[Zuka] 2017年星組バウ『燃ゆる風 -軍師・竹中半兵衛-』(3)

『燃ゆる風』は、千秋楽前になって、群像劇の様相を呈してきた。

群像劇といっても、主演はもちろん七海ひろきの演じる竹中半兵衛であることは紛れもない。

ただ、星組子が熱演する武将たちがそれぞれに個性的で目を引くのだ。

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織田信長(麻央 侑希)が率いる戦国武将たちにはそれぞれ役割が振られている。丹羽長秀(大輝真琴)・柴田勝家(輝咲玲央)は信長に忠実な重臣であり、明智光秀(音咲いつき)と荒木村重(桃堂純)はいずれ信長に反旗を翻す重臣たち、木下藤吉郎(悠真 倫)は信長の後継者となるものである。そして養子だという噂が流れている信長の長子、織田信忠(紫藤りゅう)がいる。

そこに藤吉郎の軍師となり半兵衛の盟友となる、黒田官兵衛(天寿 光希)が加わる。

その、群雄割拠する戦国時代の猛将たちと、『命の使い道』を説く竹中半兵衛は趣を異にし、演じる七海ひろきの凛とした立ち姿と共にその特異な生き様がくっきりと浮かび上がって見える仕掛けになっている。

奪取した稲葉山城を斎藤龍興に返還し、菩提山城で隠棲する竹中半兵衛(七海)は妻いね(真彩 希帆)、息子の重門(二條 華)と、幼馴染であり忠実な家臣である三郎太(天華えま)達との生活をひっそりと営んでいた。

そこに信長の使いで木下藤吉郎(悠真 倫)が仕官を説きにやってくる。「武士は民百姓が平和に暮らせる世を作ることが務め」と平身低頭して、半兵衛を口説き落とそうとする藤吉郎に、半兵衛は天下泰平の夢を託すことを決める。

幼いころに病に伏す母のために尾張に薬草を取りに行って出会った斎藤道三(朝水りょう)が娘で織田信長の正室である濃姫(音波みのり)に命を大事にせよと諭されたことを心得としている半兵衛は、天下布武を謳い、周辺地域に激しい戦を仕掛ける信長に疑問を抱いていた。

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麻央侑希の演じる織田信長が、大仰な身振りに決めポーズを繰り出し、スケールが大きく押し出しが良く決まっている。それを受ける木下藤吉郎は、悠真 倫が軽妙洒脱に演じているのだが、これが半兵衛を宝のように思い、褒めたたえる藤吉郎で、天上天下唯我独尊の信長とは違う器の大きさを感じさせる造形だった、さすが。

麻央くんは、BSWでは、その超絶スタイルと泰然自若な性格でスターオーラを発揮していて、ショースター系だと思っていたのだが、『桜華』以降、お芝居の進化が素晴らしい。歌とセリフ回しの口跡は、もう少し改良の余地があるんじゃないだろうか。そろそろ七光りは気にせずに、ガンガンやってみると良いと思う。

信長の武将たちにはそれぞれ見せ場があるのだが、丹羽長秀(大輝真琴)・柴田勝家(輝咲玲央)はビジュアル対比で、眼光鋭い丹羽様に、オレキザキ髭似合いすぎ。

信長の不興を買い、謀反を起こす荒木村重(桃堂純)を諫めるのが、のちに本能寺の変を起こす明智光秀(音咲いつき)という構図に、因縁めいたものを感じ、二人のソロと共に、注目した場面だった。

紫藤りゅうの信忠も気になる。「お優しい信忠様」と侍女たちに囁かれる信忠であるが、養子であることを実は知っていて、内面に何か抱え込むものがありそうな、陰を含んだ信忠。この信忠のエピソードを知りたい、スピンオフを見たいと思わせた。

そして天寿光希はうまい!直情径行の官兵衛様、やつれた官兵衛様が絶品だった。半兵衛が後を託していく官兵衛なので、ここは実力派の天寿みっきぃで良かった!安定感抜群。

天華えまの三郎太も目を引いた。半兵衛様大好きで、命に代えてもお守りいたしますの言葉通りに突き進む。先を見据え、時には人の情も踏み分けて進まねばならない半兵衛が、この真っすぐで屈託のない三郎太を失った痛手は大きいだろうと思わせる、姉川の撤退戦の場面。『桜華』の新人公演よりぐっと進化したよ、ぴーすけ!

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武将たちの戦いが表舞台とするならば、裏舞台では女たちの戦が繰り広げられていた。

  • 実子である娘を父・斎藤道三に託し、男子である信忠を養子とした濃姫(音波みのり)。
  • 明るく家内を切り盛りする藤吉郎の妻ねね(万里柚美)。
  • 椿を育てながら、息子・重門とともに半兵衛を待つ、いね(真彩 希帆)。
  • 信長へ人質に出した息子の松寿(天彩 峰里)を案じる官兵衛の妻・光(紫月音寧)。
  • 三郎太に寄り添う許嫁のお雛(七星美妃)。

戦国時代における女たちの戦が『燃ゆる風』の大きな要素として入っているのが、濃姫(音波)の覚悟を描く、第1幕第4場B「家中のうわさ話」や2幕の第6場「岐阜城(いねの謁見)」で感じ取れるが、ほかにも第6場の竹中半兵衛といね、木下藤吉郎とねね、三郎太とお雛のカップルが戦を前に過ごす「それぞれの戦」にも出ている。

はるこちゃんが濃姫で良かった。おとねちゃんの光が美しかった(ソロもワンフレーズあった)。

きほちゃんは芝居力、演技力という意味で、もっと伸びる人と思う(歌唱力は抜群)。『燃ゆる風』を糧にして、雪組に行ってもがんばってください。

あとエピローグのカゲソロ(都優奈)、ここにも歌うま娘役がいた。