夢と現(うつつ)の間(あわい)の物語か、と思って観ていたら、どんでん返しが仕掛けてあり、最後には夢とうつつが違う道に別れたような、いや志は同じでも望みが違うと別れざるを得ないのか。キツネに化かされたような終演後の心持ちでした。
あーさ(朝美絢)、バウ単独主演、おめでとう。雪組の皆様、スタッフの皆様、千秋楽おめでとうございます。
小劇場向けで宛書きの演目でした。谷貴矢先生のバウ2作目ですが、バウだからこういうキツネが化かす芸風で挑戦してみたのか、大劇場向けの一般化した作品はそれはそれで作るのか、と興味が湧きました。前作『アイラブアインシュタイン』(感想)より、すっきりまとまっていました。アングラ演劇っぽいけれどね!それが計算の上なのかどうなのか、次回作が楽しみです。
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ひとりスポットライトを浴びて、高らかに世界の果てへの憧れを歌うヨシツネ(朝美絢)。平家を滅ぼした後、兄ヨリトモ(永久輝せあ)の不興を買い、落ち延びる身となっていた。ヨシツネは長いマントのような金地の羽織に孔雀の羽があしらわれた群青の着物をベルトで締め、深緑の袴にブーツ。
あーさはビジュアルの割に(本人が)控えめな感があったけれど、雪組に組替えで、ビジュアルと中身が一致しつつある。派手な衣装と高く結い上げた髪型が良く似合い、世界の果てに何があるのか、突き抜けた青い空かと真っ直ぐに歌う。
キャスト総踊りのプロローグ。顔にからくさや隈取りのようなメイクを施したものが多く、中華ミックスのような衣装や山伏風の衣装と、和風だがオリエンタリズムの混ざった不可思議なムードが漂う。日本史の平安時代ではないファンタジックな世界。
ヨシツネと従者のベンケイ(真那春人)の二人が舞台に残る。ベンケイは物思いにふけりがちなヨシツネをかすみを食べる妖精さんとか呼び、ヨシツネに「そんな俺が嫌いか」とか言われて腰が砕けたりとか、アドリブで丁々発止やってましたが、まはなるに一所懸命感が漂っているwのを、あーさが攻めていくというのが面白かった。
シリアス芝居にこういう、ややもすると内輪受け的な笑いや入れ込んでくるのが、学生演劇っぽい(「肉的なサムシング」というベンケイのセリフも男子学生っぽい)。信念的なものやイデオロギーっぽいものをセリフでガンガン喋らせるのはアングラ演劇っぽい。イマワカ役のゆめ真音くんのお茶飲み会(親睦会)に行ったら、谷貴矢先生からメイクや衣装、役柄、セリフのトーンや間に細かい指定があったそうで、若谷先生は自分の中でイメージを創り上げている拘りのあるタイプ。世界観が面白いし、演出やお衣装が美しいので、大劇場向きの、一般化した作品も錬っていって頂きたい(大事なことなので2度書きました)。
話を戻すと、壇ノ浦の戦いの後、シズカ(希良々 うみ)と別れ、兄ヨリトモ(永久輝せあ)と袂を分かって放浪するヨシツネとベンケイの前にキツネのツネ(星南のぞみ)が現れ、キツネーズ(白峰ゆり、沙羅アンナ、羽織夕夏)と共に雪深い村に誘う。二人はトキワ(舞咲りん)という女性の家に案内され、イマワカ(ゆめ真音)とオトワカ(琴羽りり)らに歓待を受けるが、眠っている間に状況が一変し、トキワを盾に取ったトモモリ(叶ゆうり)に脅されるようにムラに連れて行かれる。ムラでは長のホウオウ(英真なおき)と妻スザク(梨花ますみ)に会い、エイサイ(久城あす)から、ここは果てを忘れる、果ての無いところ、安息の地と説明され、ムラにとどまることを勧められる。
イマワカとオトワカの持つ香炉から不思議な香りの煙が漂い、「おキツネ様の言う通り」「おキツネ様の言う通り」と唱和が響く。円環上のモニュメント的なものが複数置かれているのが催眠暗示効果(あなたは眠くなる的な)を狙っているような印象を受ける。
一方、ヨリトモは部下のカゲトキ(橘幸)、ヒロモト(諏訪さき)、ヨシモリ(陽向春輝)、浮気防止に着いてきた妻マサコ(野々花 ひまり)の4人でヨシツネ征伐に出陣する。いや金で繋がっているファミリーから立候補者を募ったら、めっぽう強いヨシツネを相手にしても「利益」が出ないと誰も手を挙げないから自分で行くって言っちゃっただけなんですけれどね。4人はまたまたツネとキツネーズに雪深い山中を引っ張り回され、ムラへと連れて行かれる。
ムラに不審を抱くヨシツネはやはり世界の果てを目指そうと、ムラを出る事を決意するが…。
舞台で発声すると判らないけれど、エイサイの手伝いをするヤスヒラ(縣千)まで全員の名前がカタカナで、これもファンタジックで異世界的な印象を与えるが、そういうイメージを与えるよう演出的に仕掛けてある。これが2幕でどんでん返しがあって、夢とうつつのあわいにあったムラが壊れて、夢(ヨシツネ)とうつつ(ヨリトモ)に道が分かれたと思えてしまった。
またもや終わらない。(2)で終わる予定で続く。
『義経妖狐夢幻桜(よしつねようこむげんざくら)』
作・演出/谷 貴矢
ヨシツネはかつて天才的軍略で平家を打倒した英雄であったが、その存在を危険視した兄ヨリトモによって陥れられ、追われる身となっていた。あてどない逃避行の末、自分がどこにいるのかもわからなくなっていたある日、ヨシツネはツネと名乗るキツネ憑きの少女と出会う。少女の願いを一つ叶えるという約束と引き換えに、ただ一人の従者ベンケイと共に果てなき雪の隠れ里に誘われていくと、そこは奇妙に文明の進んだ不思議な村だった。村で久しぶりの休息をとったヨシツネ達は再び出発しようとしたが、雪に惑わされ、何度やっても村に戻ってきてしまう。村人たちは、それこそツネの幻術であり、その代わりこの村には無限の安息があると笑うのだった。一方その頃、ヨシツネを追うため村への入口を探すヨリトモの前にもツネが現れ、同じく夢幻の里へと誘っていく・・・。
果たしてヨシツネは、ヨリトモの追手とツネの幻術を振り払い、桜咲く外界へ戻ることができるのか。雪桜乱れ舞う、妖幻なる和風ロックファンタジー。