[stage] 東宝版『1789』に寄せて

前回の更新が5月14日でした。月日の経つのは早いものです。この間に、『グランドホテル-グリーン』を観劇し、星組東京公演『こうもり』と七海ひろきお茶会に遠征し、花組の『ME AND MY GIRL』を見ました。追記:5月14日に花組の天真みちる茶会に参加しました。また別記事で。

そして待ちに待った東宝版『1789』を5/24、6/1と2回観劇。月組の1789は大好きで、思い入れのある演目なのです。2015年月組『1789-バスティーユの恋人たち-』

メイン3役はWキャストで、昨年、宝塚歌劇団を退団した、凰稀かなめの女優デビュー、芸名を本名の赤根 那奈に変更した夢咲ねねの退団後2作目。

観劇したのは、(5/24)小池徹平×神田沙也加×花總まり、(6/1)小池徹平×夢咲ねね×凰稀かなめ。アントワネットとオランプで日を選んだため、加藤和樹氏のロナンは見れずじまいでした。残念ですが、帝劇版『エリザベート』を待ちます。

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宝塚版と東宝版の違いは、というと、男役から男性キャストになり、人数が少なくなり、精鋭カンパニーという趣の東宝版1789。

衣装は宝塚版のタイシルクを使った色鮮やかなものから、豪華だけれど落ち着いた色味のものになり、宝塚版にあった冒頭のマリー・アントワネット登場のシーンのドレスが大人しくなっていたり、と一般向け(笑)に変化していた。

舞台装置やセットも変わり、宝塚版ではバスティーユを模した大型装置に龍真咲ロナンがよじ登っていましたが、東宝版ではつり下げで開く巨大な跳ね橋の頂上にロナンが現れるという演出だった。

ストーリー的には、フランス版オリジナルに忠実なのだろう。宝塚版のプロローグとフィナーレがなくなり、セリフにも大きな違いは無かったが、パリの女たちのパン屋襲撃場面が入り、ウェイトが革命市民側に傾いたため、主役がロナンとその相手役としてのオランプになった。これに寄与するのが、王室側の見せ方の変化である。アルトワ伯(吉野圭吾)の異形ぶりやポリニャック夫人(飯野めぐみ)の意地悪そうな貴婦人メイク、市民を追い詰めるペイロール(岡 幸二郎)の強固さに、そしてなにより王室側は(マリー・アントワネット以外)出過ぎないやりすぎない演技によって、観る側の心情を革命市民側に寄せていった。

そして何が一番、違ったのかというと、観る側としての私の心構えかもしれない。月組版1789は、超大作の新作に挑む月組の必死さに煽られて、熱に浮かされたような状態で毎回観劇していて、異様な興奮状態だった。あの時の昂揚は、あの時だけのもので、再現は望むべくもなかった。

その代わりに、東宝版1789は、一定レベルの舞台が常に保たれているという安定感を堪能できた。

宝塚歌劇以外のミュージカルを見るときにはいつも思うのだが、宝塚歌劇を見るときと、宝塚以外を見るときは、距離感が違うのだ。それはヅカオタの業のようなもので(苦笑)、1年目の研1から10年以上の中堅・ベテランが混成で、一丸となって舞台を創り上げようと取り組んでいる宝塚歌劇の「熱」というのは、独特の光を放ち、余人の追随を許さない。それがまぁ宝塚歌劇の特殊性である。

外部公演には、その特殊な「熱」はない。その代わりにあるのが、その作品を創り上げるために集められたキャスト達の卓抜した技巧と精鋭としての意識に裏打ちされた見事な精神力である。←これはアルトワ伯の吉野さんを見ていて特に思ったので、やはりアルトワ伯は偉大だアポロンだということであろう。

キャスト別に見ると、小池ロナンは正義感に溢れた爽やかさが良かった。貴族に追い込まれた農民の若者がパリに出てきて、自由・平等・博愛の精神を学び、それが踏みにじられていることへの素朴な怒りがあり、率直な正義感があった。歌も上手く、柔軟性があり、「男性キャストだな。東宝版だな」と違いを感じたのはロナンかもしれない。なにかっつーと、恋愛至上主義じゃないんですよね。革命家達とも距離を置こうとしたロナンで身分や階級が高い壁であることも骨身に染みているので、オランプと「許されぬ愛」(宝塚版だとマリー・アントワネットとフェルゼンの歌)を歌ってしまう。怒りはあるけれども、限界があることも判っているという、懐を感じた。

凰稀かなめのマリー・アントワネットが素晴らしかった。「女」というよりも、「人間くさい」。前半の遊びとフェルゼンとの恋に没頭して逃避している姿から後半への切り換え、処刑前のざんばら髪の哀愁。アントワネット登場時の難曲も高音ソロも見事にこなしていて、ブログでボイトレボイトレと書いていただけあります。アフター・トークで話す声は相変わらずの低音で、おお、良かった、かなめさんだ!と変な安心感があった。

これは夢咲ねねのオランプにも思った。かなめさんはともかく、娘役として頂点を極めた、ねねちゃんまで人間くさいオランプだったのは、意外だった。表情の変化が豊かで、顔をしかめたり、歪めたりが自在なのである。(ラストはそこまで歪めなくても、と思うくらい顔をくしゃくしゃにしていた)。

これはザ・娘役のお花さま(花總まり)がキャストにいるからだろうか。お花さまのマリー・アントワネットは超絶に上手かった。愚かしさと軽さによって蓮っ葉さを醸し出しながらも、気品がある。神田沙也加のオランプは気が強いキリリとしたオランプで、理性的なのが魅力だった。

それからソニンのソレーヌ。キャラ的に一番好きかも、というソレーヌ。怒りと悲しみを抱えて生きる逞しさを、パン屋襲撃場面で爆発させていた。襲撃の場面の爪とぎソングは、元々そういう歌詞なんでしょうか。迫力満載だった。女たちの襲撃を止めに来るのが、男達である革命家達だというのも、興味深い。

ロナン(Wキャスト)
小池徹平/加藤和樹
オランプ(Wキャスト)
神田沙也加/夢咲ねね
マリー・アントワネット(Wキャスト)
花總まり/凰稀かなめ
ロベスピエール:古川雄大
ダントン:上原理生
デムーラン:渡辺大輔
ソレーヌ:ソニン
アルトワ:吉野圭吾
ラマール:坂元健児
フェルゼン:広瀬友祐
ペイロール:岡 幸二郎
ネッケル:立川三貴
ルイ16世:増澤ノゾム
トゥルヌマン:岡田亮輔
ロワゼル:加藤潤一
リュシル:則松亜海
ポリニャック夫人:飯野めぐみ
デュ・ピュジェ中尉:松澤重雄