[diary] COVID-19パンデミック雑記(45)ワクチン・パスポートを巡るあれこれ

ワクチンの接種を受ける、受けないは個人の選択

海外渡航向け「ワクチン・パスポート」が話題

世界的に新型コロナウイルス・ワクチンの接種が進むにつれて、ワクチン接種済みを証明する「ワクチン・パスポート」が話題に登るようになってきました。

国内では6月21日から企業の職域接種が本格化し、医療従事者や高齢者などの優先接種からビジネスの場に拡大します。現在、政府が検討している公的な「ワクチン・パスポート」は、ビジネス用途の海外渡航向けが主目的のようです。

日本はまず海外渡航者用に今夏にも発行し、ビジネス往来などを後押しする。欧州連合(EU)は域内の移動解禁に向けて7月から運用を始める。

一般のビジネス利用も想定した公的な制度は、加藤勝信官房長官をトップとする省庁横断のチームで検討を急いでいる。まずは紙の公式証明書を今夏に利用できるようにする想定だ。年内にはスマートフォンのアプリなどでデジタル化する段取りを描く。

新型コロナ: ワクチン証明書、日本は今夏発行 経済正常化を後押し: 日本経済新聞 (2021年6月7日)


米国は導入せず。EUは7月1日から導入

欧米は以下のように対応が別れました。

米国政府は「ワクチン・パスポート」を導入しない。

6月16日の記事でもマヨルカス国土安全保障長官が「ワクチンパスポートの導入は検討していない」と記者会見で述べたそうです。

ただし州レベルではニューヨーク州のように導入済みのところもあります。

米ホワイトハウスは6日、新型コロナウイルスのワクチン接種完了証明書を連邦レベルでは導入しないと発表した。市民のプライバシーや人権を守るためとしている。

米政府、「ワクチンパスポート」導入しないと発表 /BBCニュース(2021年4月7日)

EUは、ワクチン・パスポート「EUデジタルCIVID証明書(EU Digital COVID Certificate)」を7月1日から導入。

EUデジタルCIVID証明書(EU Digital COVID Certificate)」は、個人が以下のいずれかであることを示すデジタル証明とのこと。

*COVID-19のワクチンを接種済み(been vaccinated against COVID-19)
*新型コロナウイルス検査の陰性結果または
*COVID-19からの回復
(received a negative test result or recovered from COVID-19)

証明書の保持者は入国時のCOVID-19予防のための措置(自主隔離や検査など)を原則的に免除される。”証明書”は27のEU加盟国内で有効。

EUは、夏のバカンスシーズンで域内での渡航を活性化し、観光業の立て直しを図りたいようです。


ワクチン・パスポートに関する議論

忽那先生がまとめておられますが、ワクチン・パスポートについては、接種に関する個人の自由を侵害する、健康情報を提示することによるプライバシーの侵害、ワクチン接種機会の格差などの問題点が指摘されています。

またワクチンの種類は複数あり、有効性や安全性が異なります。高い有効性を示すワクチンとそれより有効性が劣るワクチンの扱いをどうするのか。

上記などのいくつかの理由から、WHOは「ワクチン・パスポート」については否定的のようです。

[ジュネーブ 6日 ロイター] – 世界保健機関(WHO)は6日、新型コロナウイルスワクチンの接種を証明する「ワクチンパスポート」を海外渡航の要件とすることを現時点で支持しないとの認識を示した。

WHO、ワクチンパスポート義務付けを現時点で支持せず/ 2021年4月6日) 


国内用途の「ワクチン・パスポート」

国内用途で「ワクチン・パスポート」と言われて、ぱっと思いつくのは、現在、PCR検査の陰性結果の提示を求められるようなケース(職業や場所)はワクチンの接種済み証明による代替が可能だろうということ。

ワクチン未接種の場合は、抗原検査やPCR検査の結果が次善の策となるのでしょう。それとワクチン接種済みでも体調に異変がある場合は受診・検査、休養が望ましい。

フランスでは千人以上の屋内外のイベントではワクチン接種や陰性結果を記録した「健康パス (pass sanitaire)」の提示を求められるそうです。

国内は、現状では欧米ほど感染拡大しておらず、イベントや公演で検査結果まで求められていませんが、東京オリンピック・パラリンピックを開催したら、その後はどうなっているか判らないですね。

ワクチン証明書の発行は自治体が担う想定のようです。戸籍謄本や住民票のような感じでしょうか。

証明書は住民情報を持ち、接種の実務を担う自治体が出す。氏名やワクチンメーカー、打った時期などを記載する。
新型コロナ: ワクチン証明書、日本は今夏発行 経済正常化を後押し: 日本経済新聞 (2021年6月7日)

ワクチンの種類や接種日、感染記録などを記したEUの証明書がモデルになる。接種情報は国が運営する「ワクチン接種記録システム(VRS)」から得る。
新型コロナ: [社説]渡航用ワクチン証明書の発行へ準備急げ: 日本経済新聞 (2021年6月12日)(注:6月16日の記事によると米国は導入しない方向です)

職域接種では企業が実務を担い、証明書の発行は自治体が行う流れです。そのため自治体は、「ワクチン接種記録システム(VRS)」から情報を得る想定のようです。

うーん、「ワクチン接種済み証明」を必要とする人が自治体に接種情報を登録する印鑑証明方式でもいい気はしますが、どうなんでしょうか。

ただワクチン接種は、少なくとも数年、定期的に更新しなければならないと予想され、2019年の日本人出国者数(推計値)は2008万600人だったとのことで、その期間と規模を想定すると、ワクチン接種記録システム(VRS)か。


ワクチンというのは必ずしも100%の効果はない

ワクチン接種済みで感染した、クラスターが発生したとのニュースがありましたが、日本国内で使用されているmRNAワクチン(ファイザー社製 / 武田・モデルナ社製)は有効性約95%と高い効果が認められていますが、100%ではありません。2回接種後に2週間経過して中和抗体​価が上昇し、発症予防などの効果が発揮されることも明らかになっています。

1回接種では接種していないのと同じと思ったほうがいいです。ワクチン接種済みと胸を張って言えるのは、「2回接種+2週間経過後」です。

厚生労働省>新型コロナワクチンの有効性・安全性について

2021/05/12 横浜市立大学の研究結果より「2回接種9割超 変異株にも「中和抗体」」 #日テレNEWS24 #日テレ #ntv https://www.news24.jp/articles/2021/05/12/07871080.html

横浜市立大学プレスリリース〜2021.05.12 新型コロナ変異株に対するワクチン接種者の約9割が 流行中の変異株に対する中和抗体を保有することが明らかに〜「hiVNTシステム 」を用いた複数の変異株に対する中和抗体の測定〜


その限界を十分に理解するのが不可欠

下記の記事の通り、感染予防、感染拡大防止のために「ワクチン・パスポート」を活用するには、その限界を踏まえておくことが重要だと思います。

「ワクチンパスポート」は、感染拡大防止と社会経済活動の両立に本当に役立つのか。感染症の専門家に聞いてみた。
川崎市健康安全研究所の所長で、内閣官房参与も務める岡部信彦氏。

「ワクチンというのは必ずしも100%の効果はない。(略)『ワクチンパスポート』という形になると、かなり高い効果がなければ『パスポートを持っているからよい』というわけにもいかない」。

「ワクチンパスポート自体は道具としてよいと思うし、隔離期間を短くすることはビジネスや留学、観光でも使えるかもしれないが、あくまでもパーフェクトな道具ではないということを認識しておかないといけない」。

コロナのワクチンパスポート いる?いらない? | NHK政治マガジン(2021年3月31日)