[Zuka] 星組バウ『龍の宮物語』(4)

桜蓼(サクラタデ)


初見時、龍の宮物語は「閉じた物語」というのが私の感想でした。なぜなら人間と異形(龍神達)は相容れぬものというのが結末なのか、と思ってしまったからです。


夜叉ヶ池付近の峠で、若い娘を助けた伊予部清彦(瀬央ゆりあ)は、娘の招きで、彼女が棲む夜叉ヶ池の奥底の城、龍の宮に招かれる。

玉水に扮した黒衣達が水色の布を持って上手下手から現れ、清彦は水の流れにのみ込まれてしまう。気がつけば、清彦は龍の宮にいて、住民たちの盛大な歓待を受ける。

”客人(まろうど)来たりて、お出迎え♪”

彼らは橙色、柿色、朱色のオレンジ系と萌黄、若草色のグリーン系の日本の伝統色を使った鮮やかな色の着物をまとい、賑やかで親切で表情豊か。

驚く清彦に、玉座に座った龍神(天寿光希)は妻の玉姫(有沙瞳)が助けられたと礼を述べる。龍神の傍らに立つ玉姫は赤い羽衣をアクセントにした水色の上衣を羽織り、冷ややかな美しい顔で清彦を見つめていた。

宴で、”麦ついて” の余興が始まる。円になって歌いながら銀貨を手に隠して回していく。玉姫が歌を止め、銀貨が誰の手中にあるかを当てる。玉姫の静かな声が響く。

「決めました。清彦殿ですね」

「いいえ、姫様、僕ではありません」と清彦は率直に言いながら、さっきまで握った手の中に何の感触もなかったのに、と手のひらを開く。すると銀貨がそこにあった。御酒が注がれた杯をあける清彦。何度繰り返しても玉姫は清彦を指し、清彦の手にはその度に銀貨が握られていた。

杯を空にして酔う清彦。

これは歓待の意味なのか。

龍神の弟である火遠理(天飛華音)は、玉姫を寵愛する龍神を諌めようとするが、龍神は耳を課さない。玉姫は元は人間であり、火遠理は人間の言いなりになっている龍神を懸念するが、龍神の側近である黒山椒道(大輝真琴)、岩鏡(紫月音寧)、瑠璃法師(七星美妃)も龍神のやることに口出しする事は許されない。

龍の宮では清彦を囲んで、飲めや歌えの日々が続く。

清彦は宴を抜け出し、玉姫がいる庭に入り込む。
人の庭に似せて作らせたという池のある庭に玉姫は引きこもっていた。

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『龍の宮物語』は夜叉ヶ池伝説と浦島太郎をモチーフにした異郷訪問譚だが、人間と人間以外のものが婚姻する異類婚姻譚でもある。

千年もの昔、雨乞いのために生贄とされた娘は龍神に気に入られ、妻・玉姫として龍の宮に迎えられた。異形と化した娘が龍神に望んだものは贄となった自分を捨てた男(拓斗れい)への復讐だった。

玉姫は、男の末裔である清彦を亡き者にするために龍の宮に誘い込んだのだ。

庭で玉姫は刃物を手に清彦に斬りかかるが、笹丸(澄華あまね)が止めようと駆け寄ってくる。玉姫はとうとう清彦を殺せずに、「再びわたくしに会いたければ開けるな」と玉匣(玉手箱)を渡し、清彦を地上に返す。

真っ赤な月を背に玉姫は龍神に「魔が差したのです」と呟く。龍神は男の血族を滅ぼして愛する玉姫の恨みを晴らそうと、千年間、力を貸し続けている。

あと少し。もっと人間を、男を憎むがいい、玉姫よ。


余談。謎解き要素がふんだんにあるのも『龍の宮物語』が人気な理由のひとつだろう。

わらべうた

ノスタルジックなコーラスで歌われる”麦ついて小麦ついて♪”の歌は、どうやら近畿の子守唄・わらべうたのよう。

滋賀県の子守唄で登録されている曲[mora]と龍の宮で歌われる曲調が異なる気がする。編曲されてるのかな?歌詞は[ここ]。

「麦つんで」でコインを回すのは【お座敷遊び】のひとつらしい。

単純で昔懐かしい曲調で耳に残る。

命名

それから龍の宮の住民たちの名前は、黒山椒道(大輝真琴)、岩鏡(紫月音寧)、木蓮(紫りら)、薊(きらり杏)、笹丸(澄華あまね)などの植物や源五郎(夕陽真輝)などの虫の名前、伊吹(紅咲梨乃)など山の名前を由来にしたを由来にしたものが付けられている。

龍神の弟・火遠理(ほおり)(天飛華音)の名前は、日本書紀に登場する神の名前で、火遠理の妻は豊玉姫という。いわれと設定が当てはまるものを選んだっぽい。

瑠璃法師(七星美妃)と弥五郎(蒼舞咲歩)の由来がわからなかったけれど、弥五郎(蒼舞咲歩)は源五郎(夕陽真輝)との語呂合わせかな。

笹丸

宴の席で清彦に注ごうとした酒をこぼして何か物言いたげな笹丸(澄華あまね)。清彦を殺そうとする玉姫を止めに入ったり、雨乞いの儀式を気にしたりしている笹丸はひょっとして玉姫と同じく雨乞いで生贄にされた子どもではないのか仮説。物語の中で、笹丸のことは語られず、謎を呼ぶ仕掛けがされているけれど、お衣装が龍の宮の住民の中で一人だけ、玉姫と同じ水の色の水色なのですよ。澄華あまねちゃんが演じる笹丸は玉姫の復讐に心を痛め、雨乞いの生贄の儀式を止めたい、一所懸命で健気なわらべでした。男の子っぽいけれど、もしかして女の子?

山彦

清彦の書生仲間の山彦(天華えま)は、清彦の祖父だと私は思っている。清彦と同じく玉姫に龍の宮に誘い込まれ、地上に逃げ戻ってみたら云十年が過ぎていたので、自分の孫である清彦の見守りをしている仮説。途中まで生きた人間でしたが、2幕では関東大震災で死亡し、清彦の行方を案じて留まっている亡霊。島村家の山荘に来た清彦の前に現れて、千年前に起きた夜叉ヶ池にまつわる雨乞いと生贄の顛末を語る。

山彦は、清彦の書生仲間の姿と、回想中の龍の宮で飲めや歌えの小狡い顔をした過去の姿と、関東大震災時の書生から年齢を重ねた髭の姿と、3パターンありましたが、天華えまが着物の着こなしや髪型に工夫をこらして演じ分けていました。ぴーも素敵な男役さんになってきたね。

とかなんとか調べたり考えたりして時間がかかってるんです。