[Zuka] 2016年振り返りと花組東京公演開幕

花組 東京公演開幕、おめでとうございます

上田久美子氏の大劇場作品第2弾。トップ娘役花乃まりあ退団公演である。大劇場で5回観劇したが、観る度に方向性が微妙に変わっていた。こんな作品も珍しい。東京公演もどこかで行きたい。

上田久美子氏の作品は、複雑な愛憎が交錯し、人間性が際立つ。明日海りおが出演してみたいと望んでいたというのも判る。宝塚大劇場公演中、毎日のように上田氏からダメだしやセリフの変更等があったそうだが、上田氏自身が、「走りながら直す」人であるので、みりおさんには良かったのではないか(大変だろうけれど)。

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2016年に、密かに注目していたのは、花組のトップスター明日海りおであった。

それは2014年の見事な光源氏を経て、2015年1月東京国際フォーラム公演で上演した『Ernest in Love』を、2016年2~3月に梅田芸術劇場・中日劇場公演で再演、続いて本公演で『ME AND MY GIRL』を再演するというスケジュールが決まっていたからである。明日海りおの持ち味から考えるとコメディは苦手な部類かもしれない、と思っていた。

彼女は芝居に対しては、地道で繊細で用心深い人である。丁寧に役を作り、役を生きようとする。それは公演中にどんどん進行する。観客の反応から、手応えをつかみ、演技を見直し、深めていく。舞台には貪欲で、拘りが強く、真摯に考える人である。そんな彼女には思考を積み上げていくシリアスな芝居が良く似合う( 『金色の砂漠』はまさにそれだ)。

『Ernest in Love』は、宝塚版ではコメディパートが重要なアクセントとなっているが、コメディはしっかりした土台に基づいた、センスと勢いの発露でもある。2015年1月の公演はそれがやや鈍かった。ただこの時の公演は、相手役の花乃まりあはトップ就任直後、芹香斗亜は番手はついておらず、城妃美玲は組替え直後という状況でキャスト全体がぎこちなかったことも否めない。

2016年2~3月の梅芸・中日は1回ずつしか観劇できなかったが、蓋を開けてみれば、明日海りおは、素の性格を活かした温かで大真面目なところがユーモラスに出るアーネストで、花乃まりあは、キュートですこーし気の強いグウェンドレンを生き生きと演じていた。従来のキャストに、役替わりで鳳月杏音くり寿が入り、明るく小気味の良いムードが漂っていた。公演中に明日海他キャスト達は、アドリブにも磨きをかけていき、1年前よりも更に進化していく『Ernest in Love』だった(スカイステージで1月2日放送)。花乃まりあ本来の持ち味に、はじける明るさがあるのも功を奏したのかもしれない(お茶会で知ったけれど、コメディエンヌも出来る人だと思う)。

その好ムードは『ME AND MY GIRL』に続いた。明日海りおのビルは、周囲を見回して、突っ走ろうとする花乃まりあのサリーを包み込み、役替わりで変わるムードを調整しつつ、『ME AND MY GIRL』全体をまとめていき、爽やかで温かなものを私に残した。私のビルとサリー。

もう大丈夫かと思えた、花組トップコンビだったが、その直後に花乃まりあの退団発表だった。そういうコンビもある。花組のトップ娘役は、仙名彩世が継ぐ。『アイラブアインシュタイン』などで躍進著しい桜咲彩花にも期待している。

って書いていたら、『金色の砂漠』に触れる時間がなくなった。いつもの積み残し。