[diary] COVID-19パンデミック雑記(43)劇場のリスク管理~客席での会話制限

劇場改札前@宝塚大劇場劇

宝塚大劇場では月組トップコンビ珠城りょう・美園さくらの退団公演中です。

花組公演は3回目の緊急事態宣言発出のため中断を余儀なくされ、5月10日の大劇場千秋楽は無観客ライブ配信となりました。緊急事態宣言延長を受けて一部の措置が緩和され、月組公演は5月15日の初日を迎えましたが、大劇場の感染対策はさらにシビアになりました。


不織布マスクを着用して大劇場の正面入り口で検温と手指消毒。ここまでは以前通り。ところが館内に入ると、「公演を継続するためにお客様へのお願い」と書かれたプラカードを持った係員さんが順路に点在している。びっくりした。

至るところに貼られている会話制限と飲食禁止の注意喚起

梅田芸術劇場メインホールは昨年からずっと劇場売店を休止し、ロビーでの飲食を禁止して、観客が集まって喋っていると係員さんが飛んで行って注意を促していました。

ですが、大劇場は比較的、会話や飲食の制限は緩やかだったのです。2回目の緊急事態宣言が解除になった際の花組公演では改札内での飲食禁止でも、ロビーにあるレストランは開店していました。それがこの変わりようです。お客様ファーストの宝塚歌劇にしてはかなり厳しい措置。強い覚悟を感じる。

個人的には少なくとも客席でマスクをつけて黙っておとなしく座っていようと思っています。開演前にのど飴を口に入れたり水分補給するのは、必要なときがあったがなるべく座る前にしよう。客席では喋らないようにしたい。


感染リスクは環境整備と条件によって変わる

そう思っていたところに、忽那先生の【「抗原検査・N95マスク・換気」によって安全にライブコンサートが開催された、というスペインからの報告】(忽那賢志) Y!ニュースという記事を拝読しました。

記事中のコンサートに関する報告も面白いが、紹介されている図が興味深かったので元論文を見てみました。

感染リスクは環境整備と条件によって変わるという概念を図式化したものです。

人の密集度や換気のレベル、マスクの着用、接触時間、飛沫の飛ぶ集団活動のレベルによって、無症状の人からの新型コロナ・ウイルス(SARS-CoV-2)感染リスクはどう変わるか。

ざっくりした図のため個人差や数値指標などは考慮されていません。画像をクリックすると拡大します。

Risk of SARS-CoV-2 transmission from asymptomatic people in different settings and for different occupation times, venting, and crowding levels (ignoring variation in susceptibility and viral shedding rates).

[Two metres or one: what is the evidence for physical distancing in covid-19?] (BMJ 2020; 370 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.m3223) (Published 25 August 2020) Cite this as: BMJ 2020;370:m3223

画像をクリックすると拡大します。


概念図の見方

  • 横軸は、まず密集度によって(低)密集(高)密集に分かれています。

密集度:()密集 or ()密集。

不特定多数の人間が集まる劇場や屋内でのライブコンサート、屋内でのスポーツ観戦など満席の場合は、(高)密集です。

  • 次に換気条件で、(低)密集(高)密集をそれぞれ3分類しています。

換気条件:屋外/換気良好 or 屋内/換気良好 or 換気不良

  • 縦軸はマスク着用の有無接触時間の長短によって、4分類。

マスク着用/短時間の接触
マスク着用/長時間の接触

ノーマスク(マスクなし)/短時間の接触
ノーマスク(マスクなし)/長時間の接触

  • 集団活動の種類とレベルでは、飛沫が拡散する行動のレベルによって3分類します。

沈黙(会話なし)
おしゃべり・会話
大声・歌う

咳・くしゃみ>大声・歌う>おしゃべり・会話>沈黙(会話なし)の順で、飛沫が飛ぶ量が多くなる。つまり感染ハイリスクです。

  • 感染リスクは、LOW◾︎Medium◾︎High◾︎の3分類ですが、数値的な指標はありません。

劇場は必要な条件をいくつも揃えて感染リスクを低く抑えている

忽那先生の記事でも紹介されていますが、最も感染ハイリスクHigh◾︎な状況は、満員の屋内でのライブコンサートで、スタンディングした観客がノーマスクで大声で歌ったり、コール&レスポンスするような時です。

()密集、換気不良、ノーマスク/長時間の接触という4つが重なった時です。図では右寄り右下の赤いスペースです。

このリスクを減らすためには、マスクの着用を義務化し、大声のコール&レスポンスを見直すことになります。マスクは不織布マスクが望ましい。

新型コロナ・ウイルス感染症のパンデミックになり、ライブ・コンサートも様変わりしました。今年の夏は贔屓のライブがあるんですが、不織布マスク着用、無言で拍手することを誓います。

最も感染リスクが低いLOW◾︎なのは、(低)密集、屋外/換気良好、マスク着用/短時間の接触という4つが重なった時。図では左寄り左上ののスペース。

客席の感染リスクは、低リスクLOW◾︎か、中リスクMedium◾︎です。

客席では、マスクをして、飲食を禁止し、おしゃべり・会話を必要最小限にすることで、感染リスクを常に低リスクに抑える。これが観客側の感染リスクのコントロールです。

宝塚歌劇団からの「会話を控える、飲食禁止」という指示は、観客を感染リスクから守り、客席からクラスターを出さず、公演を継続させることに繋がっています。

(観劇後は直行直帰と言われますが、これは人の流動制限に繋がる対策です)。


密集度、換気、マスクの着用、会話の有無でリスクは変わる( BMJ 2020;370:m3223)

感染予防に重要なのは人の行動変容

劇場は感染予防のために必要な条件をいくつも揃えて、感染リスクを抑え、客席でクラスターを出さずに公演を継続させています。この条件が一つ崩れると簡単に感染ハイリスクに転びます。

一定規模の劇場は感染対策のために換気設備を入れ替えたりフィルターを整備しています。新歌舞伎座は「客席内の空気は12分に1回、外気との完全な入れ替えを行う換気システムを導入している」、兵庫県立芸術文化センターは「3ホールとも約30分で90%が外気に入れ替わる」ことをうたっています。

ほか、出入り口にはセンサーの検温や自動手指消毒器を設置したり、洗面所を増やしたり、清掃・消毒を念入りに行なったりしていますが、感染予防に重要なのは人の行動変容です。設置されたものを人が使う事で効果を発揮します。

劇場の出演者は舞台上でマスクを着用しない(ノーマスク)で喋ったり、大声を出したり歌ったりします。常に感染ハイリスクHigh◾︎です。この舞台上での感染リスクを抑えるには、出演者がマスクをするしかないのですが、それは一部の現代劇以外では実現困難でしょう。そのために出演者は感染しないことを第一目標にして、外食や人との交流を制限し、PCR検査を定期的に行い、お稽古場では不織布マスクして歌稽古やダンスの稽古をして、感染リスクをコントロールしています。

舞台と客席は2メートル以上の距離がとられ、出演者達の行動変容の努力を観客は離れて見守る。

パンデミック(コロナ渦)により、舞台観劇がそういったものになってしまった事に悲しみはあります。

観客にできる努力は、「劇場内・客席での会話や飲食は控える」。

そして新型コロナワクチン接種です。行動変容がんばろう!!