あきらさん、初主演おめでとうございます!
花組のアニキ・瀬戸かずやのバウ初主演作品『アイラブアインシュタイン』は、谷貴矢氏のバウホール・デビュー作品でもありました。谷貴矢先生、おめでとうございます。
SFで題材はアンドロイドですが、時代背景は「20世紀中盤」。パラレルワールドものだったのか。アンドロイドネタのギミックをてんこ盛りにし、ミステリー仕立てにした意欲作なんですが、英真なおき+瀬戸かずや+花組子の熱演が勝利を収めていた割りに、作品は物語の主軸となる設定に矛盾が多すぎて、いちいち突っ込みながら見ざるを得ないという、久しぶりの私的注目作品となりました。1回しか観ることが出来なかったのが残念です。
演出や音楽、衣装、舞台セットなどはとてもしっくり来ていただけに、どこが引っかかったのか、あれこれ考えている。何が描きたいのかすら、いまいち判らなかったんですが、谷氏はパンフレットの挨拶で「トマス・ハーベイ博士」を挙げていて、そこ?と思ったのですが、そこ?それで「アインシュタイン」か!→数奇な運命をたどった9人の著名人の遺体の一部 – エキサイトニュース /(全文)数奇な運命をたどった9人の著名人の遺体の一部 : カラパイア
うーん。変。
これもネタ元っぽい。→ロボットに感情は必要なのか? アンドロイド研究の第一人者に聞いた|ギズモード・ジャパン
ちなみに盛大にネタバレします。
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(あらすじ)
アンドロイド(人造人間)が量産され、普及している世界。人間がやっていた労働はアンドロイドに取って代わられ、人間達の間ではアンドロイドへの反感が高まっていた。
アンドロイドを開発した天才科学者アルバート(瀬戸かずや)は、記憶を失い、研究生活を引退し、執事アンドロイドのハンス(天真みちる)やメイドアンドロイドのアンネ(梅咲衣舞)らとひっそりと暮らしている。
そのアルバートのところに、科学者仲間のトーマス(水美 舞斗)がアンドロイドだというエルザ(城妃 美伶)を連れて来る。エルザは、アルバートに、アンドロイドには感情という機能が備わっておらず、自分に人間の感情を与えてほしいと願う。エルザに亡き妻ミレーヴァ(桜咲 彩花)の面影を感じたアルバートは、エルザを受け入れる。
エルザは好き嫌いを主張でき、喜びや怒りも表わすことができた。花が枯れれば新しい花を摘んで活け、コーヒーを飲んで苦さに驚く。エルザと一緒にすごし、生活に張りがあり、失われていた記憶が蘇りそうになるアルバートだった。
街では国家人間主義労働者党の党員達が、アンドロイドから人間に主導を取り戻そうと扇動を繰り返していた。まだ若い党首ヴォルフ(亜蓮 冬馬)の意を汲んで動くのは、幹部のヘルマン(和海 しょう)とルドルフ(綺城 ひか理)を中心にエヴァ(白姫 あかり)、マルティン(羽立 光来)、フランツ(冴華 りおな)達。ヴォルフの背後には老獪そうなヨーゼフ(英真 なおき)が佇む。
アンドロイドを迫害し、強制的に収容することを訴える国家人間主義労働者党だが、幹部のヨーゼフはなぜかアンドロイド制作会社のフェルディナント(冴月瑠那)と打ち合わせをしているのだった。
★ネタバレ警報★
- 感情について
「感情のない」アンドロイドと「感情のある」アンドロイドの違いが明確に描かれていないために、何が問題なのかが判りづらい。プログラミングによる「反応」と人間的な「感情」の違いが明確ではないと言えばいいのか。
- 国家人間主義労働者党のメンバーに、暴走して人間を傷つけたと濡れ衣を着せられ、おびえるアンドロイドの少年ヨハン(朝月 希和)は、エルザ(城妃 美伶)に叱咤されて、「僕は無実だ」と反抗する。←感情的。
- 恋心が芽生えたアルバート(瀬戸かずや)とエルザはキスをしようとして感情リミッターのためにフリーズする。感情リミッターって、恋愛感情を抑えるためにあるものなのか、恋愛感情が生まれそうになったら機能停止に陥らせるものなのか。感情リミッターは、「恋愛感情」に限定されているのか?
- アルバートの留守中に妊娠中の妻ミレーヴァ(桜咲 彩花)が病院に搬送されて流産するが、沈痛な顔をして「私は留守でした」と言い訳する執事アンドロイド・ハンス(天真 みちる)や僕の責任だと申し訳ながるアンドロイド・エドゥアルト(亜蓮 冬馬)は十分に感情的だった。
- エドゥアルト(亜蓮 冬馬)はこの後、ミレーヴァを守れなかった責任を感じて「知恵の実」の被験者になるのだが、「責任を感じる」って。←感情的。
いっそのこと、この世界のアンドロイドは人間と変わらない感情・情動を持つのに、エルザだけが物理的な障害や故障はないのに、感情的な反応ができない、それはなぜか、とアルバートのところへ来るという設定にしたら良かったのかもしれない。
鉄腕アトムは最初からノーストレスで感情があるよ。(訳:変なメカニズムや理屈を付与しないこと)。
「愛」の感情を持つと、「I(自我)」が生まれるというのも、牽強付会だが、最後の大団円のためには良かったのであろう。
不気味の谷現象を全く感じない。
アルバートとエルザには「特殊性」があるので、「愛」の感情を持ちえたのか、というのも疑問のひとつ。
- 人間主義について
アンドロイドの人権や自意識というのは、SF的には古典的ネタだと思うのですが、「人権」問題になってくるのは、アンドロイドが感情もふくめて人間そっくりになってからじゃないかと思う。
しかし、アンドロイドが発売されて数年で軋轢が起きるほどの台数が普及しているというのは、この世界のアンドロイドはそんなに安価なのか。1社しかアンドロイドを制作していないのだったら、生産調整をかければ良いだけの話ではないかと。
アンドロイドは危険だと言う一方で、アンドロイドはプログラミングされなければ人間に危害を及ぼす事は出来ないとも言う。これはプログラミングをする人間側の問題で、それを言ってしまったらおしまいよ。
人間の愛と平和のために、アンドロイドを戦争に送り込めというのに、アンドロイドはプログラミングされなければ人間に危害を及ぼす事は出来ないとも言う。これはプログラミングをする人間側の問題で、ここを膨らますと人間の考えの愚かさと矛盾とかそんな感じに至るわけですが。
アンドロイドは危険だというのは単なる後付で、目障りという理由が大きいんだね。
アルバートとエルザの「特殊性」を考慮すると、真に愛情らしきものを得たアンドロイドは、「彼」が初めてじゃないのか、とか。
余計な要素を入れ込みすぎなんだよなぁ。意欲とやる気とアイディを買うという作品になっていて面白いけれども。
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研究論文や学会発表用のアブストラクトを書くとき、(人によって方法や手順は違いますが)主題に付随する枝葉末節をガリガリ削って、言いたいことを明確にシンプルにするというのがすごく大事なんだよね。背景やその結論に至ったプロセスを膨らませる。
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サイエンス・フィクションラブ・ストーリー『アイラブアインシュタイン』 作・演出/谷 貴矢
20世紀中盤、天才科学者アルバートが開発したアンドロイドは、人々の生活になくてはならないものになっていた。世俗の喧騒を逃れ隠遁生活を送るアルバートのもとに、ある日、エルザというアンドロイドが助けを求めにやって来る。働き口を奪われた人間達による反アンドロイドの機運が高まる中、人間と平和に共存する道を模索する為、自分たちにも感情を与えて欲しいというのだ。エルザに亡き妻ミレーヴァの面影を見たアルバートは、科学者仲間であるトーマスの力も借りつつ、エルザに感情を与えようと奮闘する。ひたむきで純粋なエルザに次第に惹かれていくアルバートだったが、エルザはどうしても「愛」の感情だけは理解することが出来なかった。愛とは何かと問われたアルバートは、ミレーヴァをどんな風に愛していたのか、どんな感情だったのかを伝えようとするが、何故かどうしても思い出せないのだった…。
果たして、「AI」は、「愛」の感情と「I(自我)」を持つ事が出来るのか。瀬戸かずや主演でお届けする、サイエンス・フィクションラブ・ストーリー。なお、この作品は、演出・谷貴矢の宝塚バウホールデビュー作となります。