開幕前、紅さんはインタビューで主役のホン・シンシンを指して、「これがはまり役ってどう? って思う性格の悪さ。ここにきて、私、え? そんなんなん? って(笑い)」と答えて笑いを取っていたが、幕が開いてみれば、うん、ホン・シンシンは紅ゆずるだからこそ主役として成り立つ!と、このキャラクターを造形した演出家の小柳奈穂子と紅ゆずるに賛辞を送りたい気持ちになった。
私らしく終わる 笑って「じゃあね~!」/紅ゆずる
(日刊スポーツ / 2019年7月11日)
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(あらすじ)
牛魔王(汝鳥 伶)と鉄扇公主(万里 柚美)の息子の魔界の王子・紅孩児(こうがいじ)は、「西遊記」で孫悟空(礼真琴)のライバルとして描かれる、傍若無人の暴れん坊。日光菩薩(漣 レイラ)と月光菩薩(ひろ香祐)と兵たちに追われるうちに、人間界に落ちて記憶を失い、上海の総合料理チェーン“大金星(グランド・ゴールデン・スター)グループ”のCEOエリック・ヤン(華形 ひかる)に拾われ、上海料理界のスーパースター・ホン・シンシン(紅ゆずる)として成功する。
ホンは持ち前の傲慢さを発揮し、アイリーン(綺咲愛里)と祖父老虎(美稀千種)が営むホーカーズがあるパラダイス・マーケットを買収し、美食のためのシンシン・ワールドを作ろうと目論む。
ホンの強引さに怒ったアイリーンは、彼が出演する食聖コンテストに単身乗り込んだ。ピンクのジャージを着こなした彼女の正体は?
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プロローグで、紅ゆずるが魔界の王子・紅孩児の姿で寝そべった姿で舞台中央にせり上がり、日光菩薩(漣)と月光菩薩(ひろ香)をけむに巻く。
「残念ながら、俺様はスターだ!日が隠れようが、月が隠れようが俺様の輝きは増すばかりだっ!」
紅孩児の発するセリフがまさしく当て書き。似合う。その通り。
観劇2回目だったか、このセリフを聞いて、型を知って型を破る唯一無二の型破りトップスター・紅ゆずるが宝塚歌劇の舞台から去ってしまうことを実感して、寂寥感に襲われた。
座付き作家にこんなセリフを言わされる人ってそうそういないよ!
紅さんが星組のトップスターに就いてから、紅さんの懐の深さに私は全幅の信頼を置いて星組公演を見てきた。ひろきさん(七海ひろき)は紅さんと組むことも多くて、可愛がってもらえて安心だった。(琴かいというのもあったな)。礼真琴・舞空瞳の次期トップコンビで星組は安泰だと思うけれども、それでも。
泣く要素はないはずのプロローグでハンカチを握りしめて涙ぐむ。
涙は紅さんとあーちゃんの退団公演には相応しくない!!相応しくないないんだよ。頑張れ自分。割と必死。
食聖ドリライ!!
紅孩児が銀橋を歌いながら渡り、銀橋中央でピンクの長い髪に長いドレスの天女S・綺咲愛里と出会う。あーちゃん天女!かわいいは正義。小柳先生、正しい。ときめきが止められない。
舞台上には孫悟空(礼真琴)を挟んで天人A(華形ひかる、瀬央ゆりあ)と天女A(有沙瞳、舞空瞳)が現れる。その背後に控えるは天人と天女、天界の軍勢。
ここで孫悟空、天人Aと天女Aが銀橋を渡りながら、「HA!HA!」という掛け声で踊る音楽のノリが好きでね。孫悟空の歌う歌詞はなんかちょっと怪しいんだけれど、このノリは楽しいに決まってる。これから何が起こるのか。✨ときめく✨涙がひっこむ。
こっ、これが小柳奈穂子による、夢のキャスト勢揃いのドリームライブ(ドリライ)か!!小柳ワールド炸裂!!って思いましたがカッコいいので許される。音楽はヒャダイン氏、振付はAYAKO先生です。
ここで紅さんによるアナウンスが入る。
あれ?「私の記憶が確かならば」って、
それは、
料理の鉄人
フジテレビ系の料理人対決番組(1993~1999年)。ええっと星組生の何割がご存知で?観客は‥(リアタイしてた人は手を上げて。はーい)。
本作での「料理の聖人」の食聖コンテストのモデルは明らかに「料理の鉄人」。「私の記憶が確かならば…」は、美食アカデミー主宰(司会)の鹿賀丈史さんの決り文句。それから紫りらによるマダム・ヤンが言う「おいしゅうございました」は、番組アドバイザーで審査員だった岸朝子さんの定番セリフ。
知らなくてもいいけれど、知っていると可笑しみが増す雑学です。
ナマステにはナマステで返す
料理の鉄人はともかく、紅ゆずると綺咲愛里の退団公演のため、2人がトップコンビとして出演した作品のエッセンスが散りばめられており、その象徴は、白妙なつが演じる美魔女ヴィミーである。
二人のお披露目公演『オーム・シャンティ・オーム』に司会者として登場していたヴィミーが今回はテリー・ロイ(彩葉玲央)を相棒に、テレビ・レポーターとして登場し、お披露目公演から退団公演まで繋ぐ役目を果たしている。ヴィミーは美声を披露しながら、食聖コンテストからアイリーン(綺咲愛里)たちの仕事場ホーカーズ愛麗飯店まで取材に走り、場を仕切る。なかなか重要ポジション。
ヴィミーが「ナマステ―」と客席に声をかけると、「ナマステ!」と元気よく返すのが星組ファン(星担)のマナーらしい。
内輪受けになりそうなネタがいくつかあり、完全なる紅ゆずると綺咲愛里と星組への当て書き仕様。ここまで書いてもらえると星担として幸せではある。ただ仕込まれたネタがわからなくても、トップコンビの退団公演ゆえの特殊性だと思って割り切ることも必要だと思う。
オレタンセイ
「アドリブの嵐」と書いているブログを見たが、紅さんは意外にも(?)、演出家と脚本に忠実で、今回の食聖でもホンのアドリブは少ない。
ホン・シンシンが登場時に自分を指して言う「オレタンセイ」も脚本に入っている(ル・サンクで確認済み)。
ただ女優のキティ(夢妃杏瑠)に「ホン、カッコいい!」と言われる箇所は、キティ「ホン、タンセイ!」、ホン「俺様、チョウチョウタンセイ」とアドリブになっていたりする。
「端正」は紅さんの好きな褒め言葉なのだ。
どこで聞いたか忘れたが、これを知らないと「オレタンセイ」で笑えないかも。しかし、あのーちょっとタンセイ大安売りでは??面白いから許される?
アドリブは、食聖コンテストの出場者達(朝水 りょう、桃堂純、湊璃飛)やパラダイス・プリンスのメンバー達(瀬央ゆりあ、天華えま、天希ほまれ、極美 慎、天飛華音)が日替わりで何かしている。目が足りない。
ミュージカル・フルコース
『GOD OF STARS-食聖-』
作・演出/小柳 奈穂子
完全なる今の星組への当て書きである。なんか楽しい。
作品の本筋に全く触れずに(1)が終わったぞ。