[diary] [Stage] COVID-19パンデミック雑記(23)ミュージカルでのクラスター

八木迷々さんによる写真ACからの写真


ミュージカルのお稽古でクラスター

10月10日に埼玉県さいたま市に本拠地を構える「劇団ミュージカル座」で大規模クラスターが発生したことが明らかになりました。まずはお見舞い申し上げます。罹患された皆様が軽症で済むように祈っております。

ニューヨークのブロードウェイ業界団体(Broadway League)が、10月9日に2021年5月30日までの休演を延長することを発表していますが、COVID-19パンデミックは舞台、中でもミュージカルや合唱という歌う行為を必須とする舞台に極めて厳しい覚悟を要求してきます。宝塚歌劇や劇団四季、その他の公演でも陽性者が出た場合は濃厚接触者のPCR検査を実施し、休演や代役等の対応を取っています。薄氷を踏むような思いをしながらも、長期休演よりは上演できているのはいいことなんだろうなと、複雑な思いながらも、ありがたく観劇しています。

「劇団ミュージカル座」も公演中止が続いていたということで苦難のときですが、願わくば、ここで見直しをして踏ん張って頂ければと思います。

さいたま市の10日時点での発表では演劇関係者91名中62名の陽性者でしたが、13日発表で72人になったようです。濃厚接触者も24人追加されました。

稽古は、10月4日(日)、10月6日(火)の2日間行われ、参加した演劇関係者91名中、県内において14名(その他、劇団からの聞き取りにより、県外の感染者を含めると合計62名)の陽性者が確認されております。
陽性者14名は、すべて市外の保健所にて報道発表しております。なお、演劇の観客はおりません。


お稽古の状況

10月4日(日)、10月6日(火)の2日間の稽古は「止め通し稽古」で、以下のような状況だったそうです。

稽古場はビルの4階で広さ80平方メートルほどの場所が2つあり、稽古中は音が出るため窓を閉めきり、1時間に1度換気をしていたということです。また、稽古中もマスクやマウスシールドを着用し、部屋や手すり、音響機器などもこまめに消毒していたということです。

疑問点はいくつかありますが、2つのお稽古場(Aスタジオ(約80平方メートル)・Bスタジオ(約70平方メートル))を、91人がどうやって使っていたのでしょうか。

劇団からの報告や記事には記載がないですが、ひとつのスタジオに91人が集まることがあったのでしょうか。91人中72人の陽性者ということは一箇所に91人が集まっていたのでしょうか。密集・密閉・密接の三密が重なるとクラスターが発生しやすくなります。もしそうだとすると、このため「舞台上には32人まで」とし、一部をダブル・キャストにして演出を調整した苦労が吹き飛んでしまいました。


スーパー・スプレッディング現象

新型コロナ・ウイルス感染症(COVID-19)では、「少数の患者がより大きな感染を引き起こす」というスーパー・スプレッディング現象が明らかになっています。これは個々人の特性や環境要因によってそういう現象を引き起こしてしまうのだと考えられています。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、無症状でも感染性が高い時期があることが判っており、スーパー・スプレッディング現象やクラスター発生を防ぐために、三密を避ける、マスクの着用、手指消毒などの感染防止策が奨励されています。


お稽古場に在室する人数を減らす工夫が必要

換気について、ビル管理法の基準は一人あたり必要換気量:約 30m3 /hとされ、必要換気量は部屋の大きさ(容積)や在室人数により異なります。人数が多いと必要換気量も増えますし、喫煙者が多い室では浮遊粉塵量が増え、必要換気量が増加するとされます。ウイルスなどの浮遊物が多い場合も同じでしょう。機械換気設備にも限界があり、防音のため窓を開ける時間が限られているとすれば、在室する人数を減らす工夫が必要になります。

厚生労働省も「一人あたりの必要換気量を満たすだけで、感染を確実に予防できるということまで文献等で明らかになっているわけではない」としており、まだ判ってないことが多いです。

換気の評価を行うために、二酸化炭素濃度の測定を進める試みもあります。これも一つの目安でしょう。日本産業衛生学会は、部屋の広さや人数、換気装置の有無などの条件を入力すれば、CO2濃度を推定するシミュレーター(Microsoft EXCELファイル)(http://jsoh-ohe.umin.jp/covid_simulator/covid_simulator.html)を公開しています。


バックヤードでの感染防止策

1組80名の大所帯である宝塚歌劇もお稽古には分散やリモート稽古などの苦労が見受けられます。

稽古場、楽屋での密を避けるため、予備の部屋も空け、グループ分けして稽古。時にはリモートも使った。稽古も詰めに入ると、普段は使わない大劇場を使い、歌稽古には劇場ロビーも使用した。

国立感染症研究所 感染症疫学センターのクラスター事例集(PDF)を見ると、休憩室や更衣室などでのクラスター発生も多く、公演中の表側の感染予防策は入念にされている劇場が多いと思いますが、バックヤードにおける出演者やスタッフの感染予防策を見直したほうがいいのでしょう。


マウスシールドやフェイスシールドについて

マウスシールドやフェイスシールドは顔に接着するものではないため、通常の不織布マスクや布製のマスクのほうが飛沫拡散防止や感染予防としての効果は高いです。マウスシールドだと言葉を発したときの直接飛沫を遮ることは出来ますが、微細小の飛沫(エアロゾル)は開放面から漏れます。

歌い踊ることを考えるとマウスシールドが好まれるでしょう。お稽古中に通常のマスクにしている公演もあるようです。歌稽古の場合は、マウスシールドを着用しても換気を行い、お稽古場の人数制限やソーシャル・ディスタンスの確保が必要だと思います。