[Zuka] 花組『カリスタの海に抱かれて』ネタバレ編

カリスタの海に抱かれて』(作/大石 静 演出/石田 昌也)の感想です。

観劇をリピートすると、日数と回数を重ねて舞台が成熟していくのが、多いのだが、『カリスタの海に抱かれて』(作/大石 静 演出/石田 昌也)は、リピートすると、ストーリーの粗が目についてしまう作品だった。判りやすい大きな粗ではなくて、小さな粗が各所にあり、キャストの演技が練れ、流れが良くなると、各所による小さな粗が顔を出して、気になって仕方が無いという。うーん、どちらがいいんだろうね。

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【あらすじ】

時代はフランス革命の動乱期。地中海で最も美しいとされるカリスタ島(架空の島)は、フランスの統治下に置かれる植民地であった。

フランス軍司令官としてカリスタ島に赴任したシャルル・ヴィルヌーブ・ドゥ・リベルタ(明日海 りお)は、密かな大望を胸に秘めていた。自分の生まれ故郷であるカリスタ島をフランスの支配から独立させるという夢を実現させることである。

シャルルの父エンリコ(夕霧 らい)は、その昔、カリスタ島の英雄アルド(高翔 みず希)をフランス軍に引き渡し、代わりにフランスでの貴族の地位を得た。英雄アルドはフランス軍に火刑にされる際に、自分が死んだ日に生まれる男子がカリスタを独立に導くと言い残した。

アルドが死んだ日に生まれた男子は二人、シャルル、カリスタでの呼び名はカルロと、シャルルの幼馴染みのロベルト・ゴルジ(芹香 斗亜)である。

その幼馴染みと別れて家族とフランス本国に渡ったシャルルは、フランス軍士官学校を卒業し、カリスタ島を自分の故郷として取り戻すためにカリスタ島行きを志願して戻ってきたのだ。

フランス総督邸で新司令官を歓迎するパーティを開かれた夜に、シャルルは、カリスタ島民のレジスタンスに毒矢で襲われる。カリスタ島民のレジスタンスのリーダーは、かつての幼馴染みであるロベルト・ゴルジ(芹香)。シャルルは、幼い頃に裏切り者の子どもとして虐められた自分を庇ってくれたロベルトを忘れたことはない。カリスタ島独立の計画を持ちかけるために、シャルルは死をも覚悟して丸腰で、レジスタンスのアジトに向かう。

レジスタンス達に捕らえられたシャルルは、ロベルト(芹香)やセルジオ(瀬戸 かずや)にフランス本国の現状を訴え、武器を横流しするから、手を組もうと呼びかける。シャルルの話に真っ先に興味を示し、シャルルを庇ったのは、セルジオ(瀬戸)の妹のアリシア(花乃)だった。

アリシア(花乃)は、フランス貴族になったのにカリスタ島に帰りたいというシャルルに興味を示す。

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この作品をひと言で言うと、「植民地独立運動を背景にしたシンデレラストーリー」だと思っているのだが、気になるのは、植民地独立運動のリーダーと主人公の友情物語のほうがエピソードが多く、観客が共感しやすいため、舞台の主軸になってしまっていること。

「シンデレラストーリー」のヒロインであるアリシア(花乃まりあ)が現代的な(21世紀的)ヒロインとして描かれているため、時代背景とズレが生じて、浮いて見えること。

シャルルが気になるアリシアは、「シャルルに恋人や妻がいないか探りを入れ猛烈にアタックを開始する」。アリシアは行動がかなり現代的で、下手すると品がなくなりそうな所を、花乃まりあが頑張って、快活でいじらしいヒロインとして演じているのだが、独立運動をそっちのけになるので、全体として、「植民地独立運動」と「シンデレラストーリー」に捻れが生じる。

この捻れを最後の最後でむりやり収束させるのは、主人公のシャルル(カルロ)である明日海りおである。独立運動にケリをつけたシャルル(カルロ)は、カリスタ島とロベルトに別れを告げ、アリシアを選ぶ。この結末で、シャルルは全てを引き替えにしてアリシアを選び、後悔や懸念を欠片も見せない姿が、「シンデレラストーリー」を収束させる。この場面のみにウェイトがかかっていると言っても過言ではない。二つ目のどんでん返しが必要なのだ。

初日開けてすぐの初見の時は、シャルル(カルロ)とアリシアのテンションが違いすぎていて、このカップルの行く末は、蝶々夫人か唐人お吉?それともアリシアがスカーレット(風共)のように独立してしまう?という気分になった。

しかし、先週の土日に観劇したら、ラストでアリシアを抱きしめるシャルル(カルロ)が、隠しきれない喜びと優しさで満ちて、見事なハッピーエンドになっていた。

明日海りおの演技に磨きがかかってきていて、東京公演でもっと変わるかという気もする(見れないけれど)。