[Zuka] 2015年雪組『アル・カポネ—スカーフェイスに秘められた真実—』ネタバレ感想

梅芸シアター・ドラマシティ公演『アル・カポネ—スカーフェイスに秘められた真実—』千秋楽おめでとうございます。観劇が、壮さん、まりんさん(悠真倫)、桜一花様の一行と一緒だったので、雪組子がすっごく張り切っていたのが楽しかったです。

イタリアン・マフィアを描いた『アル・カポネ』は日本でいうと、ヤクザだけれど格好いいという任侠もの感覚ですね。

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昨年末に花組から雪組に組替えになった、だいもん(望海風斗)の主演作品。舞台は、1929年、脚本家のベン・ヘクト(永久輝せあ)が、アトランティック刑務所内に収監されているアル・カポネ(望海風斗)に呼び出される所から始まる。

10代でイタリアン・マフィアに仲間入りし、26歳でジョニー・トーリオ(夏美よう)の後を継いだアル・カポネ(望海)は、左頬にある大きな傷跡からスカー・フェイスという異名を持ち、シカゴ市の暗黒街のドンとして君臨していた。

ヘクト(永久輝)は、アトランティック刑務所の特別房を高級ホテル並みのしつらえにし、ファミリーと自由にコンタクトを取るカポネ(望海)の姿を目の当たりにし、怯えながら用向きを聞く。

「書いた者には事実を知らせたいと思ってね」と、カポネが取り出したのは、ヘクトがカポネをモデルにして書いた映画の脚本だった。だがその脚本はまだ撮影前のもので公開されていない。自分をモデルにした映画の噂を聞き、ファミリーが脚本を入手したと言われ、アル・カポネ(望海)の力の強大さを知るヘクト。そしてカポネ(望海)は、脚本は事実と違う記載があると、自身の思い出を語り始める。

ナポリから来たイタリア系移民としてアメリカで生まれた18歳のアル・カポネは、ニューヨークのブルックリンにあるクラブで働いていた。そこにイタリアン・マフィアの大物であるジョニー・トーリオ(夏美)が、なくなった知人の娘である、アイルランド系移民のメアリー・ジョゼフィン・カフリン(大湖せしる)を、店で雇って欲しいと連れてくる。店で働き始めたメアリー(大湖)に惹かれるアルだったが、メアリーは亡父が借金をしていたアイリッシュ・マフィアに目をつけられており、マフィアに襲われる。メアリーを助けるために、マフィアと戦ったアルは左頬に大きな傷を負う。

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スポットライトで照らされるヘクト(永久輝)。「酔っ払って店に来た女に手を出して、つけられたんじゃなかったんだ」(うろ覚え)と驚く彼に、カポネは言う。「そうさ、惚れちまったのさ」。

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青年アルは、貧してもメアリーとの幸せな家庭を築き、真面目な堅気の仕事に就きたいと願う。だが、しつこくアルとメアリーを付け狙うアイリッシュ・マフィア達に店を荒らされ、店を辞めることを決意する。それを知ったイタリアン・マフィアのトーリオは、アルにシカゴのファミリーに入ることを持ちかける。移民に加えてスカーフェイスでは、家族を養える堅気の仕事に就くことは難しい。そう覚ったアルは、トーリオの誘いを受けるのだった。

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舞台には酒樽を模したセットが置かれ、酒樽が回転すると部屋になるという凝った仕掛けが眼を引く。そして照明の色使いや衣装の色合いと、だいもんが熱唱する歌の数々に圧倒される。原田諒氏は舞台監督としてのセンスは抜群だなと思う。脚本も雪組子がバイトしまくりで舞台中を所狭しと走り、凝ったエピソードが散りばめられていて、かなり下調べをして書いたことも伝わってきた。

それから何と言っても、だいもんの格好良さが異常。←褒めてる。成功してドスの利いたアル・カポネとまだ若くて貧しく初心で向こうっ気の強いアル・カポネは、別人のように違うのだが、切り換えが見事だった。

妻のメアリーを演じる大湖せしるの清楚な美しさや、新聞少年から後にカポネの右腕となるジャック・マクガーン(真那 春人)のひたむきさも見所だった。がおりさんも面白いYO!

ただ…どこから書こうかと思ったが、単刀直入に書いておくと、原田氏は、「若きアル・カポネが成功するまで」を描きたかったのだろうか、それとも「”暗黒街の帝王”であるアル・カポネの生き様」のどちらを描きたかったのだろうか。

エピソードの数と時間配分を見ると「若きアル・カポネが成功するまで」に比重があるように思えるが、作品解説だと「”暗黒街の帝王”であるアル・カポネの生き様」に焦点があるようになっている。ここがはっきりせず、作品のテーマが絞り切れていない。

1幕終了時点では、だいもんと雪組子の頑張りに、これは傑作の予感?と思ったのだが、「若きアル・カポネが成功するまで」のエピソードを2幕に持ち込んだため、「”暗黒街の帝王”であるアル・カポネの生き様」を描く時間が足りず、本題である、捜査官エリオット・ネスと(月城かなと)や弁護士エドワード・オヘア(久城あす)とのエピソードが起承転結ではなく、起転転結となって急展開で最終場面に突入する。盛り上げて盛り上げていきなり落とされたため、「え、まさか、これで終わりですか」とびっくりした。だいもんの裁判での熱唱と熱演で救われたが、あと一歩でかなり良い作品になったのにーという勿体なさでフラストレーションが溜まる。

これは構成の問題が大きい。一度、最大の山場をいかに盛り上げるかを考えて、あらすじを組み立てると良いと思う。物語の構成は起承転結が基本だが、最期の山場を先に考えて、その山場を盛り上げるために必要なエピソードで肉付けしていき、起点をどこにするかに辿り着くという方法。あと調べたことは全部入れてしまいたいものだが、背景説明は必要最低限で構わない。

「”暗黒街の帝王”であるアル・カポネの生き様」に比重を移すと考えると、最大の山場は、だいもんの熱演に圧倒される第10場の裁判の場面だと思う。

裁判で望海アル・カポネは「このままで終わらない」と叫ぶ。ここで気になったのは、原田氏の描いたたアル・カポネのアメリカン・ドリームは何だったのだろう、若い頃は堅気を夢見ていたアル・カポネは、いまはどこを見ているのだろうということだったが、それはさておき。アル・カポネはギャングで犯罪集団のボスだ。いかに本人が義侠心を持ち、市民は抗争には巻き込まないと思っていても、密輸に脱税、収賄、殺人と犯罪のオンパレードで商売をしている。それを逮捕しようとする連邦政府の財務長官である アンドリュー・メロン(夏美よう)や捜査官のエリオット・ネス(月城かなと)は法と秩序の番人であり、それに協力しようとするエドワード・オヘア(久城あす)も含めて行いは理にかなっている。

だが、アル・カポネと会話したネスは、彼の人間性に惹かれる。法と秩序の番人であるという立場と、魅力にあふれる人間と出会えた個人という立場。今まで信じてきた価値観とまったく異なる価値観。その二つのどちらをとるか。そこでもっと逡巡があっても良い。

オヘアはメロン長官と協力して、シカゴに平和を取り戻すくらいの気概をもって、アル・カポネを裏切ればいい。その対抗軸があるから、山場が盛り上がる。

(ここまで書いたついでに書きすぎておくと、ネスがカポネに捜査官と知られるのを覚悟で裁判前に連絡をするとか、裁判前にオヘアとメロン長官の密談をネスが目撃してオヘアに談判するとか、そういうのがあれば良いのに)。←いかに私がもったいなーい!!と思っているか、判ってもらえるかな。

山場は山場らしく、盛り上げてください。起転転結だから、あれだけドンパチやっているのに、平板だとか指摘されるんだと思う。もったいないし、悔しいし!!←立ち位置不明

時間切れで終わり。勢いで書いちゃったので、間違い等あるかもしれませんが、ご指摘はメールフォームでどうぞ。

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ミュージカル『アル・カポネ —スカーフェイスに秘められた真実—』[公式]

作・演出/原田 諒

禁酒法時代のニューヨーク、そしてシカゴを舞台に、貧しいイタリア移民から闇の一大帝国を築き上げ、歴史にその名を刻んだ伝説のギャング、アル・カポネ——。
アメリカが最も華やかだった、狂乱の20年代を生き抜いた多彩な人物たちの人生模様を背景に、愛と野望に生きた「人間」アル・カポネの鮮烈な生き様とダンディズムを、彼を追う捜査官エリオット・ネスとの奇妙な友情を絡めてドラマティックに描くミュージカル・ピカレスク。