『眠らない男・ナポレオン』を深く理解しようとすると、厄介なのが、フランスの国内事情に加えて、フランスを取り囲むヨーロッパ各国の情勢を踏まえておく必要があること。これは、ナポレオンとジョゼフィーヌの関係だけのストーリーだと脇に置いておいても良いのだが、『眠らない男・ナポレオン』はヨーロッパ諸国の状況も踏み込んで描いているので、演じる方も見る方もたいへん。
海外公演に持って行けるレベルにすると考えたら、そうなるんでしょうなあ。
簡単にまとめると、1789年に起きたフランス革命は「自由・平等・友愛」を掲げて、王制・君主制を否定し、共和制を目指していた。ところがフランスの周辺の国は全て、君主制なので、自国でもそんな騒ぎが起こっては大変と警戒をし始めた※。そこでオーストリア、イギリス、プロイセン(ドイツ)、サルデーニャ(イタリア)、スペイン、ナポリなどが第一次対仏大同盟を結成する(1793年)。この第一次対仏大同盟は、ナポレオン率いるフランス軍がイタリア遠征で同盟軍を打ち破ったことで、崩壊する。※(1917年にロシアで起きた共産主義革命に対するアメリカとかの反応とかと一緒ですね)。
ところが1798年のエジプト遠征で、ナポレオンのフランス軍が、ネルソン率いるイギリス艦隊に敗北すると、オーストリア・イギリス・ロシア・オスマン帝国(トルコ)が第二次対仏大同盟を結成し、フランスに対峙し始める。この同盟は1800年のナポレオン軍のアルプス越えによる北イタリア遠征とマレンゴの戦いで、オーストリア軍が敗北したことで崩壊し、戦意みなぎるイギリス以外の諸国は、フランスとの戦争を休止した。
第三次対仏大同盟は、第一次・第二次と異なり、1804年に即位した皇帝ナポレオンが支配するフランス帝国に対抗するために、1805年にヨーロッパ諸国が集まって結成した同盟である。この同盟は第七次まで組まれたようだが、第一次と第二次は対フランス革命で、第三次以降は対ナポレオンとなり、ヨーロッパ諸国の目的は明確に異なっている。ナポレオンが退位に追い込まれたのが第六次対仏大同盟で、1804年のナポレオン即位から1815年の退位までの戦争を、ナポレオン戦争ともいう。
前虎後狼というか、四面楚歌というか、どっちが正しいとかそういうのを抜きに、第二次までのナポレオン率いるフランス軍の戦いぶりはすさまじい。ただ第三次以降は、「ナポレオン戦争」なので、フランス軍の士気はいまいち上がらなかったのではないかと思ってみたりするのですがここはまぁ私見と言うことでね。
『眠らない男・ナポレオン』でいうと、1幕までが第一次・第二次対仏大同盟との戦い、2幕目はナポレオン戦争となる。劇中歌「嵐のように生きた男」で皇帝ナポレオンは、「フランスを救った皇帝」、「革命を終わらせた英雄」、「世界統一目指した」というように謳われているが、これが小池修一郎氏の解釈なのだろうと思う。必要なことは、全てもう脚本中に描かれているので、あとは強弱をどうつけていくかとテンポの問題だろうか。この辺りはよく判らないので、また観劇に行こうと思います。
キャストの感想はね、また今度(息切れしてきた)。