニック状の服(下にズボンもはいていた)を着たキヌ子がいた。口論するキヌ子と田島。

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以下はネタバレを含みます。

1幕は場面も時系列も交差し、断片的に場面場面が押し寄せる。ものすごい動的で流動的な舞台。ゆうひさんがアフタートークでも言っていた「ライブ感覚」。整理して書いてみると(ただし場面の順はこの通りだったか記憶不鮮明)、あの場面は太宰の生涯のこの出来事かと思うのだけれど、観ている間は、太宰が女たちを、女たちが太宰を、追い詰めていく。そんな会話と響き渡る効果音と暗転と照明の光に幻惑され続ける。待って、頭の中を整理したいんですけれど、と思ったら10分間の休憩だった。

キヌ子は舞台上でボロボロのチュニック状の服から黒シャツ黒パンツに着替え、化粧を落として津島になっていく。キヌ子からメタモルフォーゼした津島修治は、キヌ子と津島の連続性を感じさせる。2幕では大空ゆうひが、太宰の本名の津島修治役で幼少期から成人まで演じる。ただ声は地声で、髪の毛はロングヘアのままでの津島修治役。この場面は、太宰(=津島)の回想なのかもしれない。

母・夕子(異儀田夏葉)にも乳母・たね(荻窪えき)にも初恋のトキ(春山椋)にも早くに去られ、舞台の床の上で丸くなって独り眠る子どもの頃の津島。津島家の11人の子どものうちの10番目の子ども。それから成人し、机に向かって原稿用紙に文章を綴っていく津島。

そして太宰は、キヌ子が着ていたボロボロの服を着て、化粧をして現れる。キヌ子と太宰(=津島)、太宰と田島の連続性。

これは、作家の書いた作品に登場する人物はすべて作家の分身だと思うけれど、そういう解釈ではないのかな??ここは、考えても理屈づけは出来ないなぁ、そういうものだと思うしかと思って観ていました。

本作では、太宰治の女性遍歴や自殺願望、薬物依存の原因を幼少期の生育歴に求める。「幼い頃に母や初恋の人の愛を得られず、飢えたまま大人になったから、太宰は強く愛を求める」。

2幕もフラッシュバックのように、女たちとの場面が演じられる。アフタートークで池下さんが、「次は、〇〇か、うわ、次は〇〇って、女たちと夢中で戦っているようなものですよ」(うろ覚え)と本音を話されていたけれど、まさしくそんな印象で、太宰が、女たちに「生まれて、すみません」と土下座するに至っては、こんな骨身を削るような生き方は辛かろうとしか思えなかったが、「書くために恋愛をする」という作家の業病のようなものも背負っているのかもしれない。そしてそれを求める女たちもおり、相互依存的なものだったのだろうと思わざるを得ない。→『二十世紀旗手―(生れて、すみません。)』太宰治, 青空文庫

時代性もあるのだろう。津島修治(太宰治)が生まれたのは、明治42年(1909年)。その前後、明治27年(1894年)には日清戦争、明治37年(1904年)には日露戦争。大正3年(1914年)には第一次世界大戦開戦、大正12年(1923年)には関東大震災の発生。経済は混乱し、世情は不安定であった。

20代の津島の左翼崩れ、共産党シンパ活動をドロップアウトという経歴もこの時代の作家だなぁという感を強くする。双極性障害か依存性パーソナリティ障害か何らかの精神疾患があったのだろうし、治療は必要だったんだと思うが、まだ偏見の強い時代だった(『人間失格』で太宰は「脳病院」「狂人」「気違い」という言葉を用いている)。

太宰は、静子には欲しがっていた子ども(生)を与え、太宰と一緒に死ぬことを願う富栄と心中(死)を選ぶ。

その前に、妻・美知子が太宰の借金返済のために働いていた料理屋で、太宰を囲んで愛人達が顔を合わせるのだが(これは実際にあった出来事だと山崎さんがアフタートークで話されていた)、妻・美知子は愛人達に気を配り、挨拶する。太宰が最も大事にしていたのは、妻・美知子だったのだろう。その美知子を残し、太宰は富栄と腰を赤い紐で結び、玉川上水に飛び込み、心中に成功する。

「生まれて、すみません。」

この言葉が『グッド・バイ』を選ばせたという気がすごくした。正確にはこの言葉を選ぶ、太宰の自意識だ。自分がいないほうが、周りの女たちは安定を得る。そんな意識が垣間見える。津島修治(=田島周二)は永井キヌ子の力を借りて、愛人達と別れ、妻・美知子との幸せを望んでいたのかもしれないが、作家・太宰治はそれを許さなかった。そんな気もする。

くどくど書いてみたけれど、私は「太宰治」には愛がないので、分析・考察してみたという所にとどまるのですが。

ゆうひさんは、居方が難しい役だけれど、本能のまま飛び込むので正解なんだろうなと観ていて思いました。舞台に立てば、動けるだけの積み重ねがある。津島には小説にかける純真さを感じ、苦しんでも悩んでも書かざるを得ない業というものを、同じ表現者にはわかるんだろうと。それでね、Théâtre de Yûhiはどこへ行ったのかと。「第一弾」だったはずなのでお待ちしております。

主演のお二人の熱演も素晴らしかったですが、津島美知子の原田樹里さん、太田静子の永楠あゆ美さん(って、フレーゲル男爵役だった元宙組の月映樹茉さんなのですね)、山崎富栄の野本ほたるさんが三者三様で、印象に残りました。

中野駅についたら土砂降りで、方向音痴は迷って5分くらい遅刻しましたすいません。面白い舞台でした。ゆうひさん、ありがとう。

【参考】

【出演】

池下重大
大空ゆうひ
原田樹里(演劇集団キャラメルボックス)
永楠あゆ美
野本ほたる
飛鳥凛
中西柚貴(悪い芝居)
春山椋(丸福ボンバーズ)
荻窪えき(X-QUEST)
異儀田夏葉(KAKUTA)
【スタッフ】
原作:太宰治
脚本・演出:山崎 彬(悪い芝居)
音楽:岡田太郎(悪い芝居)
美術:土岐研一
照明:松本 永 (eimatsumoto Co.Ltd.)
音響:谷井貞仁(ステージオフィス)
衣裳:nonchi
ヘアメイク:西川直子
演出助手:藤嶋恵(悪い芝居)
舞台監督:今泉 馨(P.P.P.)
プロデューサー:仲村和生/北見奈々江
企画・製作・主催:NAPPOS UNITED/アプル