株式会社ゲンロンのスクールの一環として開催された利賀セミナー2泊3日に参加してきました。ゲンロン会員で、講師陣が豪華だったのと、ゲンロン代表で、思想家・作家の東浩紀氏(@hazuma)はTwitterでたまにメンションをやりとりしていたので、これを機にと申し込んでみた。メモ的にブログに残しておきます。
セミナーテーマは、「幽霊的身体を表現する」。開催趣旨をプログラムから引用。
■■ 「幽霊的身体を表現する」開催にあたって
東浩紀@hazuma( https://twitter.com/hazuma ) ■■
■ セミナー開催にあたって(プログラムより)
- 幽霊(revenant)は、ぼくが学生のころに研究した、フランスの思想家ジャック・デリダの主要な概念――というより隠喩――のひとつです。デリダの哲学では、幽霊は「現前と非現前のあいだにあるもの」および「回帰 revenir するもの」という含みをもっています。
- 現実には存在しないはずなのだけれども、頭から離れず執拗に回帰し、結果として現にも影響を与えてしまう非実在の存在、それが幽霊」です。
- ぼくはこのセミナーで、そんな概念を、演劇が、というよりも広く身体表現が、いかに現代社会の諸相を捉えるかという問いへと接続したいと考えました。
セミナーは富山県南砺市(なんとし)利賀村(とがむら)にある富山県利賀芸術公園を活動拠点とし、世界的に著名な劇団SCOTの全面協力のもと、芸術公園内の利賀創造交流館に泊り込み。
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ゲンロン利賀セミナーに申し込みました。
講師がすごいメンバーなので、ちょっとビビりつつも、こんな機会は滅多にないので、参加する事にした。 https://t.co/FlcKQXCrRf— 宮本啓子 Keiko Miyamoto (@mymtkiko) 2016年8月6日
利賀村は富山駅から貸切バスで2時間の山深く(Googleマップ)にある。事前にゲンロンスタッフから、コンビニやお店はありません、自販機は交流館内に一台しかありません、アメニティグッズはありません、小銭しか使えません、吸血昆虫オロロ(イヨシロオビアブ)がいます、虫除け必須ですと予告をされ、あれもこれもとカバンに詰め込んで向ったが、涼しくなったからか、オロロには出くわさず、タオルも歯ブラシセットも持参したため不自由なく二泊三日を過ごせた。
終了後の参加者感想等まとめ→ゲンロン利賀セミナー2016「幽霊的身体を表現する」 #利賀セミナー – Togetterまとめ @togetter_jp
(東さんに挨拶に行ったら、「ああ、良く知っています」という謎のニヤリを頂いた。光栄ですw)。
利賀芸術公園は、1994年に富山県の管轄に移管し、利賀創造交流館も富山県立として運営されている。つまり富山県が、劇団SCOTのバックアップをしているということだ。
芸術公園のある利賀村(とがむら)は、2004年の市町村合併により南砺市となったが、「利賀村」の名称は、劇団SCOTが中心となった働きかけで、地名として残されている。Wikipediaによると、「村名は、加賀藩の初代藩主である前田利家に由来する」らしい。
交流館にはSCOTの団員の皆さんが使うお稽古場や劇場が併設されており、夜中にお稽古する団員さんとすれ違ったりした。
交流館は利賀少年自然の家として利用されていたものである。 |
壁一面に劇団SCOTの舞台写真が展示されている。 |
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セミナー講師は、以下の超豪華な顔ぶれ。
- SCOTを主宰する演劇界の重鎮・鈴木忠志氏
- 青年団を主宰する現代口語演劇の第一人者・劇作家の平田オリザ氏
- りゅーとぴあ専属舞踊団Noismの芸術監督・金森穣氏
- アート集団・カオス*ラウンジの梅沢和木氏 (@umelabo)
- 社会学者の大澤真幸氏
- 批評家の佐々木敦氏(@sasakiatsushi)
- ゲンロン代表で哲学者の東浩紀氏(@hazuma)
スケジュールはみっちり。講師陣といい、スケジュールといい、東さんの中途半端な事はしたくないという完璧主義者ぶりが出ています。
1日目
- 9:45 JR富山駅集合(フライト利用者は羽田空港に集合)
- 12:00 利賀芸術公園 創造交流館(宿舎)着/昼食
- 13:00 劇団SCOT舞台稽古見学
- 15:30 [講義1]情報時代の身体表現(梅沢和木+大澤真幸+金森穣+佐々木敦+東浩紀)
- 18:30 夕食
- 19:30 懇親会
- 20:00 [ワークショップ]説明会(平田オリザ)
- 21:00 懇親会
2日目
- 8:30 朝食
- 9:30 [ワークショップ]幽霊時代の口語演劇1(平田オリザ)
- 10:30 利賀芸術公演見学会
- 12:00 昼食
- 13:00 [ワークショップ]幽霊時代の口語演劇2(平田オリザ)
- 18:30 夕食
- 20:30 [講義2]鈴木的身体と記号的身体(鈴木忠志+大澤真幸+東浩紀)
- 22:00 ワークショップのための自主稽古(各自)
3日目
- 8:30 朝食
- 10:00 [ワークショップ]講評会(平田オリザ+大澤真幸+佐々木敦+東浩紀)
- 12:00 昼食
- 13:00 [講義3]身体、幽霊、記号(大澤真幸+佐々木敦+東浩紀ほか)
- 17:00 利賀芸術公演出発
- 19:15 JR富山駅着(フライト利用者は羽田空港へ)
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1日目は昼食後すぐに劇団SCOTの舞台稽古『エレクトラ』『愛は病院-カチカチ山より-』の2つを見学。
舞台稽古は、SCOTの鈴木忠志氏のスズキ・トレーニング・メソッドの講義を兼ねていたのだが、これがすごかった。鈴木氏の演出ノートにリンクしておく。
- 『エレクトラ』(鈴木忠志 演出ノート 妄想の顛末・オレステスを待ちつつ)
- 『愛は病院-カチカチ山より-』(鈴木忠志 演出ノート 男の悲哀―流行歌劇への試み)
参加者は撮影禁止で、ゲンロンスタッフの上田洋子さんが撮影してツイート。ロシア文学者の上田洋子さんは、博論を演劇をテーマにして書いたという方で、利賀演劇人コンクール 2014 では審査員を務め、今回の準備も上田さんが主担当だった。
『エレクトラ』『カチカチ山』の最新版稽古を見せていただいた。佐藤ジョンソンあきさんが大活躍。エレクトラもうさぎも圧巻の迫力!中国の俳優も大変チャーミングで、昨年の『シンデレラ』よりパワーアップしてた。幸せな観劇体験。 #利賀セミナー pic.twitter.com/CohKz9tzun
— Yoko Ueda (@yuvmsk) 2016年9月10日
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批評誌『ゲンロン1 (Amazon) 』には東さんと鈴木忠志氏の対談(小特集『テロの時代の芸術』-『演劇、暴力、国家』鈴木忠志+東浩紀 司会/上田洋子)が掲載されており、鈴木氏は、「なぜ日本で演劇をやる必要があるのか」といった根源的な問いから、文化とは何か、芸術と芸能の違いなどに明快に答えていく。
テロというには本質的に、自分が信じる価値観を未来まで守るため、自分が死ぬことを前提として障害となるものを滅ぼそうという行為です。(ゲンロン1 p.013)
鈴木氏は一つ一つの言葉に対して、「私はこう考えている」と自分の認識をはっきりお持ちで、切れ味のするどい言葉に、爽快感を感じる。
わたしたちがやっているのは「創客」です。演劇を持っていって、相手を変革し、新しい顧客を創る。そういうつもりでやっているんで、他人の需要に応えて娯楽を提供します、という芸能の構えじゃない。(ゲンロン1 p.022)
(東京から利賀村に行った理由)演劇はなんのためにあったかといったら、それは社会を変革するためなんだよ。東京の人間だけ相手にしてデータを取っても意味がない。(ゲンロン1 p.022)
SYNODOSインタビューで鈴木氏のWEB上で読める。タイトルは引用の箇所から来ていると思われる。
【SYNODOS】演じることにはすでに批評行為が含まれている/舞台芸術家・鈴木忠志氏インタビュー
だって芝居をやるなんて人間は、今ある現状に不満を持ってるわけだろう? だったら自分の存在に対してもっと疑問を持て!というんだ。日本人はそこがボケてきたから政治もこんな結果になったし、政治家にだまされるんだ。今ある現状、現実に絶えず疑いを持って、志を持ってやらないといけないんだよ。(鈴木忠志氏)
常日頃は、持続可能性を維持するためのシステムを構築している宝塚歌劇を見ているため、オンリーワンの鈴木氏が率いる劇団SCOTの在り方は、私にとっては「異質なもの」であったけれど、人間国宝級の世界というものだと思えば合点がいった。
鈴木氏は御年77歳になられるということで、上記のインタビューにも「SCOTについては、後継者は外国人になるかもしれない。集団指導体制でやればいい」という話があり、2日目に公園内を見学し、利賀村の在り方を知って、そうならざるを得ない気もする(判りません)。