38歳9ヶ月で夭逝したアメリカ生まれの作曲家であるジョージ・ガーシュインの半生を描いたミュージカル。野口幸作の宝塚バウホールデビュー作である。ジョージ・ガーシュインの曲は、”ラプソディー・イン・ブルー”などどこかで一度は耳にする。18歳から38歳までの約20年間に残した曲は500曲以上と言われる。
主演は、花組の若手スターの芹香 斗亜(せりか とあ)。相手役のケイ・スウィフトを仙名 彩世(せんな あやせ)が、ケイ・スウィフトの夫で、銀行家のジェームズ・ポール・ワーバーグを瀬戸 かずやが演じている。
賑やかで華やかな舞台であった。芹香斗亜は、フレッシュで、若々しく野心と希望に満ちているジョージが良く似合っている。まだ芹香斗亜本人が若いので、晩年(といっても35歳以降くらいか)のスランプに陥り、病魔を苦にした演技はややぎこちなく、混乱を感じた。もうちょっと年齢相応の若者役を積み重ねたほうが良いのかもしれない。
ケイ・スウィフト@仙名 彩世は、ビジュアルがばっちりの「できる美しい女性」を演じていた。歌や演技は安定していて、有望娘役であることを感じさせたのだが、なぜかキャラクター(役)の魅力をあまり感じなかった。銀行家の夫と子どもがいる安定した生活を捨てる覚悟もなくガーシュインと恋愛をし、夫にバレるとガーシュインの元を去る。どこまで本気かわからない印象を受けてしまった。後述するが、これは脚本も関係しているかもしれない。
ケイの夫ワーバーグ役の瀬戸かずやは、経験を積んでいるだけあり、落ち着いた演技で舞台に重厚感を持たせた。歌も踊りもうまいので、出番がもう少しあってもいいのにな、というのが残念と言えば残念である。
ジョージの兄アイラ・ガーシュイン役の天真みちるも、控えめで優しくちょっぴりドジな天才作詞家を、ときにユーモアを交えて演じて、好印象。天真みちるは、オーシャンズ11のブルーザーの印象が強かったのだが、見事な切り替えぶりだった。
指揮者のホワイトマン@悠真倫や、女優ガードルード・ローレンス@桜一花、プロデューサーのアーロンズ@紫峰七海らのベテラン勢が舞台を引き締めていた。桜一花のガードルードは、ちょっとクイーン・ダイアナが入っていた気がしたが、それも受けた(笑)。
ジョージの親友で俳優のフレッド・アステア役の柚香光、コラムニストの水美舞斗は、良い味を出していた。緊張もあっただろうが、楽しそうに演じているのが良かった。またこの二人が、芹香斗亜とともに、次世代を支えるという予感をさせた。
フレッド・アステアの姉アデール・アステア@華耀 きらりやガーシュインに熱を上げるポーリン・ハイフェッツ@華雅 りりか、ガーシュインのファン達(梅咲 衣舞、遼 かぐら、花蝶 しほ)など娘役達も華やかに舞台を盛り上げていた。振付家ジョージ・ホワイト@真輝 いづみ、ダンサー・ニック@蘭舞 ゆうのコンビも面白くて笑いを添えてくれた。
フィナーレは、芹香斗亜をはじめ、花組若手メンバーたちの群舞は、韓流スターのコンサートのように、輝いて楽しかった。良かった。
これが宝塚バウホールデビュー作となる演出家の野口幸作は、パンフレットによると、「ガーシュイン・フリーク」を自称している。そのためか、「ジョージ・ガーシュイン」の半生を描ききろうとするあまり、登場人物やエピソードがてんこ盛りになってしまい、個々のキャラクターの掘り下げが中途半端な印象になっている気がした。ただ、演出はフレッシュで爽やかさがあり、ガーシュイとその音楽に対する敬意と愛情も素直に伝わってきて、悪い印象はなかった。次の作品が楽しみである。
【あらすじ】
ジョージ・ガーシュインは、18歳の時に、ニューヨーク・ブロードウェイの路地のティン・パン・アレイにある「レミック音楽出版社」で楽譜を客に試演する仕事をスタートした。兄アイラ・ガーシュイン@天真 みちるや親友のフレッド・アステア@柚香 光らとともに、音楽業界のトップを目指して励んでいたときに、音楽留学に出ようとしていたケイ・スウィフト@仙名 彩世に出会い、恋に落ちるが、ケイはそのまま旅だってしまう。
ジョージとアイラは、さまざまな人たちの支援を得ながら、音楽業界のスターダムにのし上がる。パーティで、ジョージは、銀行家ワーバーグ@瀬戸かずやの妻となっていたケイ・スウィフト@仙名 彩世とも再会し、音楽助手としての支援を依頼する。ジョージとケイの関係は恋愛に発展し、公私ともに幸福の絶頂期にあった。
しかしその関係は、マスコミに取り上げられ、ケイの夫ワーバーグに知られてしまう。不況も重なり、ジョージとアイラはハリウッドに拠点を移すが、映画産業ではジョージの才能は使い捨てとして扱われるだけであった。
バウ・ミュージカル・ロマンス 『フォーエバー・ガーシュイン』-五線譜に描く夢-
宝塚バウホール公演 公演期間:6月7日(金)~6月17日(月)
- ジョージ・ガーシュイン(アメリカの天才作曲家):芹香 斗亜
- ケイ・スウィフト(女性音楽家):仙名 彩世
- ジェームズ・ポール・ワーバーグ(ケイ・スウィフトの夫・銀行役員の息子):瀬戸 かずや
- ポール・ホワイトマン(「キング・オブ・ジャズ」と呼ばれた伝説的指揮者):悠真 倫
- ガードルード・ローレンス(英国出身の大女優):桜 一花
- モーゼス・ガンブル(「レミック音楽出版社」の社長)および
アレックス・A・アーロンズ(ミュージカルのプロデューサー):紫峰 七海