紫式部の『源氏物語』を田辺聖子氏が現代語訳した『新源氏物語』をベースに、脚本は柴田 侑宏氏、演出は大野 拓史氏という組み合わせの作品で前評判も高く、宝塚大劇場公演のチケットは早々に完売してしまった。
幕が上がると、板付きチョンパで豪華絢爛な平安絵巻が繰り広げられ、華やかなスターの多い花組にピッタリの演目であった。
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『新源氏物語』の特徴としては、物語の中心に光源氏(明日海りお)が君臨し、5人の女人達(藤壺の女御:花乃 まりあ、葵の上:花野 じゅりあ、紫の上:桜咲 彩花、朧月夜:仙名 彩世、六条御息所:柚香 光)が入れ替わり立ち替わり、光源氏に絡んでいく、という構成になっていることだ。
光源氏(明日海)は、桐壺帝の第二皇子であり、才能と美貌に恵まれながらも、母親の身分が低く、帝位につけば国が乱れるとの予言をなされたとの理由で臣下に降下させられ、源氏名を与えられる。
そして幼い時に亡くした母の桐壺の更衣の面影を宿すという父桐壺帝(汝鳥 伶)の妃である藤壺の女御(花乃 まりあ)を、母とも、姉とも憧れ、慕い続ける。
『新源氏物語』では、5人の女人の中でも、藤壺の女御は、「この世に一人ただひとり、あなたがすべて ほかは幻」と光源氏に歌わせる永遠のひととして存在する。
光源氏は、藤壺の女御が病気で三条邸に里下りしていた折に、王命婦(芽吹 幸奈)の反対を押し切り、藤壺の女御の寝所に忍び入り一夜を共にする。その一夜のちぎりで藤壺は懐妊し、のちの冷泉帝になる皇子を出産する。藤壺は自分を愛し、大切にしてくれている桐壺帝(汝鳥 伶)を裏切った事を恐れ苦しみながら、これ以後、皇子を守るために、光源氏を拒み通す。
光源氏は、いのちを賭けても良いと思った藤壺の女御に拒まれ、その身代わりを求めるかのように数多の女性と浮き名を流す。
『新源氏物語』で藤壺の女御の出番はそれほどなく、印象に残るセリフも少ない。それでも光源氏との不義密通の罪を背負いながらも皇子を守りぬいた芯のある、光源氏より年上の女性であることを表さなければならない。花乃まりあは格式の高いなよやかな美しさと不安を醸し出す繊細さを持って演じていたが、個人的には、藤壺の女御には凛とした強さを秘めた女性であると思っている。花乃まりあにはマリー・アントワネットで見せたキリッとした美しさが似合うとも思う。光源氏にとっての藤壺の女御の重みを全身で感じ、藤壺の女御あっての光源氏である、くらいの勢いを見せて欲しい。
というのも、明日海りおは、立ち居振る舞い、視線、仕草、表情の細部にわたって細やかな計算を効かせて緻密に光源氏を作り上げていて、この芸術品のような明日海源氏の心を動かすのは並大抵のことではないからである。ハードルは高いが、トップ娘役である花乃まりあに期待したい。
それからもう一人、明日海源氏の心を動かせる可能性があるのが、柚香 光の六条御息所である。所作や表情は荒削りであったが、柚香光の六条御息所には心があり、生霊となってまで光源氏を慕う哀しみを感じられた。この辺り、もう少し追求して欲しいところだった。
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宝塚グランド・ロマン
『新源氏物語』
-田辺聖子作「新源氏物語」より-
脚本/柴田 侑宏
演出/大野 拓史
1981年に田辺聖子氏の「新源氏物語」をもとに、柴田侑宏脚本・演出、榛名由梨主演で初演、1989年には剣幸主演で再演され、大好評を博した作品。
華麗な平安の宮廷を背景に、帝の第二皇子として生まれ数奇な運命に翻弄される光源氏の、愛と苦悩をドラマティックに描き出す。
光源氏役に挑む明日海りおを中心とした花組が誘う、きらびやかな王朝文学の世界。
グランド・レビュー
『Melodia -熱く美しき旋律-』
作・演出/中村 一徳
華やかで若さ溢れる明日海りお率いる花組の魅力を、躍動的な歌と踊りで綴るレビュー。