[comics] 市川春子『宝石の国』(1巻)

珍しく、漫画の感想です。市川春子の最新作、『宝石の国』1巻。「人のように見えるが、人ではないもの」のあり方を描く。市川春子『宝石の国』公式サイト:超美麗の【 フルアニメーションPV(YouTube)】もあります。

市川春子の作品に対して、わたしが思いつくキーワードは、”摩訶不思議”と”ヒューマニズム”。なぜなら、市川春子の作品の登場人物は、「人のように見えるが、人ではないもの」が多い。発想もストーリーもシュール。なのに、毎日の人の営みを、シビアだけど優しい暖かみで描いている。

初単行本『虫と歌』の巻頭に掲載されている『星の恋人』はのっけから、へ?の連続である。

植物発生学を研究する叔父の家に居候することになった、男子中学生のさつき。叔父さんの家につくと、つつじという女の子に出会う。

さつきは、幼い頃に指を切り落としたことがありました。「指は生えたみたいに治ってるし、夢かもと思ってた」。

叔父さんは、「切り落ちた指は、挿し木にしてね。今日も元気に洗濯をしている」と、庭で洗濯物を干している、つつじを指差しました。

彼は、叔父が、自分の研究をもとに「植物を人型にしたもの」」だったのです。

叔父さんは、ケロリと言います。「そんな簡単に植物が人型になるか。実は全部ウソ」

→「ってことにできないかなぁと思ってる」「ちょっと急だったよね」「ごめんね」

 ヲイ!この軽やかな残酷さ。旧来のSFではここが山場だろ、という所をさらりとかわし、奇妙な3人の同居生活を描いていく。

そして市川春子の初連載『宝石の国』も、やはり「人のように見えるが、人ではないもの」が主人公である。本作のキャッチフレーズは、『遠い未来、僕らは「宝石」になった』。

遠い未来、この星に流星が6度訪れた。逃げ遅れ、海に沈んだ者が、海底に棲まう、微少な生物に食われ、無機物に生まれ変わり、不死になった。それが宝石28名。彼らを装飾品にするため月より飛来する無数の狩人と昼夜を問わず戦う。

ざ、斬新です・・・。

登場する宝石達の名前は、フォスフォフィライトダイヤモンドヘリオドールなど、実際の鉱石の名称が用いられている。(ただしシンシャは、「シナバー」のこと。「辰砂」と書くらしい)。【リンク先はホシノカケラ】。

ストーリーの中にも自然に鉱石豆知識が組み込まれている。

「百年に一度の靱性再調査を行っています。堅さを示す硬度は触れればわかりますが、割れにくさを示す靱性(じんせい)は、結晶構造や劈開*など要素が複雑で、慎重に体系化しておりまして」(p.80)
 *「劈開(へきかい)」とは、結晶 や岩石の特定方向への割れやすさを表す 鉱物学 、 結晶学 、岩石学用語(via Wikipedia )。

本作品のフォスフォフィライト(フォス)は、宝石達の中でもひときわ脆く、硬度は三半。誰と擦れても壊れてしまう特異な体質に加え、超がつく不器用。そこで宝石達の師匠である金剛先生がフォスに任せた仕事は、「博物誌を編むこと」。なにをするのか判らないフォスは、みなのアドバイスを受けて、夜の見回りのシンシャに会いに行く。シンシャは、体から毒液を出す特性があり、その毒液は宝石達にとっても致命的であるため、シンシャは夜の見回りを担当している。

周囲は、シンシャのことを「非常な才気と戦闘力を持ちながら、何もかもダメにしてしまう。彼を、私たちは持て余し、夜に閉じ込めている」 という。

フォスは、月人に攫われたいというシンシャに言う。
「夜の見回りより、ずっと楽しくて、君にしかできない仕事を、僕が、必ず見つけてみせるから!
フォスの言葉に、「夜から出たい」と思い、「無理だ」とその願いを自分で打ち消しつつ、揺れるシンシャ。

月人との戦いに明け暮れながら、自分が居ても良い場所”居場所”を求める宝石達。普通の人間を主人公にすると、「青春物語」になると思うのだが、「人のように見えるが、人ではないもの」不死の宝石が主人公ゆえに、脆く割れても悲しみはなく、宝石達は、縦横無尽に自分のあり方を追い求める。SF風味のファンタジー設定のため、その葛藤や悩みは、嫌みにならず、読み手にストレートに響く。

市川春子のセンスには、ただただ脱帽する。旬な作家ですね!

(裏表紙に新感覚アクション・バトル・ファンタジーと銘打ってあるのだが、このカタルシスは、SF認定で良いと思うんだけどなぁ。)

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