[book] ふがいない僕は空を見た

同名映画の原作を読了した。【→映画の感想

鑑賞後、すぐに読み始めたので、つい映画と比較してしまうが、小説は映画よりエピソードが多く、心理描写や行動描写が詳細である。連作長編の形式が効果的で、わかりやすい。映画のように説明をギリギリまで削り、観客の想像に任せるという見せ方は、鑑賞後に感想を語りまくりたい衝動に駆られる。一方、原作のほうの著者が伝えたいテーマがはっきり伝わってくるすっきりした書きぶりも好みだ。どちらも、パワーがある。本作は映画と小説がそれぞれの長所を活かして、絶妙の効果を上げていると思う。

ただ映画では、場面転換でモノローグが挟まるのだが、モノローグの内容が抽象的で、誰が言っているのか、また何が言いたいのかさっぱり判らない。原作では、前後の関係が書かれているので、内容が判明した。すっきり。

映画のラストで、卓巳は、自宅の助産院で男の子の赤んぼうの出産を手伝う。そして男の子のおちんちんを見て、「おまえ、やっかいなものをくっつけて生まれてきたね」と呟く。その呟きがいきなりで、さっぱり意図が判らなかった。原作ではその呟きが、中心をなすテーマをくっきり浮かび上がらせる構造になっている。

中学生になって、とある本に書いてあった「女の子の場合、生まれたときから卵巣の中にはすでに卵子のもとになる数百万個の原子卵胞が詰まっている」という文章におれはショックを受けた。……
男も女も、やっかいなものを体に抱えて、死ぬまで生きなくちゃいけないと思うと、なんか頭がしびれるようにだるくなった。

おふくろが、へその緒がついたままの赤んぼうを仰向けに寝た女の人の胸元にのせたとき、小さな体の割りにはでかく見えるちんこが見えた。おまえ、やっかいなものをくっつけて生まれてきたね。……

赤んぼうといっしょにおれも声をあげて泣きたかった。あんずに吸われた舌とちんこがひりひりしていたから。
『ミクマリーふがいない僕は空を見た』(窪美澄 新潮社)

文庫版の解説で、重松清が書いているが、この「やっかいなもの」というフレーズは、妙に印象に残る。卓巳の同級生である福田良太のパート「セイタカアワダチソウの空」でも、「やっかいなもの」を抱える人が登場する。「男も女も、やっかいなものを体に抱えて」、どうしようもなく苦しいときも、どんなに幸せなときも、生きていく。このやるせなさ、このふがいなさに自分で情けなりつつも、生きていくのだ。

卓巳の母、寿美子は、神社に1人で泣く息子を見て思う。

神さまどうか、この子を守ってください。

ほんと、祈りたくなる。

ふがいない僕は空を見た ふがいない僕は空を見た
窪 美澄

新潮社 2010-07
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『ふがいない僕は空を見た』(窪美澄 新潮社)

  • R-18文学賞大賞受賞
  • 2011年山本周五郎賞受賞
  • 2011年本屋大賞2位
  • 本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10第1位