[Zuka] 2017年花組『MY HERO』

花組2番手のキキちゃんこと芹香斗亜の主演2作目。サイトー先生の趣味が炸裂していた作品でした。大劇場作品はそうでもないんだけれど、別箱小箱だとサイトー先生はオタク心を盛り盛り込んでくるから油断できないというか、楽しいです(笑)。

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六角形が蜂の巣状に連なった幕代わりの仕切りが舞台上にずっと出ているのだが、これがポスターと同じようなオレンジや緑、水色、黃色などの色が踊るアメコミ調のカラフルさで、Bang!とか、I’m a real HERO!!というポップが踊っている。見るからにノリとばか騒ぎのB級の世界で、コミカライズな非現実感を醸し出している。

人気俳優のノア・テイラー(芹香 斗亜)は、人気に奢り、女優ハンナ・フォスター(美花 梨乃)を始め、女に甘く、遊びが激しく、トラブルを起こして、スポンサーのフィル・ホワイトハンズ化粧品会社社長(冴月 瑠那)を怒らせる。ノアは、主演映画「MASK☆J The Movie」を下ろされ、所属事務所からタレント契約を切られてしまった。映画はノアのスーツアクターを務めてきたテリー・ベネット(鳳月 杏)が主演を務めることに!

フィル・ホワイトハンズがノアを出演させないように各方面に手を回し、あっという間に過去の人となってしまったノア。やさぐれているところに元テニスプレイヤー(全米900位以下)でグラビアタレントのクロエ・スペンサー(朝月 希和)に出会う。グラビアタレントとしても一向に売れず、株に手を出して借金を抱えるクロエを助けたところ、クロエはノアのマネージャーとして再びトップの座に返り咲かせると宣言する。ポジティブ極まりないクロエは、人気俳優の過去を捨てきれず、鬱屈を抱えるノアに、テレビでの通販番組や遊園地での特撮ヒーロー「MASK☆J」のスーツ・アクターの仕事を持ってくる。

通販番組はなんとかこなしたノアだが、遊園地ネバーネバーランドでのMASK☆Jのスーツ・アクターを切れて途中で投げ出してしまう。それをMASK☆Jをヒーローと尊敬する車椅子に乗ったマイラ・パーカー(音 くり寿)に叱られ、ノアはMASK☆Jのスーツ・アクターだった亡父ハル・テイラー(綺城 ひか理)のことを思い出すのだった。

中心のストーリーは落ちぶれたスターのノア・テイラー(芹香)が、亡父に助けられた元子役のマイラ(音)やクロエ(朝月)、ライバルのテリー(鳳月)らと関わる中で再起を図っていくという成長物語なのだが、成長物語の過程がカリカチュアライズされて、かなりヘン。

福祉学を専攻するマイラが通うシルバーホーム(院長:華雅りりか)は、スマイルカンパニーの会長スマイル・スマイリー(天真みちる)、エマ・スマイリー(乙羽映見)、スマイリーJr.(矢吹世奈)に土地を譲れと迫られていた。上り坂のスマイルカンパニーは、ノアのライバルであるテリーが主演を務める映画「MASK☆J The Movie」のスポンサーにもなり、テリーの妹で医学研究に打ち込むドクター・セーラ(茉玲 さや那)の支援も申し出る。

その支援の裏にはある壮大な目的があったのだ!!

Meは、Youは、とカタコト英語を交ぜて話すスマイル・スマイリーとその妻子のテンションの高さが可笑しい。特撮ものでは欠かせない「世界征服」を企むスマイルカンパニーとそれに対抗する正義のヒーローの対決。スマイリー一家が裏主役となって物語を引っ張り、ノアとテリー、マイラ達が巻き込まれるという展開だが、スマイリー一家物語が破天荒で常識破りなため、シリアスな正当派ヒーロー物語のほうがどうしても引き摺られる。

梅芸ドラマシティ初日は、芹香のテンションがいまいち低めで、シリアスなスターの返り咲き物語に比重が重く、2幕の主軸となる奇想天外なスマイリー物語と世界観(ストーリー)が分離して見えたが、3日目に観劇したときはかなりテンションが上がり、統一感が出てきていた。スターの返り咲き物語と世界征服を企むスマイリー一家の物語を融合し、統一させるのは、主役の芹香しかいないわけで、そこは初日はいまいちだった。赤坂ACTシアター公演後のドラマシティだったが、東京と大阪とではやはり勝手が違うんだね。

芹香 斗亜は演じる役にあくどさがなく、やや軽いのが特徴で、「MY HERO」の表面を被う賑やかな軽さはぴったり。芹香 斗亜と鳳月 杏、綺城 ひか理らのスタイリッシュでスマートな好演が、この作品を騒々しいだけのB級にしない。スマイル・スマイリー(天真みちる)とその妻子の世界を

今回のノアも根は素直で優しく、表面を薄く被う高慢さや嫌みはすぐに剥がれ落ちた。そこが、2幕にある亡父ハル・テイラー(綺城)とメイベル・ヒル(芽吹 幸奈)との再婚話に傷つき、父に不信感を持った多感なノア少年(糸月 雪羽)が成長した姿だという繋がりが見えた。

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アクションステージ『MY HERO』
作・演出/齋藤 吉正

舞台は20世紀末のロサンゼルス。伝説的な特撮ドラマのヒーロー「MASK☆J」のスーツアクターとして活躍した父の背中を見て芸能界を志したノアは、下積み生活を経てトップ俳優の座に上り詰める。しかしいつしか己を見失っていったノアは、放蕩生活の末にスキャンダルをおこし、事務所を解雇されてしまうのだった。そんな彼がようやく手にした仕事は、顔出し禁止のスーツアクターとして、かつて父が務めた「MASK☆J」を演じるというものであった……。
HEROが教えてくれる“勇気”“諦めない心”、そして“愛”をテーマに、過去の栄光にしがみつき前に進めずにいた若者が、ハンデを乗り越え懸命に生きる女性との交流を経て、人生に再チャレンジする姿を描き出します。