[Zuka] 2014年宙組『ロバート・キャパ 魂の記録』

『ロバート・キャパ 魂の記録』は、20世紀最高の報道写真家ロバート・キャパ(本名アンドレ・フリードマン)の半生を舞台化した作品である。作・演出の原田 諒氏は初演で第20回読売演劇大賞・優秀演出家賞を受賞している。本公演では、キャパは初演と同様に凰稀 かなめ。キャパの公私に渡るパートナーであったゲルダ・ポホライル(ゲルダ・タロー)に実咲 凜音を配している。

ユダヤ系ハンガリー人であったアンドレ・フリードマン(凰稀 かなめ)は、ナチス・ドイツによるユダヤ人排斥を避けて、フランス・パリに拠点を移す。幼馴染みのチーキ・ヴェイス(七海 ひろき)と共に、通信社を経営するフーク(風馬 翔)に雇われるが、オーダーされるのはゴシップ写真や奇をてらった突飛な写真だった。うんざりしているアンドレのところに、彼の写真に惚れ込んだゲルダ・ポホライル(実咲 凜音)が訪ねてくる。ゲルダと共に独立したアンドレは、パリで知り合ったカメラマンのシム(星吹 彩翔)やアンリ(桜木 みなと)達と報道カメラマンとして活動を始める。

ところがフークの嫌がらせで、アンドレの写真は別人のものとして雑誌に掲載されてしまう。アンドレは、自身もゲルダ・タローという報道カメラマン用の名前を使い始めた彼女の発案で、「ニューヨークの著名写真家ロバート・キャパ」という架空の人物を創造し、キャパの名前で写真を発表するようになる。

中日劇場公演用に、初演より30分ほどカットして、1時間45分の公演となっていた。初演はスカイステージで観たのだが、今回よりカメラマン仲間との交流場面が多くて、アンドレ(キャパ)の意識も仲間に傾いていたように感じたが、今回のバージョンは、キャパとゲルダのエピソードをメインに据えていたので、より宝塚歌劇向きになったように思う(=ロマンス成分強め)。

原田 諒氏が得意とする社会的・歴史的な要素も、反ファシズム運動のデモやスペイン内戦を取材するキャパ達カメラマンの活動として描かれ、アンドレ(キャパ)が、人を好きで、人を撮るのが好きで、人と人が争う戦争をなくしたいと報道写真を撮り続ける動機をクリアに浮かび上がらせている。

アンドレはゲルダと共に赴いたスペイン内戦の取材で、人民戦線の兵士フェデリコ・ボレル・ガルシア(蒼羽 りく)とその妻エンマ(花乃 まりあ)と知り合い、二人の寄り添う写真を撮る。そして愛する家族をおいて戦うフェデリコの姿を見て、自分はただ写真を撮っているだけで良いのかと苦悩する。フェデリコはそんなキャパを、報道カメラマンとしての役割を果たすよう叱咤し、死地に向かった。

ロバート・キャパの名を世界に知らしめたのは、このフェデリコが狙撃されている瞬間を撮った「崩れ落ちる兵士」と呼ばれる写真だが、この写真は発表された直後から、やらせだという噂が流れ、最近はアンドレ(キャパ)ではなくゲルダ・タローが撮った写真だという指摘もなされている。

観劇後、私はそんな真贋論争や著作権問題はその筋の研究者に任せておこう思った。「ロバート・キャパ」はアンドレとゲルダが創り上げた作品のようなものであり、彼らは、戦場のありのままの姿を伝えたかっただけだと受け止めた。一般人としては、写真に込められたアンドレとゲルダの想いが人々の関心を引き寄せた、というだけ十分なのである。

また、この公演では原田 諒氏の演出技量の確かさに感じ入った。青空を背景にし、照明を使って夕暮れや朝日を表すという演出が見ごたえがあった。それから、いわゆる「八百屋舞台」=舞台前面から奥に向かって傾斜のついている(坂の状態)になった舞台を使い、戦場となったシンプルな平野に立体感をもたせている。これが効果的で、ラストで山を登るように、太陽に向かって歩いていく凰稀 かなめの後ろ姿がとても絵になっているのだ。

(八百屋舞台は「演者が常に前のめりの姿勢なため、腰や足に相当な負荷がかかる」ということで激しい動きはできない模様【→宝塚:より迫力を感じる八百屋舞台 桜木星子】)。

(脚本的には、カメラマン仲間と写真家集団設立の場面がカットされ、ゲルダがアンドレとチーキとしか会話しておらず孤立しているような印象を受けたので、ゲルダをアンドレの母ユリア(京 三紗)と弟コーネル(和希 そら)の場面で絡みを増やすと、より身近になったかも。あくまで「かも」です)。

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舞台上のアンドレ(凰稀 かなめ)とゲルダ(実咲 凜音)の間には揺るぎない信頼と愛情があった。その絆を保つためにも、ゲルダはキャパという運命共同体から、ゲルダ・タローという独立した存在に戻るために、静かで強い決意を秘め距離を置くことを選ぶ。

アンドレのプロポーズを断ったことで、「俺を愛していないのか……」と言われ、「愛しているわ愛しているわ、でも……」と涙混じりに繰り返すゲルダ。

日中戦争の取材に行くアンドレを見送るマドリッド駅でのゲルダ。凰稀 かなめ実咲 凜音の演技が響き合う。

凰稀 かなめは心情を情感豊かに丹念に演じることができる人で、実咲 凜音もそれに応えることができる娘役で、素敵なトップコンビである。お披露目公演だった銀英伝のラインハルトとヒルダの微妙な関係からは、かなり進歩したような気がしたアンドレ(キャパ)とゲルダでした。

アンドレと親しくなった芸術家パブロ・ピカソ役の蓮水 ゆうやが、ビジュアルは実在のピカソと全く違うのだが、芸術家の本質を演じようとしていた。何か覚悟を決めたようで、一皮むけていた。「画家とは、世の中の喜びや悲しみに敏感であることだ。写真家も同じだろう」と、すでに画家としては著名になっているピカソは、駆け出しの写真家達を勇気づける。割とのんきで愛人のマリー=テレーズ(愛花 ちさき)といちゃいちゃしているのだが、故郷スペインの街ゲルニカを空爆され、大作『ゲルニカ』を描く場面は気迫が籠っていた。愛花 ちさきもマリー=テレーズを怪演…でした。

七海 ひろきは演技の質に波があるのが課題。演技が変化していくのはOKなのだが、品質が上下するのはちょっと(笑)。登場時のチーキ・ヴェイスは なんちゃって活動家で使いっ走りだったのが、次第に多忙なアンドレとゲルダを支え、事務所を切り盛りするまでになっていく。チーキにはチーキの人生があるのだった。「根拠のない自信を持ってやりなさい」(New Wave-花-by三木 章雄氏)は難しい心得だが、何百人もの観客を納得させるには、そういう度胸も大事なのだ。がんばれ、かいちゃん。

蒼羽 りくは、フェデリコ・ボレル・ガルシア役を好演していた。黒塗りが逞しさを出し、妻役の花乃まりあの華奢さとよく似合っていた。ダンスシーンの多い役だが、さすがの踊りっぷりである。キャパと報道写真家集団「マグナム」を設立するカメラマンのデヴィッド・シーモア役の星吹 彩翔は相変わらず達者な演技。同じくカメラマンのアンリ・カルティエ=ブレッソンの桜木 みなとも、アンドレ(凰稀 かなめ)と対等な立場に見えるように頑張っていた。あとはフーク役の風馬 翔が、白髪交じりの鬘をかぶり、肉布団を巻いて中年の嫌味な男性をガッツで演じていた。星月 梨旺(ほしづき りお)や留依 蒔世(るい まきせ)も役名がついていて、下級生ながら頑張っていた。よかった。

ロマンチック・レビュー『シトラスの風II』の感想は次に。不覚にも(?)『シトラスの風II』で涙ぐんでしまいました。プロローグと第6章「明日へのエナジー」の2場面は清冽な美しさがあり、感動的でした。

■中日劇場公演:2月4日(火)~2月28日(金)
■主演・・・凰稀 かなめ、実咲 凜音

ミュージカル『ロバート・キャパ 魂の記録』
作・演出/原田 諒

ロマンチック・レビュー『シトラスの風II』
作・演出/岡田 敬二

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パンフレットのキャパに扮した凰稀 かなめが、すっきり美しく、見開きのカメラを構えてうつ伏せになった写真も良かったです。パンフレットお薦めです。夜公演来場者向けにサイン入り(印刷)カードのプレゼントがあり、ランダムに配布されたのですが、七海ひろきのが当たりました。(*^-゚)vィェィ♪

『ロバート・キャパ』
『ロバート・キャパ 魂の記録』

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→日本人とはちょっと脂肪のつき方が違うが、日本人の写真がないので参考までに。【Body Fat Percentage Pictures Of Men & Women