昨日は星組新人公演でした。新人公演出演者の皆様、スタッフの皆様、おつかれさまです。
作: 菊田一夫
潤色・演出:上田久美子
新人公演担当:谷貴矢
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新人公演は本公演とほぼ同じ脚本・演出でした。18時開演、19時45分終演の135分。本公演と同じですが、本公演はいつも時間が少し延びていて、掲示時間とずれています。
演出面では、新人公演で第1場Bのプロローグービア祭りーの場面(客席降り)は省略しても良かったかなと思いました。経験にはなるかもしれないけれど、歌と踊りがメインのプロローグは負荷が高い。新人公演は何役も掛け持ちしている下級生も多いし、本公演でもショーでも客席降りは経験できる。「大捜索」でも客席降りがあるので、プロローグを省いたら良かったのにと思いました。極美慎・天華えま・天飛華音のトライアングルが大階段を降りてくる姿はカッコいいけれど、芝居の新人公演なのだから、もっと芝居部分にエネルギーと時間を費やしてほしいです。
谷貴矢先生が張り切ったんでしょうか。詰め込みますね。東京ではプロローグももっとスムーズに行くんでしょうけれど。とは言え、星組新人公演は各人がそれぞれで役を自分のものにしようと模索して、作ってきていたので見ごたえがありました。
新人公演は本公演より、キャストの素が役に反映されている度合いが高いし、一所懸命なひたむきさが表に出ます。そういう意味で新人公演らしい新人公演でしたが、頭一つ抜けていたのが長の期の98期で経験豊富な、有沙瞳(ヴェロニカ)と天華えま(フロリアン)。さすがでした。
カール・シュナイダー役の極美慎(100期)は、昨年の『ベルリン、わが愛』の新人公演からぐんぐん進化している印象です。ひたむきに素直に作ってきて、すっきりした容姿で清潔感のあるカールでした。怒った顔がキリッと美しくて、水夫というか水兵さんという感じもします。冒頭の『鴎の歌』は緊張もあったでしょうけれど東京への大きな課題。ここ肝要。
役の紅カールでは、冒頭の『鴎の歌』でもう涙腺に来ているのですが、極美カールは最後にアンゼリカ(星蘭ひとみ)に、「捨ててきたよ」と言うあたりで涙腺に来ました。正義感が強くて、「女を捨てるなんて」と罪悪感が強いのが極美カール。可哀想だった。この後、マルギットを忘れようとするんでしょうか。
紅カールは捨てたというより、俺よりもフロリアンと一緒になったほうがマルギットは幸せになるという選択なんでしょう。紅カールは、船の舳先で『鴎の歌』の「我が心、いまも君を愛す」と歌って見せる微笑みにマルギットへの愛を感じます。アンゼリカのことも大事な思い出として愛していますよね。
あと極美くんは話し言葉が標準語に近く、紅さんは根本に大阪弁があるので、紅カールにもわずかになまりを入れているというのが判りました。標準語のほうが、耳にきれいに聞こえて都会的に感じるけれど、田舎の農家出身で妹のベティにもなまりがあるので、カールにもなまりが残っていてもおかしくない気がするのですが、どこまで求めるか。
「俺と結婚してくれないか」←極美カール
「俺と結婚してくれねぇか」←紅カール
新人公演初ヒロインの水乃ゆり(102期)。夢咲ねね似の小作りの顔立ちで長い首とすんなりしたスタイルで、バレエ歴が長いのかな。OSOの振り付け講座で印象づけられ、次が中日劇場公演のブケタカで『恋の花咲く道』を七海ひろきの相手役で踊った優美な踊り子の印象です。緊張していて表情も硬かったし、歌うと高音は裏返ってしまうので、多分いっぱいいっぱいなのですが、マルギットという女性を、筋を通した上品さで最後までやり切ったのはとても良かったと思います。
湖のそばのレストランでカールを特等席に誘って「恥ずかしくないわ」という時、あーちゃん(綺咲愛里)のマルギットはちょっとだけカールの身なりや言葉遣いを恥ずかしく思っているのですが、水乃マルギットは無邪気に男性連れでも恥ずかしくないわ、私の夫だもの的に思っている。浮世離れ度は水乃マルギットのほうが高いかもしれません。そこから上流階級の人たちの反発と父の怒りを見て連れ戻されて変わっていくのが水乃マルギットなのかな。
あーちゃんのマルギットの表情の豊かさを見てほしいです。丘の上の綺咲マルギットの表情の変化、愛らしさが素晴らしくて毎回見惚れます。
マインラート夫妻が、天希ほまれと小桜ほのかという組み合わせの目の大きい美形カップルでしたが、本役より穏やかでこの人達を怒らせるとは何をしでかしたのかという演出(ではないと思うけれど、本役のマインラート夫人が威厳たっぷりでこわいんだもん、なっちゃん)。
天華えまのフロリアンは、実直ですね。本役の礼真琴のフロリアンはノブレス・オブリージュというか上流階級の者は率先して人を引っ張っていかねばならないというのか、とても強く迷いが見えにくいのですが、天華フロリアンは、本役より強さが和らいて、カールとマルギットの組み合わせに迷いもあるし、マルギットに帰ってきてほしいんだけれど、学があるので自由恋愛は認めてしまう。
結婚披露で「カサブランカのフカール」ネタを披露する極美カールに、言葉を選び選び、どうやったらカールを落ち着かせて、マルギットを守れるか、考えつつ話しかけている姿がフロリアンの苦しみを感じさせました。
輪郭をもうちょっとくっきりさせるといいのにな、と思いましたが、そうなると強くなりすぎて場をさらっちゃうかな。ラストの有沙ヴェロニカが場をさらったように(有沙ヴェロニカに目が釘付けでした)。
カールの水夫仲間のトビアス(天飛華音)とオリバー(蒼舞咲歩)、マルチン(天路そら)、エンリコ(希沙 薫)、リコ(碧海さりお)。
天飛華音は今回は本役を真似ずに自分で作った感じですね(本役は七海ひろき)。地声が低いのか、声も男役向きの低さで、海の男っぽい粗さがありそれが演技を骨太に見せていたトビアスでした。
上手の花道で釣り竿を持ってわちゃわちゃしている水夫たちがかわいくて、頑張ってるなぁと思いました。そこをもう一歩、くっきりと芝居と化粧で輪郭を作ったほうがいいです。本役たちも初日から日を追うごとに荒くれ感が増していくので、新人公演ではなかなか難しいでしょうけれど。
時間切れ。