一昨日が月組版『風と共に去りぬ』の千秋楽で、昨日は、『NewWave!-月-』の千秋楽でした。月組の皆様、スタッフの皆様、おめでとうございます。お疲れ様でした。月組は昨年末から、メリー・ウィドウ、全国ツアー、月雲、風共、NWと怒濤だったし、しばしの休息を!
月組版の『風と共に去りぬ』はスカーレット(龍真咲)の成長物語のようでした。
月組版と宙組版との一番の違いは、スカーレットの最初の夫チャールズ(紫門 ゆりや)と2番目の夫フランク(煌月 爽矢)が、登場することですが、特にフランクを絡めたことが、南部の封建社会を生きる女性の生き様-スカーレット・オハラという生き方-をくっきりと描き出していました。
タラの樫木屋敷の園遊会で、男の子たちに囲まれてちやほやされ、表情がくるくる変わる16歳のスカーレット(龍真咲)は、大人になりかけの少女だった。表向きは自信満々で明るくおしゃまで、同世代の男の子達を振り回すが、その実、まだ世の中を知らない自分を不安がっている思春期の女の子に見えた。
背伸びしたい年頃のスカーレット(龍)にとって年上の落ち着いた知的な青年アシュレ・ウィルクス(沙央 くらま)はまさしく「白馬に乗った貴公子」に見えていたのだろう。そしてアシュレに告白した愁嘆場に居合わせた17歳上のレット・バトラー(轟 悠)は明らかに「失礼な男の人」であった。若き王子様に振られ、無頼漢に嘲笑され、ヤケになったスカーレットは、勢いで、アシュレ(沙央)の婚約者メラニー(愛希 れいか)の兄チャールズ(紫門 ゆりや)と結婚する。
スカーレットにべた惚れなチャールズ(紫門 ゆり)は、恋する若者のふわふわした感が良く出ていて、そのふわふわ感が次の第5場におけるメラニー(愛希 )の悲痛なソロ「戦争は春の日のおこった」と相まって劇的な雰囲気を作り出していた(紫門ゆりやは、爽やか系伍長も良かった)。
南部戦争が始まり、アシュレやチャールズも出征する。チャールズは戦病死し、あっという間に未亡人になったスカーレットは、タラからメラニー(愛希 )とチャールズの叔母ピティパット(憧花 ゆりの)が住むアトランタへやってくる。アトランタでレット・バトラー(轟)と再会し求愛されるが、アシュレへの思慕を理由に断る。そうこうしている間に、南北戦争は激化し、スカーレットは、レットの力を借りてメラニーを連れてタラに帰る。
南北戦争終結後、新政府からタラの農園に課された税金300ドルを払うために、スカーレットは妹の婚約者フランク(煌月 爽矢)と結婚する。婚約者を横取りされた妹スエレン(花陽 みら)や南部の貴婦人方(綾月 せり、美翔 かずき、輝城 みつる)は激怒するが、スカーレットはタラを守り抜き、雑貨店や製材所を経営することに喜びを見いだしていた。
妹の婚約者を横取りして、女だてらに商売を始めたスカーレットは、南部の貴婦人達には当然、受け入れられない。悪いことは重なり、スカーレットの気ままな行動が引き金になって、フランクが北軍に殺されてしまう。フランクを騙して結婚したことには多少の罪悪感を感じていたスカーレットは、周囲の非難よりも何よりも、償いをする前にフランクが逝ってしまったことに衝撃を受ける。
煌月 爽矢のフランクは、スカーレットが南部の貴婦人方に非難されるのをなんとか庇おうとしているのが健気で涙を誘った。「僕が言って聞かせます。僕の言うことなら聞いてくれます。なぜならスカーレットは僕の妻だから」という台詞に、ほとんどの観客は、「あんさん、わかってへんで」とツッコんだのではないだろうか。夫の沽券を気にするスカーレット(龍)では全くないのだった。煌月フランクの優しさは、根拠のない優しさだが、彼の死を知ったスカーレットの動揺ぶりを見ると、フランクの心遣いは、一応、彼女にも届いていたのだろう。
フランクの死に動揺するスカーレットを救ったのは、レット(轟 悠)だった。彼は、スカーレットがタラを守り抜き、飢えと寒さから家族を守っている現状を肯定し、そのままのスカーレットを受け入れる。龍真咲のスカーレットは、手に職を持ち、自分の道を切り開こうとする南北戦争後の新しいタイプの女性だった。轟 悠のバトラーの優しさは、自分の才覚で激動の時代を生き抜き、経験を積み重ね自分に自信を持っている人の優しさである。その優しさをもって彼は、行き当たりばったりで破天荒だが、自立しようともがく龍スカーレットの生き方を、がっちりと受け止めるのである。(レット・バトラー役4回目の轟理事は、バトラーのプロでした)。
フランクの死後、スカーレットはレットと3度目の結婚をし、フランクの雑貨店のオーナーとなり、店の切り盛りはアシュレ(沙央 くらま) が行っていた。アシュレは、礼節を重んじ、教養ある青年だが、稼ぐための技能を持たず、スカーレットがもってくる仕事を頼みにしている。アシュレはスカーレットに庇護されている自覚もあり、後ろめたさもある。でも他に方法がないという、やるせなさを感じた。轟バトラーは、そんなスカーレットを肯定し、支えようするが、沙央アシュレ は「過去に逃げてしまいたい」、「あの頃はみんな輝いていた」と現実から逃避しようとする。沙央アシュレは、そんなアシュレだった。
アシュレの妻であるメラニー(愛希 れいか)は、大事な物を守るためには敢然と立ち向かう腹の据わっている女性だった。水色のドレスに加えて、病弱さを表すためか赤み控えめの青白いメイクだったが、北軍の隊長(飛鳥 裕)に詰め寄られても、びくともしないメラニーは格好良かった。「戦争は春の日のおこった」のソロも短いけれど、愛する者達が死地に赴いてしまったという悲しみが伝わってきた。メラニー(愛希)がアシュレ(沙央 )の精神的な支柱だったというのも良くわかる。フィナーレで二人が寄り添うのもナイスな演出だった。
娼館赤いランプの館の女主人ベル・ワットリングを演じる光月るうは、気の強さの中に、媚態と卑屈さを忍ばせていた。その出し方のバランスが巧い。観客が不快にならない程度の忍ばせ方で、気丈なベルも蔑まれていることは気にしているんだなと感じた。売春は最古の職業のうちのひとつだから、ベルも立派な職業婦人ではあるのだが、内心はいろいろあるよね、きっと。
星条 海斗のミード博士は、壮年の働き盛りのお医者さん。アツい。星条 海斗のアツさはいつも素敵なのだが、ちょびっとツェータ男爵を引きずっていたね。しかし「アトランタ♪アトラーンタ♪らんらんららららら♪♪」とステップを踏むミード博士と、「戦争というやつは」と嘆くミード博士は、「良いもの見た!」と思った。
スカーレットⅡの凪七 瑠海は、まんま「スカーレット・オハラ」だった。本物のスカーレット(龍真咲)は3度の結婚で社会を知り、様々な知恵と経験を身につけるのに対して、スカーレットⅡは、自信満々に見えて臆病な少女のまま成長していなかった。スカーレット(龍真咲)が自分自身の生き方を認めたときに、スカーレットⅡは、スカーレットに溶け込んでしまい、「私が、私になれた!」のだった。
以下は独り言です。
レット・バトラーがスカーレットを置いて1人で家を出てしまったのは、結局年齢差なのかなぁ。28歳のスカーレットに愛されているという自信が持てないレット・バトラー45歳。あの時代(1860年代)って平均余命50歳前後だから、ね。(´-ω-`) 「君は子どもなんだよ」が、なんというか哀愁を誘う。
フィナーレで轟バトラーと龍スカーレットが二人で歌う題名のない新曲「D」は、昭和歌謡「別れても好きな人」【→Youtube】のノリでしたね。
(次はタレーラン祭りだ!)
参考) スカーレット年譜