手塚治虫の命日(2月9日)に始まった本公演だが、「ブラック・ジャック」週刊少年チャンピオン連載40周年を記念しての公演らしい。タイトルに「挽歌」がついていたので、誰か死ぬのかと思ってドキドキして観ていたが、死人は出ず、どちらかというと、エレジー(哀歌)の意味の挽歌だった。手塚治虫の名作『ブラック・ジャック』に対するオマージュがふんだんに込められた正塚作品である。かなり好き。DVDはでないらしい。残念。
パンフレットの正塚先生の言葉には、「エピソードの筋を追う事よりも、ブラック・ジャックと様々な登場人物との関わりをじっくりと描く事に重きを置き、彼の人となりや心の内を打ち出せるような物語を構成」とあり、その通り、無免許で法外な報酬を要求する天才外科医ブラック・ジャックの日常を描くことにより、彼の信念や人柄を浮き彫りにしている。
そして、未涼 亜希は、その脚本の意図を汲み取り、『ブラック・ジャック』という作品で手塚治虫が描いた、苦しみつつも人間の存在を肯定しながら生きるブラック・ジャック像を体現し、超はまっていた。以降、ブラック・ジャック=BJと書く。
あおきは(宝塚公演に限らず)、物語の根底に流れる精神というか、ポリシーを気にする人で、ポリシーが一貫していれば、多少の齟齬は気にしないという見方・読み方をしているのだが、本作品を貫くのはヒューマニズムであり、それが一貫しているので、BJが多少短気で怒りっぽかろうが平気なのだ(笑)。BJはせっかちで、すぐ怒鳴るんだよね。これは原作も本公演でも一緒だった。当たり前か(!?)
そういうBJに対抗できるのは、泣く・ダダをこねる・わめくという手が使えるピノコしかおらず、本公演の前半はピノコ誕生編とも言える。1幕目は、ピノコが「アッチョンブリケ!」と叫ぶ姿で幕となり、明るい未来を感じさせて、とても良かった。ピノコの独特のキャラクターを愛らしく演じた桃花 ひなはすごい!
物語のキーとなるのは、バイロン侯爵(夢乃 聖夏)とカテリーナ(大湖 せしる) のカップルだが、こういう設定の人物は手塚作品だと不思議はなく、正塚先生はすっごく手塚治虫作品を読み込んでいる方なんだと思った(が、初演は知らないので、勝手に思っただけです)。「マトマラン大臣」とかのネーミングも、手塚作品にも「〆沢」とか「シッ・チャカ・メッ・チャカ氏」とか出てくるので、なるほどと思った (笑)。
今回のもうけ役は、帆風 成海(ほかぜ なるみ)演じるアメリカ人護衛官トラヴィスで、BJのボディガードとして遣わされたのに、ピノコのお守りを命じられる。アッチョンブリケ!しか言わなかったピノコが、いきなり「バカ」と言うと、「しゃべった!!」と喜ぶという護衛官にあるまじき(←偏見)素直さで、未涼BJとの掛け合いも良い味を出していた。間の取り方が上手い。
それから、大澄れいは、1人で「おむかえでゴンス」の運転手や「郵便でゴンス」の郵便屋など四役こなしていた。お疲れ様です。ヒョウタンツギも出ないかと探してしまった。BJに命を助けられ更正する青年カイト役の彩風 咲奈とその恋人エリ役の沙月 愛奈も、その他のキャスト達もみんな良くて、雪組もすごいね。
舞台は、背景の窓枠と照明が印象的に使われ、黒と白の世界で踊る未涼ブラック・ジャックとその影達(透真 かずき・煌羽 レオ・天月 翼・桜路 薫・真地 佑果他)に、赤い照明があたり静かで緊迫した迫力を生み出していた。
アッチョンブリケ!
■主演・・・未涼亜希
『ブラック・ジャック 許されざる者への挽歌』
原作/手塚治虫 作・演出/正塚晴彦
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ公演 公演期間:2月9日(土)~2月17日(日)
日本青年館大ホール公演 公演期間:2月22日(金)~2月27日(水)
- ブラック・ジャック:未涼 亜希
- 医師連盟理事長: 麻樹 ゆめみ
- バイロン侯爵: 夢乃 聖夏
- 五条ミナ:早花 まこ
- カテリーナ:大湖 せしる
- エリ: 沙月 愛奈
- ベンリー・キッチンジャー/青井: 透真 かずき
- ペロリー・クリキントン/ 雛月 乙葉
- 運転手/ゴンチャロフ/郵便屋 :大澄 れい
- ピノコ :桃花 ひな
- 山野 :真那 春人
- カイト : 彩風 咲奈
- トラヴィス:帆風 成海
- ガートルード:舞園 るり
- 白田/中沢: 煌羽 レオ
- セバスチャン: 悠斗 イリヤ
- マトマラン大臣/小沢:大樹 りょう
- 赤井:愛 すみれ
- 大沢:花瑛 ちほ
- 川田 :天月 翼
- 黒田:桜路 薫
- ピノコの影: 妃華 ゆきの
- 山田:真地 佑果
- 渋井 : 彩月 つくし
- 大統領/海田:叶 ゆうり