博多座公演の2日目11時を観劇してきました。
ご多聞にもれず、新選組・幕末好きで、子母沢寛の新選組関連始め、司馬遼太郎の「燃えよ剣」や「新選組血風録」も大好きだったので、楽しみにしていた演目でした。
博多座は噂通りロビーに出店が多く、幕間で見回っていたら、あちこちで試食させてくれて、それだけで満足できた。通りもんと新茶(八女茶)をお土産に買い、博多どんたくを道すがら見て帰りました。楽しかった。
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『星影の人』
柴田侑宏氏脚本の本作は、1976年に雪組で汀夏子主演で初演され、2007年に雪組の水夏希主演で再演。そして三度目の今回もやはり雪組の早霧せいな主演で博多座公演と、「和物の雪組」の面目躍如たる作品だった。
司馬遼太郎の上記2作品がドラマ化されて起きていた一大新選組ブームを受けて創られた作品ということで、背景説明がかなり省かれている(この点は「ベルサイユのばら」や「風と共に去りぬ」と同じ)。ストーリーは焦点が絞られていて判りやすく情緒があふれ、シンプルな舞台セットと心憎い演出で、全国ツアーや地方公演向きの、(リピーター以外の)一般の人にも愛されそうな大衆演劇作品でした。再演希望が多かったというのも肯ける。
内容は、江戸時代末期に、倒幕運動の吹き荒れる京都で、幕府派として頭角を現した新選組の一番隊組長の沖田総司(早霧せいな)と京の芸妓玉勇(咲妃みゆ)のラブロマンス。
素晴らしいと思ったのは、沖田総司と玉勇の出会いの第1場などでの間合いの取り方と最後の13場での余韻の持たせ方である。
第1場のプロローグでは早霧せいなの沖田総司が星空の中を登場して歌う。青と黒のグラデーションに星が光るというシンプルな舞台だが、若くして逝った沖田総司のイメージに合う。そして京都の芸妓・舞妓による舞の後に、「誠」の旗を掲げた新選組が横一列の隊列を組んで登場する。華やかさと勇壮さの交わり。此花いの莉の歌が効いていた。
雨の中、沖田総司は、浪士達に襲われ、剣を振るって切り抜け、屯所に戻ろうとする。傘をささずに小走りに急ぐ沖田を呼び止めたのは、芸妓の玉勇(咲妃みゆ)。玉勇は自分の持っていた傘を沖田に渡し、自分はお供のおゆき(星南のぞみ)の傘に入る。
礼を言う沖田に、微笑む玉勇。
この場面は、たっぷり間があり、「出会い」を印象づける。
目と目が合って惹かれ合うという、今となっては古典的かもしれないけれども、二人の気持ちが同じタイミングで沸き上がったことを現す、王道。
ちょっと照れながら去る沖田総司を見送り、お供のおゆきから、「沖田総司と言えば、新選組で一番強い人」と教えられ、怖い人ばかりだと思っていた新選組にも、「あんな優しそうな人がいはるんやねえ」と微笑む玉勇は、芸妓を生業とし、浮き世の憂さも知る。偶然の出会いは、彼女の顔に明るさをもたらした。
新選組の屯所では、加盟を希望する佐藤忠四郎(煌羽 レオ)ら新入隊士達に、副隊長の土方歳三(華形ひかる)が、局中法度を言い渡していた。
一 士道に背くまじき事
一 局を脱するを許さず
一 勝手に金策致すことを許さず
一 勝手に訴訟を取り扱うことを許さず
一 私闘を許さず
右の条文に背く者には切腹を申し付ける
「局を脱するを許さず」。一度、志を立てた者が、隊を抜けたいというのは、「士道に背く」事になるため、切腹となる。苛烈な内容に震え挙げる新入隊士達に、隊長である近藤勇(奏乃 はると)は内憂外患、危急存亡の現状を説く。
無骨だが落ち着きのある近藤と、冷静で頭の切れる土方、そして武士出身であり総長という立場につく学者肌の山南敬助(彩凪 翔)によって新選組は統率されていたが、元々は江戸の小さな剣術道場・試衛館の門人達が中心となった集団である。京の住人達が新選組に向ける眼は冷たく、こっそりと勤皇派を支持する者も多い。一糸の乱れも命取りと、苛烈な規律を守り、入隊した隊士達は井上源三郎(鳳翔 大)や永倉新八(央雅 光希)らがしごいて、腕を磨き、新選組の名を挙げようとしていた。
そんな新選組にとっての明るい話題と言えば!
そう、沖田総司のあいびきである。監察の山崎丞(蓮城まこと)からもたらされた知らせに、集団で見物に行き、ニヤニヤと見守る隊士達。刃をくぐり抜ける日々の中でのひとときの笑顔に、和む。
それに先ち、玉勇に会うために約束の場所に出向いた沖田総司は、山南とその想い人の遊女明里(妃華ゆきの)に出会う。そして玉勇と落ち合い、お互いのことを語り合う二人。ここ、ちぎ沖田総司と、みゆ玉勇が、「私より、あなたのほうが幸せ」と歌い合いながら、どんどん明るい顔になっていく、ユニークで素敵な場面だった。なぜなら「私は不幸で、あなたの方が幸せ」って、不幸自慢の仕合っこにも聞こえるのだが、ちぎみゆは、明るく、あなたを敬愛していますよと、伝え合う場面にしていて、お似合いの二人を印象づける。
この場面は前半の山場で、ここの場面の明るさが、後半にかけての切なさを盛り上げた。完全に泣かせに来ている。
ラストの第13場で一人佇み、自分の余命を見つめながら、歩き続けようと覚悟する沖田総司。激動の時代に、この人達はズタボロになりながら、歩みを止めなかったのはなぜだろうと、そんな事を思う。カゲソロで真條まから。
このほかにも、沖田総司と桂小五郎(彩風咲奈)と幾松(白峰ゆり)の絡み、玉勇と染香(早花まこ)を中心にした芸妓の舞、土方歳三と芸妓照葉(加代:桃花ひな)のエピソード、沖田を慕う屯所の女中のおみよ(星乃あんり)や女医の早苗(沙月愛奈)の輪唱など見所がたくさんある。
早霧せいなの沖田総司は、通常モードの高めの声で青年っぽさを出していて、時代の流れや自分達のやっていることの苛烈さを知ってはいるんだけれども、努めて明るく振る舞っているという微妙な陰影をつけていた。
華形みつるの土方さんもイメージにぴったりで、腰が据わっていて情愛の深い人でした。蓮城まことの山崎丞も良かった。監察方の山崎丞は、山南さんの最期に明里を連れてきたり、気が利いて人情味のある切れ者だった。鳳翔 大の井上源さんと共に、新選組の人間関係に潤いをもたらしてくれた。井上源さんは、隊士より年かさで、厳しいけど何かと面倒を見るタイプかな。大ちゃんは胴着を着て歩いているだけで客が喜ぶという奇特な人です。ほんとに貴重。(※奇特は本来の意味です。念のため)
これだけ盛り込んであっても、詰め込んだ感じがない。物語の中心がしっかりしていて、そこに印象的なエピソードが差し込まれるという形式になっているからか。『ファンシー・ガイ』と合わせて、良いもの観た!という気分で帰ることが出来る。
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『ファンシー・ガイ』は、大劇場版をブラッシュアップして、コンパクトでシャープになり、クンバンチェロが中詰になっていた。キャストも人数減だし、ストーリー性のあるものを減らして、曲で熱く賑やかに補う方向になったよう。
地方公演は、初めて見る人が多いと思うので、ショーで「なんかタカラヅカってすごいね、楽しい」と思ってもらえる事が大事かなと思う。私も最初の頃は、ショーのストーリー性とか全く判らなくて、ひたすら華やかな楽しさに「こんなのタカラヅカにしかないね」と思ったのでした。
ローマでの、エルビス・プレスリーのショーの前に、早霧せいなが登場し、カメラマン天月翼が「やや、雪組のトップスターの早霧せいなさんじゃないですか!」と紹介する。博多弁混じりで、どんたく話をしているのに、「ここはイタリアですから」とか言っていた(笑)。
大劇場版で、望海風斗と夢乃聖夏が担当していた部分は、彩凪 翔と彩風咲奈が担当していた。二人で声の音域を分けて歌っていたり、Time To Say Goodbyeは、明るい表情で旅立ちの喜びを歌っていたり、素直な歌い方が、まだまだ伸びるだろうと思わせた。
専科から特出の華形 ひかるは、煌羽 レオと組んで踊りまくったり、クンバンチェロの総踊りでは最初に飛び出してきたり、出来上がっているショーに途中で入るのは大変だと思うが、溶け込んでいて、良かった。
蓮城まことは、客席降りになるとダッシュで飛び出して最後列まで行っていた。大ちゃんときんぐの客席降りは楽しすぎるw
で博多座版の私的MVPは、やっぱりソフィシティケイテッドレディ咲妃みゆです。赤いドレスで、マレーネ・ディートリッヒ張りの大人のエレガンスを見せてくれた。おみそれいたしました。格好いい(^_^)v
書き漏らしもあると思うが終わり。
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ミュージカル・ロマン【公式】
『星影の人』-沖田総司・まぼろしの青春-
演出/中村 暁
1976年、汀夏子主演により雪組で初演され、2007年に同じく雪組の水夏希主演で再演された日本物の名作の再演。新選組にまつわる数々の物語の中でも、沖田総司を中心としたエピソードとして、虚実織り交ぜながら、その短くも激動の青春を、爽やかにそして哀しく謳いあげる。
幕末の動乱期。勤皇佐幕両派が相争っていた頃。沖田総司は、新選組一番隊組長の位置にあった。
文久四年の夏。祇園の一角で、激しい斬り合いの音がする。沖田が七、八人の浪士を相手にしていたのだ。帰り路を急ぐ沖田に雨が降りかかる。そこへ傘をさした芸妓玉勇が通りかかる。傘を貸した玉勇は、新選組の沖田という名前を聞いて、何か心に残るものがあった。
壬生の新選組の屯所に、町人姿に身をやつした山崎丞が、桂小五郎の居所を突き止めたと駆けつけてくる。さっそく副長の土方歳三や沖田を先頭に、祇園の小料理屋へと向かう。祇園の街角。虚無僧姿の桂が足に怪我をして逃げてくる。その前に立ち塞がる沖田。二人は、まだ沖田が江戸にいた頃、ある道場で手合わせをしていた。沖田は、怪我を負っている桂に敢えて剣を抜かなかった。桂を見送った沖田は、偶然にも玉勇と再会する。そのまま別れてしまうに忍びぬ二人は、あくる日の午後、会う約束をする……。
ファンタスティック・ショー
宝塚歌劇101年目の第一歩として、宝塚大劇場、東京宝塚劇場で上演される、早霧せいな率いる雪組の魅力満載のショー作品。パリ、ローマ、ウィーン、マドリード…を舞台に、ダンディの極み、ザ・ガイが登場。時には甘く、時には切なく、時にはエキサイティングに、自由で遊びのあるダンスを繰り広げます。