[Zuka] 月組『ON THE TOWN』見たよ。

今年の1月に東京国際フォーラムで上演された月組『ON THE TOWN』の「夏バージョン」を7月28日に梅田芸術劇場メインホールで観劇しました。梅芸がOTTにジャックされていた。

ON THE TOWN@梅芸メインホール

ブロードウェイ・ミュージカル
『ON THE TOWN(オン・ザ・タウン)』
“ON THE TOWN”
Music by LEONARD BERNSTEIN
Book and Lyrics by BETTY COMDEN and ADOLPH GREEN
Based on a Concept by JEROME ROBBINS
潤色・演出/野口 幸作

__

1944年初演のブロードウェイ・ミュージカル、1949年にはジーン・ケリー主演で映画化という作品ですが、オリジナルも映画も東京国際フォーラム版も兵芸で7月末に上演されたフルオーケストラのオペラ版も見てないです。元々はバレエ作品なんですね。

舞台は1944年のニューヨーク。当時の世界の情勢(第二次世界大戦中)が背景にあるが、戦時下におけるネガティブな要素や戦意高揚の要素をぎりぎりまで押し隠し、大都会ニューヨークの世相を反映した舞台で、レナード・バーンスタイン作曲の音楽に乗せて、華やかなダンスシーンが繰り広げられる。

1幕はドタバタコメディ調で水夫たちの刹那的な恋模様が描かれ、2幕はショーアップされたクラブ巡りが展開される。2幕のほうが楽しかったです。

鳳月杏 / 珠城りょう / 美園さくら / 暁千星

海軍水兵達が、船で海上に出れば、そこはいつ交戦するかわからない戦場。休暇の間に大都会で気分転換をし、生きるエネルギーを補給する。観光や美味しい食事、そして恋。

大きな事件があるわけでもなく、大きな幸運が降ってくるわけでもない。市井の人々が、たまたま出会い、追いかけ、手繰り寄せる幸せ。

労働者の歌声(颯希有翔)で幕が上がる。早朝のブルックリン海軍造船所。

24時間の上陸許可を得た海軍兵のゲイビー(珠城りょう)とオジー(鳳月杏)、チップ(暁千星)の3人は、憧れの大都会ニューヨークへと繰り出す。

高らかにNew York, New Yorkを歌う3人。

今も昔もニューヨークは憧れの街。

隊のエースではあるけれど奥手で真面目なゲイビー珠城りょうと頼もしいけれどラフさもある兄貴分の鳳月杏のオジーに、パパのガイドブックを大事に抱える若いチップ暁千星というのは、それぞれの学年そのままで似合う。

地下鉄に乗った3人は、ビル・ポスター(周旺真広)が貼り出した今月のミス・サブウェイのポスターを見る。ゲイビーは、ビルから、”今月のミス・サブウェイ”について講釈を受け、ポスターのアイヴィ・スミス(美園さくら)に一目惚れ。この子だ!と、ときめきを止められない。

ゲイビーは、ダンスと歌と絵画を習い、家庭的な女性らしいアイヴィに会いたいと思う。だが、一海軍水兵の自分でいいのか??

そんなゲイビーに、鳳月杏のオジーが、「ゲイビー様のお通りだ」と士気を鼓舞し、俺たちは昔ゲイビーに助けられたんだから、今度は俺たちがゲイビーのためにひと肌脱ごうぜと、パパのガイドブックに基づいた観光にこだわるチップを説得する。

ゲイビーの底力を知るオジーの、熱意と説得力。さすがちなっちゃん。月組生として輝く鳳月杏も新鮮です。

オジーは、アイヴィ・スミスに出会うためにチップのガイドブックに載っている劇場や美術館に手分けして行ってみることを提案する。

地下鉄に貼ってあったポスターを剥がしたゲイビーは、おせっかいなおばあちゃん(楓ゆき)に咎められるが、持って逃げてしまう。恋に盲目状態で、突っ走るゲイビー、そしてオジーとチップは別々に分担場所へと向かった。

チップは、タクシードライバーのヒルディ・エスターハージー(白雪さち花)、オジーは人類学者のクレア・デ・ルーン(夢奈瑠音)に出会い、ゲイビーはアイヴィの幻を追いながらカーネギー・ホールへたどり着いた。

暁千星がチップをやや幼めに作っているので、3人のキャラがくっきりしており、女性陣との組み合わせも良かった。兄貴分オジーと落ち着いた知性的なクレア、幼めだが実はしっかり男のチップとイケイケで惚れっぽいヒルディ、真面目でピュアなゲイビーと同じく真面目でピュアなアイヴィ。

🌙🌙🌙🌙🌙🌙🌙🌙🌙

ゲイビーはアイヴィに一度は会うけれど、待ち合わせたタイムズ・スクエアで再会を果たせない。ゲイビーがめっちゃ切ない顔をして落ち込んでいく。そんなゲイビーを慰めようとオジー達はゲイビーをナイトクラブに連れ出す。

『夢現無双』では、さくらちゃんのお通がたまきさんの武蔵を恋い慕い、追い続ける関係でしたが、OTTでは逆転。アイヴィに会えずしょんぼりするゲイビーの姿がやたらとくすぐるやつでした。

着たきりの水夫のセーラー服がダサくてですね、フィナーレのタキシード姿の珠城りょうに感涙しました。ジェントルな姿が似合う。『I AM FROM AUSTRIA』には期待しています。

__

全体的な感想。見ていると、戦時下の米国軍隊(海軍)の慰撫のために作られたのかな?という気がしました。日本でも戦時下に兵隊を見舞う芸能関係の慰問団がありましたが、そういう意図が根底あると思うと、この作品の作りが理解しやすかった(私が)。

ニューヨークで24時間しか与えられていない水夫たちの恋は、一夜限りの恋、行きずりの恋に近いけれど、若者達がそれぞれに恋の相手をみつけ、希望や願いを抱いて船に戻る。戦地にあっても再会したい相手や行きたい場所があるという希望や願いは人を慰め、生きるエネルギーを与える。

兵役忌避や厭戦ムードの回避を担う戦意高揚作品の一種として作られているけれど、そこはかとないアイロニーやペーソスも見いだされ、1944年にこれをブロードウェイで上演してしまう米国合衆国の国力やお国柄に素朴に感嘆します。

現実的には、時間に余裕のない若者たちが慰安婦とか風俗に飛び込むところを、エネルギーに満ち溢れた音楽とパフォーマンス満載のピュアな恋物語に仕立てるブロードウェイ・ミュージカルの見事さよ。

しかしながら、この作品を戦勝国・米国でリバイバルするのは良いとして、敗戦国の現代日本で上演する意味はどこにあるのだろうか、とは終演後に思いました。宝塚歌劇として、OTTに「戦意高揚」に見出す想定ではないのかもしれない、ないんだろうな。

上演理由らしいのは(パンフレットには書いてないですが)、2018年はレナード・バーンスタインの生誕100周年。それで宙組『WEST SIDE STORY』、今年は月組で『ON THE TOWN』なのか??

パンフレットの野口幸作先生の言葉によると、「脚本は版権の都合上、アダプテーションは許されず、原作通りとなっております」ということで、「潤色」というのは翻訳や訳詞の言葉選びを主に行ったということなんでしょうか。注:アダプテーションとは脚色や潤色の意。

それで野口先生的には「ショー作家として培った経験をもとに、宝塚独自の絢爛豪華で人海戦術を駆使したスペクタキュラーな現代版『ON THE TOWN』を目指し」たそう。確かにショーアップされてましたね。そこは楽しかったし、客席登場や客席退場が何回もあり、フィナーレも楽しく客席降りもある。可能な範囲で工夫が凝らしてありました。

しかし版権が厳しく脚本の変更がままならない海外ミュージカルを宝塚歌劇で上演する意義というのをもう少し掘り下げて考えたほうが良いのかなと思いました。宙組WSSや雪組『20世紀号に乗って』でも問われていたことですが、『ON THE TOWN』の世界観と内容から、改めて思いました。これは演じる月組の責任ではなく、演目を選ぶ製作者側の責任です。

宝塚歌劇で海外ミュージカルの巨匠といえば、小池修一郎氏ですが、代表作である『エリザベート -愛と死の輪舞-』は、ウィーンオリジナルと宝塚歌劇版、そして東宝版では、演出や脚本を変えてあり、宝塚歌劇でも東宝でも再演を繰り返すロングラン演目です。

宝塚版は座付き作家が、「タカラジェンヌのための作品」として作っており、そこが宝塚ファンが『エリザベート -愛と死の輪舞-』を愛し続ける理由のひとつでもあると思うのです。

宝塚歌劇で海外ミュージカルを上演する際には慎重に選んで頂きたいというのが、今回の結語。