[stage] りゅーとぴあプロデュース『エレクトラ』

4月30日(日)13時 兵庫芸術劇場(阪急 中ホール)観劇。

ギリシャ悲劇を題材にした作品「エレクトラ」。プロデュースのりゅーとぴあは、Noismを擁するりゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館のこと。

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アルゴスの王アガメムノン(麿 赤兒)は神のお告げに従って,トロイア戦争を終わらせるために長女イピゲネイア(中嶋 朋子)を生け贄に差し出す。だが、帰国したアガメムノンは娘を失った怒りに燃える妻クリュタイメストラ(白石 加代子)とその情婦であるアイギストス(横田 栄司)に風呂場で斧を使って惨殺される。

アガメムノンの次女エレクトラ(高畑充希)は、父を殺した母を憎み、我を忘れ、母クリュタイメストラと継父アイギストスへの呪詛を吐きながら、ボロをまとい、泥にまみれて城外で暮らす。そんな姉を心配する妹クリュソテミス(仁村 紗和)の説得にも耳を貸さない。エレクトラの微かな希望は国外に逃れている弟オレステス(村上虹郎)と再会し、母への復讐を果たすこと。

クリュタイメストラは、スパルタ王の娘であり、トロイア戦争の発端となったヘレネの姉である。最初の夫とその間に生まれた子どもはアガメムノンに殺され、父スパルタ王によってアガメムノンに降嫁させられた。クリュタイメストラはその恨みをエレクトラに訴えるが、彼女は「男が出来たから、父が邪魔になっただけ」と罵る。復讐と血の連鎖でがんじがらめになる母と娘のところに、オレステスが帰ってくる。エレクトラは驚喜し、オレステスを唆して、クリュタイメストラとアイギストスを殺させる。

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ギリシャ神話は人間くさいというか、神々は奔放で浮気し放題だし、人殺しも復讐もあるし、勘違いや嫉妬妬み嫉みで話が進んでいくけれど、ものすごく魅力的な世界でもある。それは人間の優しさや素直さや美しさといったものをギリギリとそぎ落とし、そぎ落とす傷みと苦しみをぶちまけ、建前を一蹴し、本音の中の本音をさらけ出してくるという、その意味での理想像が描かれるからかもしれない。

(これが現実にあるとすれば、この事件とか、この事件とかかなぁ。ううむ、まぁグリム童話も本当は怖いって言われているしね。※事実は小説よりも奇なりというけれど、ブログを書くためにWikipediaを見て、現代では現実がギリシャ悲劇を凌駕していると思ったなりよ)。

この作品は男性がアクセント(華)で、女性が主役となり復讐と狂気が描かれる。題材からすれば見苦しくも汚らわしくもなろうが、全くそんなことを感じず、クリュタイメストラの白石加代子の狂気もエレクトラの高畑充希の狂気もとてもチャーミング。

白石加代子の演じるクリュタイメストラは、自分の行為の弱さも醜さもずるさも全て(薄々ながらも)自覚しており、エレクトラにそこを突かれると怯むのであるが、それでも地位と名誉と愛欲を欲し、殺されてからは復讐の女神を呼び出して、オレステスを呪う。

高畑充希のエレクトラは、まだ若く、視野狭窄に陥って、自らの正当性を疑わない。オレステスが帰還し、いよいよクリュタイメストラに復讐が出来るという段階の狂喜乱舞がとてもチャーミングな演技。麿や村上の合いの手も絶妙で、ああ、狂気とはこういう状態を言うのか、と納得させられる。

オレステスは、母とその情婦への復讐はアポロンの神託によるものとして正当性を掲げつつも、人を殺したという良心の呵責に苛まれ(復讐の女神に取り憑かれ)、飲まず食わず夜も眠れない状態を過ごす。オレステスと腰縄で繋がれたエレクトラは、弟を気遣いつつも復讐の余韻を味わっている。狂気に押されて、二人で睦み合おうとしたところに、アポロンの助けが入る。

三女のクリュソテミスは、経過をつぶさに知りながら事態を止められない己の無力さを抱えて、自分の家族を見つめ続ける。

そして3幕で登場する長女のイピゲネイア。女神アルテミスの巫女として海から岸辺に流れ着いたギリシア人を生け贄として捧げる役目を負うイピゲネイアの元に漂流者となったオレステスが運ばれてくる。弱ったオレステスに過去を聞くうちに姉弟であることが判り、二人でアルゴスに逃亡することを企てる。そしてイピゲネイアは血と復讐ではなく、知恵を持って事態の打開を図ろうとし、女神アルテミスの力添えを得るのである。中嶋 朋子の絶望と悲しみで己を諦めた感のあるイピゲネイアが絶品であった。生け贄を捧げつづける巫女の役割を果たすが故に自分で手段を選べるとなれば、知恵を選ぶ。

最後の場面でエレクトラはアポロンの神託により、出会った男の妻になり、子どもを産んで育てる事になるが、エレクトラになぜその課題が課せられたのか、その理由が判然としないために、ここはやや説得力に欠けた。エレクトラにとって、子どもが心の支え、希望になるであろうと言われてもそれは当然だけれど、贖罪はないのね?的な疑問もわく。血と復讐の連鎖を断ち切るために、エレクトラとイピゲネイアが選ぶ方法(知恵 or 婚姻)の違いがまた興味深いものではあったのだが。

麿 赤兒はアガメムノンのほかにアポロンほか複数の役をこなし、この舞台を覆う父の役目を果たして、存在感が抜群だった。そして抜群の台詞回しと間合いで、殺されかける場面なのに笑いを取る横田 栄司。素晴らしかった。

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観劇した兵庫公演千秋楽では、2幕で女神アルテミスに扮した白石 加代子が、エレクトラとオレステスに贈る言葉(セリフ)を忘れて、台本を取りに戻る(しかも2回)というアクシデントがあった。初見でMY楽だったため、これはアクシデントか演出かと盛大な疑問符を出していたら(1幕でも殺される寸前のアイギストスが笑いを取っていったりするという舞台だったので)、カーテンコールで高畑充希から「皆さんは大変レアな回をご覧になって…」、村上虹郎「1回だけ!1回だけ!」というフォローがあった。驚きのレア回でした。ありがとうございました。

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母と娘の壮絶なバトル! ギリシャ悲劇「エレクトラ」観劇レビュー  2017.4.18 青年座/On7 尾身美詞

りゅーとぴあプロデュース「エレクトラ」MTP Inc.

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出演
エレクトラ:高畑 充希
オレステス:村上 虹郎
イピゲネイア:中嶋 朋子
アイギストス:横田 栄司
クリュソテミス:仁村 紗和
アガメムノン:麿 赤兒
クリュタイメストラ:白石 加代子

◆ 演出:鵜山仁
◆ 原作:アイスキュロス・ソポクレス・エウリピデス「ギリシア悲劇」より
◆ 上演台本:笹部博司

◆ 製作:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
◆ 主催:公益財団法人 新潟市芸術文化振興財団