[Zuka] 月組『カンパニー』(3)終

月組『カンパニー/BADDY 』は5月6日(日)に大千秋楽を迎えました。おめでとうございます。

何を書こうかなぁって思ったんですが、『カンパニー/BADDY 』のことを考えながら、人って(私って)自己承認欲求と自己防衛本能と自尊心と見栄との戦いで毎日を生きているのねと、しみじみしました。ヅカファンは、絶えることなく、自己の価値観を認識する機会(舞台)を供給されるという、ほんと良い環境ですね。しみじみ。

『カンパニー』と『BADDY 』、私にとっては両方ともノイズの多い日常のような、雑然とした、でもとても大切な事を描いている2本立てでした。ノイズだらけだと逆に

見たいものしか見ない

っていう気分になりますよね(私だけかい)。

Le CINQにカンパニーの脚本を入れて欲しかったなぁ。完全に公演写真集と化している。仕方が無いのでブルーレイを流して確認をしたりしているわけです。

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[Zuka] 月組『カンパニー』(2)
[Zuka] 月組『カンパニー』(1)

『カンパニー』は初っぱなからこれ↓でした。

電車の中でスリに遭った高崎美波(愛希れいか)の叫び声を聞いて、青柳誠二(珠城りょう)は2人組のスリを追いかけようとして殴られます。そしてひとこと。

「売られたケンカは買わない主義だが、殴ってくれてありがとう。正当防衛が成立する」。

おや、文脈の意味が成立していないような?
「売られたケンカは買わない主義だが、スリ相手(犯罪者)とあらばやむを得ない」とかじゃないんでしょうか。

そして「正当防衛が成立する」と青柳さんはやけにキッパリと言い切りますが、武道有段者による反撃は正当防衛と過剰防衛のボーダーラインが一般人より上がるんですよね。青柳さんはスリ1(優ひかる)には2発くらいくらわせ、スリ2(佳城 葵)を押さえ込んでましたが、ケガなどを負わせてないですよね(どきどき)。

駆けつけてきた駅員(晴海ゆう)が柔道部の後輩だったということもあって、「警察の事情聴取なら後にしてくれ。今日は大切な会議があるんだ」と颯爽とその場を後にし、「知美、今日も1日がんばるよ」と朝から活性化して会社に向かう青柳さん。※この時点で「知美」の正体は不明(後に2年前に亡くなった奥様と判明)。

なんだかやたらカッコいいですよ、そりゃ月組トップスターたまきさんだからね。違います。「心を閉ざした」「生きがいを失った」サラリーマンの青柳さんです、あれ?

話の筋がだいたい見えてから思いました。

大劇場公演では、たまきさんが懸命に青柳誠二が抱える妻を喪った傷みや会社から戦力外通告を受けた心のひだを表現しようとするのを見ていたが、いかんせん設定がね、柔道空手書道合わせて10段の、有名製薬会社30代総務課長って、強すぎじゃないですか。原作にはない設定なので宝塚化のためだろうと思われますが、青柳さんの設定と物語での役柄が合ってないです。タカラジェンヌ珠城りょうから自然と滲み出るノーブルさを取り去ろうったって無理なんだから、巻き添えでリストラになりバレエ団に出向サラリーマンではなく、バレエ団の立て直しを命じられた有能サラリーマンにしてしまえば良かったのに。

脚本にちょいちょいノイズがあるんですよね。とはいえ、『カンパニー』は登場人物が、理性的に行動し、仲間の助けを受けながら自分と戦いながら懸命に生きる、きれいな物語でした。

ニッポンのサラリーマン

会社から今までの役割を外され、バレエ団に出向になった青柳さんと瀬川由衣(海乃美月)は、戸惑いながらも、バレエに打ち込む人達の中に混ざり、誠実に自分の出来ることを果たそうと、目の前のミッションに食らいついていく。それは与えられた演目に食らいついていく出演者(月組子+専科)の姿と重なる。

「サラリーマン」というのは和製英語である。辞書的には「給料で生活する人。月給取り。勤め人」であり、日本人の雇用者(正規・非正規)の約8割はサラリーマンである。※詳細な雇用形態や男女比等を考えるとややこしくなるが→図8 雇用形態別雇用者数

「終身雇用・月給制のサラリーマン」という形態は、組織から永続的・定期的に給料(所得)を得る代わりに組織ルールに縛られる者=宮仕え、企業戦士、社畜などという自嘲を伴うイメージを作り上げた。舞台でも高野が、青柳に「あんたはもう総務課のイエスマンじゃないんだ」と言っているが、「サラリーマン」は上層部からの指示には従うものなのである。

また「終身雇用・月給制のサラリーマン」という日本の慣行は、経済成長の停滞の中で、「能力のないサラリーマンでも会社に居座れる」という批判を生み、能力主義・成果主義を推進する傾向や派遣・請負・契約などの雇用形態の細分化につながった。

そんなニッポンの日常が、『カンパニー』の背景にはあるのだが、リストラされたはずの青柳さんはカッコよすぎだった。そりゃバレエ団員が化粧バッチリでお待ちするよね。大塚三朗(紫門ゆりや)や山田正芳(輝月ゆうま)もなんだか洗練されてるし、青柳さんを見守る有明製薬社長の有明清治郎(綾月せり)は厳しくも優しく器が大きい。唯一の悪役になるんだろうけれど口がちょっと?悪いだけで、青柳さんに対する言動は割とまともな(インサイダー取引はアウトですが)、専務・脇坂 英一(光月るう)。みんな、さすがタカラヅカ製のサラリーマン。

実はタカラジェンヌもサラリーマンである(終身雇用制ではない)。サラリーマンでありながら、芸の道を歩むというのは、時として二律背反的な苦悩もあろうし、自分の時間も思うままにはならぬことも多いだろう。それでもタカラジェンヌであることは幸運なことであり、社会的に貢献できる仕事を持つ、社会的な役割を担えるということはとても幸福なことである、と彼女たちは自らをフェアリーを任じて夢を作り出す。

終わりのない芸の道、少しでも良い舞台を届けようと、稽古を重ねれば、つい、時間も過ぎてしまう。ストイックに役へ向き合うタイプなら、なおさらだ。
タカラジェンヌにも働き方改革、効率的な稽古必要に

(日刊スポーツ、2018年4月29日)

フェアリー達のカンパニー

舞台『カンパニー』でフェアリーの役目を演じるのは、バレリーナたち。世界的プリンシパル高野悠(美弥るりか)、敷島瑞穂舞踊研究所に属するバレリーナ高崎美波(愛希れいか)、プリマドンナ有明紗良(早乙女わかば)、長谷山蒼太(暁千星)、黒川 杏(白雪 さち花)ら。肉体を使ったポエムであるバレエを突き詰める者達。現実の波に抗い、もがきながらも、踊ることを止めず、夢を追う。観客の憧れの存在。美しき白鳥たち。

研究所の所長である敷島瑞穂(京三紗)とその秘書・田中乃亜(憧花ゆりの)は、バレリーナであり、研究所の経営者であり、舞台を作る者として彼らを支える。若きトップを支えるのは芝居巧者達。セリフのトーンや間を変えるだけで、観客の笑いを誘う。

”カンパニー”

高野悠は、ショービジネスの世界に疎い青柳に告げる。

「俺たちの仕事は観客に愛されることだ。舞台は総合芸術でワンマンショーじゃない。観客も含めたカンパニー」だ。

お客様も仲間、カンパニー。

『カンパニー』では「観客役」は出て来ない。大劇場の座席に座っている観客そのものが”カンパニー”。こんな場面を、All for one, One for all の月組で見せてくれるとは石田先生は太っ腹。

有明製薬にはもう一人、フェアリーがいた。美少女ランナー・マイマイこと鈴木舞(美園さくら)。オリンピックを目指しているのにピン芸人・間内澄人(千海華蘭)との間に赤ちゃんができてしまう。夢を作り出すフェアリーからの離脱。

トレーナーを務めるユイユイこと瀬川由衣(海乃美月)は、社員のいる休憩所?で二人を詰める。第三者のいるところで2人に会ったのは確かに軽率だと思うよ、ユイユイ。大事な大事なマイマイに手を出された怒りのほども判るけれど、せめて人のいない時を選ぶとか、会議室にしたほうがいいんじゃ(守秘義務というものがね)。そして、すでに赤ちゃんを守ると決めてしまったマイマイに太刀打ちできるユイユイではないのだ。

千海華蘭の造形した間内澄人が、原作と異なる造形で、不器用だけれど暖かみのあるピン芸人。売れて欲しいけれど、売れてなさそうな手に汗握る感があるw。そういう人物像の作り方にもタカラヅカを感じる。

マイマイと間内くんは、よく見るとフラッシュ・モブの夏祭りにもいて、公演打ち上げパーティーにもいる。夏祭りではマイマイはお腹が大きくなっいて、パーティーでは赤ちゃんを抱いている。有明製薬の人は、2人を呼んであげるんだね。優しい企業に優しいサラリーマンたち(大塚先輩と山田くんの仕業か)。

野蛮人(バーバリアン)との遭遇

ボーカル&ダンスユニット・バーバリアンは野蛮人。

水上 那由多(月城かなと)は、”イエスマンな大人になりたくない”と歌い、阿久津仁(宇月颯)は、”指示待ち人間なんてまっぴらごめん”と歌い継ぐ。

サラリーマンが健在だからこそのニッポン社会。その道を選ばない者達。野蛮人達の武器は反骨精神と突破精神。バレエにだって参入してみせると、バレエに命を削る高野とぶつかり合う。

それをブレイクスルーするのが、私の仕事です、と決意を固めるサラリーマン青柳さん。『カンパニー』は異種格闘技戦でした。フラッシュモブはまさしくそんな場面だった。

原作で好きな箇所が、那由多が「白鳥の湖」のタイトルから、バレエの文字が消えて舞踊劇と銘打たれたのを、「僕の力が不足で…バレエの人たちなら普通にやれることができないから舞踊劇になったんすか?」と気にするのに対して、高野が「どう呼ばれても結構。もう、いい。俺が踊ればバレエだ」と言い切る所。

「俺が踊ればバレエだ」

かっっこいいいい。美弥るりかの高野 悠に言ってもらいたかった。

『カンパニー』はバレエ物語ではなく、宝塚歌劇。

サラリーマン物語でも、タカラジェンヌが演じれば宝塚歌劇。

結局はそこに行き着く。どんな作品でも、宝塚歌劇になるのはタカラジェンヌが演じるからこそ。だからこそ、タカラジェンヌはタカラジェンヌたらんと日夜汗水を流して精進する。優雅に見える白鳥も水面下で必死に水をかいている。

努力(レッスン)、情熱(パッション)、そして仲間たち(カンパニー)。

いつも夢と希望を、ありがとう。

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阿久津+那由多に貴澄 隼人、夢奈瑠音、蓮 つかさ、輝生かなで、英かおとのバーバリアンメンバーのポスターが発売されて良かった。買おうと思ったら売り切れでしたが、秀逸な出来映えのポスターでした。『カンパニー』のとしちゃんともっくんの姿が残ったよ。おめ!!

バーバリアンポスター