[Zuka] 2017年月組『瑠璃色の刻』

美弥るりか単独初主演公演『瑠璃色の刻(とき)』、本日は赤坂ACTシアター公演初日、おめでとうございます。梅田シアタードラマシティで2回、観劇しましたが、みやるり始め、月組子の意気込みが伝わってくる舞台でした。赤坂ACTシアター公演がより充実したものとなりますよう。

Twitterだと以上で終わりなんですが、blogだとそうはいかないですな。

演出は花組ショー『雪華抄』が好評だった原田諒先生。時代は18世紀のフランス革命前後のベルサイユ。死を超越した不老不死の謎の人物と言われ、錬金術を操り、魔術師と呼ばれたサン・ジェルマン伯爵を名乗る男が宮廷に入り込み、王族貴族に取り入りながら、のし上がろうとする姿を描く。

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ストーリーはシンプルというか、フランス革命前夜のベルサイユ宮殿で、国王ルイ16世と財務長官ネッケルの攻防が繰り広げられ、取り巻きに囲まれながらも孤独を抱える王妃マリー・アントワネットが贅沢に興じる。そこに一攫千金を目論んで潜り込む山師達。そして貴族政治に不満を頂く、革命家ロベスピエールと市民達による牢獄バスティーユ陥落からのフランス革命への突入、と宝塚歌劇ではおなじみの題材で、理解しやすい。

1幕冒頭と2幕冒頭の美弥るりかを中心とした群舞がとても美しく妖しい雰囲気を醸し出していてテンションが上がる。美弥るりか、絶好調。月城かなと、海乃美月との並びも美しく、ここのワイルドさのある宇月颯が入って、新生月組を強く印象づけた。

サン・ジェルマン伯爵を騙るのは旅芸人出身のシモン(美弥るりか)。その従者テオドール(宇月 颯)に成りすますのはシモンと同じ旅芸人の一座にいたジャック(月城かなと)。孤児だった二人は育てて貰った旅芸人の一座を抜けだし、サン・ジェルマン伯爵の居城と噂される城に忍び込み、シモンそっくりのサン・ジェルマン伯爵の肖像画を見つける。そして伯爵の居室から「賢者の石」と呼ばれるラピスラズリの珠を盗み出した。そして身なりを整えた二人が次に姿を現したのは、ルイ16世(光月 るう)と王妃マリー・アントワネット(白雪 さち花)が列席する舞踏会。2人は、長広舌で不老不死サン・ジェルマン伯爵の来歴をまくし立てて貴族達を煙に巻き、若返りの秘薬や賢者の石による占いで金儲けを始める。

 

フランス革命を題材は先行きが読めるので、この作品の最大のオリジナリティであるサン・ジェルマン伯爵の人物像やペテン師的な壮大感を期待していたのだけれど、作品の意図は違っていて。

ポスターに出ているように、美弥るりかが、ビジュアルと演技でサン・ジェルマン伯爵をスケール大きく丁寧に作っているのに対して、シモンのペテン師としてのスケールの小ささ(思想のなさ)にギャップがある。ルイ16世やアントワネットの信任を得て、財務長官ネッケル(輝月 ゆうま)の罷免の相談を受けたり、アントワネットの子ども達の未来を占って欲しいと言われたりするのだけれど、その返答がお追従の域(寵愛を維持するための迎合)を出ていない。それが狙いなのかもしれないけれど、結果的に物語のスケールを小さくしてしまい、幕開けの冒頭ダンスによる期待感の高まりとかのギャップが出て、痛し痒しの感があった。

ただ、その痛し痒しを救ってくれたのは、美弥るりか達、月組子のお芝居。特に旅芸人のシモンが、不老不死のサン・ジェルマン伯爵として生きようとしたが、貴族達が求める伯爵のスケールに追いつけない、その苦しさとつらさを細やかに表現した演技は胸に迫るものがあった。

実はこの物語は「サン・ジェルマン伯爵」はネタ的な扱いで、本質的には名もない庶民が生きていくために大事なものは何かを探すものなんだね。(ネッケルまゆぽんソロが嬉しい)。

サン・ジェルマン伯爵とは逆にエピソードと演者のスケール感がジャストフィットしているのが、月城かなとの演じるジャック。2幕ではサン・ジェスト伯爵から離反し、革命家ロベスピエール(宇月颯)に汲みし、貴族達を追い詰めていく立場に転じるが、月城の持ち味である誠実さが功を奏して、自分のアイデンティティを確立し、自立していくジャック像となっていた。雪組から組替え直後の舞台だったけれど、周囲の気遣いもあり、瑠璃色カンパニーに馴染んでいた。

この作品の華は、海乃美月演じる旅芸人の一座のプリマドンナ・アデマール。アントワネットの取り巻きであるポリニャック伯爵夫人(夏月 都)とランバール公妃(晴音 アキ)が招いた芸人達の舞台で美しいバレエを披露し、アントワネットに気に入られる。アデマールは幼い頃に家族を貴族の圧政のために亡くした恨みを抱えているが、アントワネットに乞われて王宮のバレエ団に入り、シモンとジャックに再会する。不安と悲しみを抱えるアデマールが、自分よりも大きな不安と悲しみを抱えるアントワネットに出会ったときに憎みながらも強烈に惹かれる。セリフ(説明)はないが、立ち居振る舞いで、最後まで王妃の側に付き添ったアデマールの心情が伝わってきた。

そんな若者達を慈悲の心で包み込むのが、白雪さち花のマリー・アントワネット。この作品の中で最もスケールの大きさ、包容力が求められるのが、マリー・アントワネットで。ペテン師と判っていても、自分を素直に慕ってくれる若者達を判っているわけですよ。断頭台前のソロといい、圧倒的な存在感を持って、舞台を引き締めた。月組の娘役強し。

宇月颯のロベスピエールは正当派ロベスピエールだった。情熱的で真摯で真面目で理性的。クートン(颯希 有翔)、ヴィルヌーヴ(蓮 つかさ)、ビュゾー(佳城 葵)を引き連れての歌とダンスも迫力があり、メンバー的にもわくわくした。

フィナーレでは、ダンサーとしちゃん(宇月)を中心にした男役群舞とみやるりと海ちゃんのデュエットダンスが見応えがあった。作中に恋愛要素が乏しかったので、このデュエットダンスが唯一のときめきシーンで、まっ白なお衣装の王子様風みやるりと同じくまっ白でかっちりしたドレス(ちょっと動きづらそう)のプリンセス海ちゃんが夢夢しく舞う。作中からこの2人(シモンとアデマール)に恋心を醸し出しておけば良いのにとは思いました。

美弥るりと海ちゃんが恋愛ものをあまり演じていないのは気になるところである。宝塚歌劇の役者としては恋愛要素のある芝居でできるというのは重要な事なので、今後に期待しよう。

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ミュージカル
『瑠璃色の刻(とき)』
作・演出/原田 諒
ヨーロッパ史に今も多くの謎を残すサン・ジェルマン伯爵。ある者は彼を不老不死の超人といい、またある者は稀代の魔術師だという。時空を超えて生きる錬金術師であり、比類なき予言者、そして正体不明の山師──。
ふとした事から謎多きその伯爵になりすました男は、瞬く間に時代の寵児となり、いつしか宮廷での立場は大きなものになっていく。しかし、やがて押し寄せる革命の渦に巻き込まれ…。18世紀フランスを舞台に、「サン・ジェルマン伯爵」として虚飾に生きた一人の男の数奇な生き様をドラマティックに描くミュージカル。