[Zuka] 花組『A Fairy Tale -青い薔薇の精-』

花組のお稽古場情報で、高翔みず希組長とみりおさん(明日海りお)の会話。

組長「青い薔薇の精はカッコいいよね」
明日海「いや、カッコよくないです」

珍しくきっぱりばっさり否定する、みりおさん。
そして
バツが悪そうに、笑みで補足する。

明日海「だって青いもん」(笑)

テレビ前の私「だって青いもん」??

「だって青いもん」(エコー)
「だって青いもん」(エコー)

テレビ前の私「もん?もしもし、みりおさん?拗ねてる?かわ」

たしかに全身青かった青い薔薇の精。作中で派手なアクションはなく、罪の存在として空間を彷徨い、老いることもなく、人間の行動を導き、見守る。青みがかった髪、青みがたったお衣装を着こなした明日海りおの美しさだけが際立つ。

宝塚歌劇団の初の女性演出家として、独自の道を切り開いてきた植田景子が、本公演をもって退団する花組男役トップスター明日海りおのために書き下ろした新作『A Fairy Tale -青い薔薇の精-』。大人のための童話であった。

(左)花組『A Fairy Tale』と(右)月組『I AM FROM AUSTRIA』

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大人のための童話

(あらすじ)

19世紀半ば、産業革命が始まり経済発展の波に乗る英国ロンドンを舞台に、草木が枯れ手入れもされなくなったウィングフィールド屋敷の庭を、かつての見事な薔薇園の姿に戻そうとして、薔薇の精達は植物研究家ハーヴィー・ロックウッド(柚香光)に働きかける。「妖精」達との接触に驚き、戸惑うハーヴィーはウィングフィールド屋敷の庭で、薔薇の精エリュ(明日海りお)と少女シャーロット(華優希)との間に出来た絆ゆえに、庭が枯れてしまったことを知る。

妖精の存在を知った人間には忘却の粉を振りかけなければならないのだが、エリュはそれを怠り、光の女神デーヴァ(乙羽映美)により罰を受け、罪を背負った青い薔薇の精としてシャーロットを求めて彷徨っているのだ。シャーロットを探し出し、ウィングフィールドの庭を薔薇が咲き誇る妖精たちの憩いの場所に戻せるか。妖精達に見守れて、ハーヴィ達の奮闘が始まる。

”おとぎ話の終わりはきっと、Happy END”

大きなハプニングも事件もなく、行方不明のシャーロット探しと庭の修復を焦点に描かれる静かな物語である。19世紀半ばのロンドンとはいえ、人々が生き、出会い、死に別れという毎日に大きなドラマは滅多に起きない。そこに妖精を絡ませたのが特異だが、彼らはティンカー・ベルと同じく助言と見守りが役割である。

本来ならば接点のない人間と妖精を繋いだシャーロットを巡る物語であり、植田が、”フェアリー”と呼ばれるタカラジェンヌたちに託した夢を語る作品でもある。

ドラマ性が少ない物語にドラマをもたらすのは、演者の演技力であり、スター力である。植田景子は脚本を書き下ろし、クリエイティブスタッフと共に演出と舞台をセットして、後は花組子の力に任せてしまった。

やはり抜きん出いるのは、明日海りお。静かな立ち姿とは裏腹に内面にシャーロットと仲間たちへの熱い思いを秘めて、柚香光演じるハーヴィ達に関わっていく。その静の美しさと内面の動の激しさが、明日海の喪失と柚香光による継承という大いなる局面を迎えている花組を突き動かしている。

嵐の前の静けさなのか、花組の次期トップスター柚香光は静かである。明日海の退団を最も重く受け止め、責任を感じているのは柚香であろう。柚香演じるハーヴィは妖精たちの支援を受けながら、本作の中で物語を動かす役目を担う。明日海エリュに見守られながら、必死で庭を復興させる手立てを探す柚香ハーヴィ。植田が明日海のために用意した退団作は継承の場であり、再生の場であった。

そしてハーヴィ達の努力が実り、薔薇が咲き誇るウィングフィールドの庭園に姿を表した、華シャーロット。今作がトップ娘役の大劇場お披露目となる華優希は芝居の人である。幼い少女から数多の経験を積んだ老婦人に変貌を遂げたシャーロットが姿を表した時、前トップ娘役役の仙名彩世が卑弥呼となって姿を表した時と似た光を感じた。華優希もまだまだ伸びしろのある人なので、柚香とともに明日海からたくさんの光を得て成長して欲しい。

花組を支える強く決意を見せるのが、主演する東上付き公演の配役が発表されたばかりの瀬戸かずや。ハーヴィが勤務するヴィカーズ商会の社長オズワルドを演じるが、「金のなる木」と植物資源を商売にするが、植物研究員達を複数雇用して真面目に研究に取り組ませているあたりは真っ当な商売にも見える。やり手でバリバリのオズワルドだが、多少のおどけが入るのが瀬戸流。『マスカレード・ホテル』も楽しみです。

ハーヴィの叔父の庭師ニック・ロックウッドを演じる水美舞斗は瀬戸かずやと共に柚香光の花組の要となろう。組替えの永久輝せあを引っ張りながら、頑張っていってほしいのですが、マイティが損な役回りを引き受けないようにとも願っています。みんなマイティの処遇を気にしてるよ。

シャーロットの母・フローレンス・ウィールドン夫人を演じる城妃美伶は今作を持って退団。芝居では出番は少ないけれど、ドレスを着た優雅な姿と上品な芝居で華やかな場面を作り上げていた。

娘役はMysterious Lady役の乙羽映見も今作で退団。『愛と革命の詩』を見た時にえみちゃんは景子先生の推しなんだなと思ったんですが、まだ変わってなかったんですね。退団に際して最大のプッシュに応えた、えみちゃん。豊かな声と柔らかな包容力のある貴婦人だった。

あとは妖精ブルケ役の音くり寿が目についた。顔と名前がすぐ判るというのももちろんあるのだけれど、手や腕、足の動かし方がバレエの動きで、人間の動きとは違う妖精の所作を作っていて、顔より先に所作の優美さに目が止まった。

ちょ花娘がどんどん減っていくのがつらい。下級生ファイ!

時間切れで『シャルム!』に到達しなかった。