[movie] ふがいない僕は空を見た

シネ・リーブル神戸のレイトショーで観てきた。原作の『ふがいない僕は空を見た』(窪美澄 新潮社)は、R-18文学賞大賞および2011年山本周五郎賞の各賞を受賞し、2011年本屋大賞2位および本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10第1位となっている。原作も鑑賞後に読み終えたのだが、今回は映画の感想のみに留めておく。

起承転結がきれいについているドラマではなく、日常の出来事を切り取って2時間半の枠に収めた、というシロモノで、セリフや説明がぎりぎりまで省略され、観客側に解釈を委ねる形になっている。そのため、結末がどこに着地するか想像がつかず、2時間半の間、集中し続けて、タカラヅカ公演を3回見るより、エネルギーを消耗した。あと内容について予備知識を持たずに観に行ったので、時系列が判らなくなったり、人物を間違えて途中混乱したりしたのもあるかな。

中身にあまり言及するとネタばれになるので、印象に残ったことだけを書き留めておく。

主人公の卓巳の自宅は助産院なので、分娩シーンが登場する。助産院では、自然分娩(経腟分娩)で出産できることもあれば、病院に緊急搬送されて帝王切開になることもある。もう1人の主人公の里美(あんず)は体外受精による不妊治療を受けており、2回失敗している。

映画で助産院をどう描いているのかも興味深かったが、本作では、「自然」or「人工」、「良い」 or 「悪い」の二項対立ではなく、命は命、生まれた命は精一杯生きてほしい、というフラットな視点が通底している。そのフラットさは、卓巳とあんずの恋愛においてもそうで、二人は社会ルールを破ったという点でペナルティを受けるが、描く側に、二人の恋愛が悪である、という視点はない。そのフラットさがとても心地が良い。ただ、視点がフラットである分、観客の好みで評価が分れそうな作品である。R-18指定だしね。

田畑智子の演じる里美(あんず)の過去はちらっと出る程度だが、身寄りがなく、過去にいじめにあっていたようだ。現在は専業主婦だが、夫は母に逆らえず、里美の居場所は非常に脆い。だが、彼女は頼りなげで弱いように見えるが、したたかに計算も働かせて、必死で生きようとしている。里美が、魔法少女のコスプレをして、あんずとして卓巳とじゃれ合っている場面を観て、彼女にとってコスプレは、現実からの逃避という側面とドラマセラピーとしての側面があったのかもしれないなと思った。田畑智子は、本作で2012年毎日映画コンクールの主演女優賞を 受賞したとのことで、納得の演技でした。

あと福田良太役の窪田正孝が渾身の演技で迫力満点。

『ふがいない僕は空を見た』田畑智子インタビュー

(参考)ドラマセラピーというのは、自分に与えられた人生を「自分が主役のドラマ」と捉え直すことで、それまで以上に自信をもって、魅力的に生きていくためのセラピーです。
「人に癒しを与えられる芸術表現」を目指して、新たなスタートを切ったドラマセラピ スト

 ●ふがいない僕は空を見た(R-18指定)
オフィシャルウェブサイト
劇場公開日 2012年11月17日

生きる。 それだけのことが、 何故こんなに苦しくて愛おしいのだろう。
『人間の「性」と「生」を赤裸々(せきらら)に、滑稽に、せつなくも温かい視線で描く野心作』

監督:タナダユキ

出演者

  • 斎藤卓巳役:永山絢斗
  • 岡本里美(あんず)役:田畑智子
  • 福田良太役:窪田正孝
  • 田岡良文役:三浦貴大
  • 斎藤寿美子役:原田美枝子
  • あくつ純子役:小篠恵奈
  • 松永七菜役:田中美晴
  • 岡本マチコ役:銀粉蝶
  • 梶原阿貴:長田光代

【あらすじ】高校生の斉藤卓巳は 助産院を営む助産師の母と暮らしている。父親はどこにいるかよく知らない。ある日、友人に連れて行かれた同人誌即売会で、コスプレをしている専業主婦のあんず(本名は里美)に出会う。あんずと家が近かった卓巳は、あんずとのセックスにのめり込むようになる。同級生の松永に交際を申し込まれたが、あんずへの思慕を断ち切れず、不倫関係を続けていた。あんずはあんずで、孫を欲しがる姑とわれ関せずの夫との関係に憔悴し、卓巳を心の拠り所にしていたが・・

卓巳の同級生の福田良太は、母親が借金を作って男と逃げだし、認知症が進んだ祖母と2人で暮らしていた。良太は、高校に通いながら、早朝は新聞配達、夜はコンビニでバイトをし、生活を維持している。卓巳の母である寿美子は、そんな良太を気にかけ、お弁当を差し入れてくれるのだが、良太は良太なりにそんな「施し」を嫌っていた。そんな折、学校で卓巳の女性関係が知れ渡り、卓巳が学校に来なくなる。