[diary] COVID-19パンデミック雑記(44)パンデミック下での五輪

花のみちの紫陽花が見頃です。


パンデミック下でオリンピックを開催するということ

衆院厚生労働委員会における、新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長の東京オリンピック・パラリンピック開催に関する発言が話題です。

尾身先生は、「パンデミックの中でオリンピックを開催するということは普通でない」と率直な発言をされているのですが、政府や与党から異論や反発が出ているそうです。

ソースは厚生労働委員会のビデオライブラリ。【2021年6月2日 (水)】は日本共産党の宮本徹議員の質問に尾身先生が答えたもの。【2021年6月4日 (金)】は立憲民主党の山井和則議員の質問に尾身先生が答えたもの。

政府、与党の政治家の方々は、東京オリンピックに関する新聞各社の世論調査の結果をご存知なのでしょうか。緊急事態宣言が出ているコロナ渦中でオリンピックを開催するということは普通でない、と世論は言っています。

尾身先生は感染症と公衆衛生の専門家の立場から、パンデミックの中でオリンピックを開催するということが普通でない、と言われています。

それでも参加国200ヵ国以上、選手団だけで1万5千人という国際大会を開催をするのであれば、当然、国内で人流が増加し、それに伴う接触機会が増え、感染リスクは増大します。その低減をはかるためには、サイエンスとテクノロジーを最大限活用する。開催の規模を最小限にし、管理の体制を最大に強化しなければならないと話されただけです。

この夏に東京オリンピック・パラリンピックを開催した場合、来日するのは選手団+IOC関係者やスポンサー、マスコミが約9万人。

通訳、警備、交通など各種業務に動員される関係者は延べ30万人

登録ボランティア8万人のうち1万人は辞退したそうですが、いったいオリンピック運営に動員される国内の人員は何万人なのか。それに加えて観客ですね。あとパブリック・ビューイングなどに集まって観戦する人たち。


国内で見つかっていなかった変異株が相次いで発見される

兵庫県神戸市と東京都から国内で見つかっていなかった変異株が相次いで報告されました。兵庫県と東京都は緊急事態宣言下なので人流を制限しているはずです。人流制限のため飲食店や大型商業施設、文化施設などは時短や休業を余儀なくされています。多くの犠牲を出しながら、やっとここまで来ました。解除されてオリンピックが開催されたら、人の流動はどうなるんでしょう。

神戸市によると、この変異株は、海外では欧州を中心に約150例確認されているが、国内では神戸市以外では報告されていない。
神戸で発見の新型コロナ変異株、さらに4例感染|神戸新聞NEXT(2021年6月4日)


これまで国内では見つかっていなかった新型コロナウイルスの新たな変異ウイルスが、東京都内で見つかりました。
新たに見つかったのは「C36」と呼ばれる変異ウイルス‥先月中旬に北アフリカ地域から帰国したインド型変異ウイルスの感染者をさらに調べたところ、判明したということです。
東京都内で新たな変異ウイルス「C36」見つかる|TBS NEWS( 2021年6月4日)


参考例:ツール・ド・フランス2020

大規模なスポーツ大会例として昨年のツール・ド・フランスを取り上げてみます。ツール・ド・フランス(Tour de France)は、フランスおよび周辺国を自転車で走破するサイクルロードレースです。1903年から開催されている歴史あるレースです。

コースは、フランス国内の名所巡りとなっており、去年はコート・ダジュールのニースから始まり、パリのシャンゼリゼ大通りでゴール。走行距離は3,484.2 キロメートルだったそうです。

例年は6月末~7月開催ですが、昨年はパンデミックのため遅れて、8月29日から9月20日に開催されました。選手の参加人数は176人。

写真で見るだけでも美しい風景です。

ツール・ド・フランス2020コースマップ

EU加盟国内の入国制限の緩和と夏のバカンス

ツール・ド・フランス2020に先立つ6月15日、EUは加盟国内の入国制限を緩和し始めました。フランスは6月15日から、原則としてEU域内のほぼすべての加盟国からの入国を認めました。

引き続いてEUは、7月1日から域外15ヵ国からの入域制限を解除するよう加盟国に勧告。これらの制限解除の主な目的は夏のバカンスシーズンを前に観光業を立て直すことだったようです。


ツール・ド・フランスとフランス国内の感染拡大

2020年8月29日のツール・ド・フランス2020初日、減少していたフランスの新規感染者数は増え始めていました。

7月16日  534人
7月22日  998人
7月29日1,392人
8月12日2,524人
8月20日4,771人
8月29日5,453人←開幕
9月  2日7,017人
9月20日11,569人←閉幕
10月1日13,970人
10月14日22,591人
11月7日86,852人

Google統計情報

開催中にツール・ド・フランスの大会委員長が感染したり、フランス国内の感染が拡大してゴール地点を無観客化しましたが、9月20日に閉幕。

現地レポートによると選手には感染が広がらないように固定集団行動による「バブル方式」と厳しい検査体制がとられ、沿道の観客の感染拡大策としてマスクとアルコールジェルが配布されたそうです。観客の密集を防ぐために制限も行われたそうですが、大勢の観客が飲食の際はノーマスクですよね。

ツール・ド・フランス閉幕後、フランスの感染状況は最大級の波に突入し、10月30日から2回目のロックダウンに突入。2回目のロックダウンは12月15日に解除。今年の4月3日から3回目のロックダウン。現在は解除に向かって緩和中。6月30日に通常営業に戻る予定のようです


画像をクリックするとGoogleの統計情報に飛びます。

フランス/ 新型コロナ・ウイルス感染者数の推移

新規感染者の減少はワクチン接種の普及による

ヨーロッパにおける昨年9月頃からの感染拡大は夏のバカンスの人の移動が一因となった可能性があるという指摘もあります。

フランス近隣諸国の推移も見てみましたが、一度まん延させてしまうと新規感染者は高止まりでなかなか減らない傾向です。検査数をいくら増やしても感染制御にならないのは、陽性者とその数倍以上の濃厚接触者全てに2週間の隔離措置をとることは容易ではないからでしょう。

フランスで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、お亡くなりになった方は約11万人。世界で8番目に多いとのこと。亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。

フランスは今年の3月頃からワクチン接種を加速させており、新規感染者数と死亡者数がやっと減ってきたという状況です。6月4日時点でワクチン1回以上接種人口の41%、必要回数の接種完了18%です。

今年のツール・ド・フランスの会期は、2021年6月26日 – 2021年7月18日です。ロックダウンを6月30日解除予定なのですが、大丈夫かな。😓

画像をクリックするとGoogleの統計情報に飛びます。

フランス/検査数と入院患者数の推移

 


昨年のツール・ド・フランスが開催された理由

「フランスは希望を与えられる国」

強行した背景には経済的な意味が大きい。仏メディアによると大会は世界約190カ国で放映され、放映権料やスポンサー収入などをあわせた昨年の大会収入は、1億3千万ユーロ(約169億円)。公道レースでチケット収入に頼れない自転車競技にとって、スポンサー引き留めに必要だった。

フランスにとっては、「コロナに屈しない」ことを印象づける機会でもあった。

スタート地点となった南仏ニースの市長は「フランスは困難に立ち向かい、希望を与えられる国だと世界に示す」意義を語った。

「本当に怖かった」コロナ禍のツール・ド・フランス閉幕:朝日新聞デジタル(2020年9月21日)

「希望を与える」どこかで聞いたフレーズ。これですか、これですね。

五輪・パラリンピックは世界最大の平和の祭典であり、国際的な相互理解や友好関係を増進させるものです。安全、安心な大会を実現することにより、希望と勇気を世界中にお届けできるものと考えています。

菅首相書面回答全文 東京五輪・パラ開催判断:時事ドットコム (2021年6月4日)


スポーツの持つ力とウイルスとの戦い

東京五輪・パラリンピック担当、丸川珠代大臣は、尾身先生から指摘された東京オリンピック開催の意義について、「我々はスポーツの力を信じて今までやってきた。別の地平から見てきた言葉をそのまま言ってもなかなか通じづらい」と話したそうです。

選手にとってはオリンピックが変異ウイルスの感染拡大を招く可能性が高いというのは厳しくつらい話でしょう。選手の責任ではありません。スポーツ選手も病気になるし、怪我もします。 スポーツの持つ力を信じることと新興感染症の世界的大流行(パンデミック)によるウイルスとの戦いは、別の次元の話です。

この夏にオリンピックが開催されるのなら、科学の力ゆえでもスポーツの持つ力ゆえでもなく、金の力ゆえ、権力ゆえであり、無知の暴力ゆえだと言えるでしょう。

現状では東京オリンピック・パラリンピックは、中止か再延期が望ましいです。

僕は怖い。隠さず言おう死ぬのが怖い。
「僕は怖い」(ミュージカル『ロミオとジュリエット』第1幕/第6場 ヴェローナ市街)