[Zuka] 雪組『f f f』千秋楽配信~奇跡のシンフォニーへの感謝を込めて(1)

2021年1月1日

かんぽ生命 ドリームシアター
ミュージカル・シンフォニア『f f f -フォルティッシッシモ-』~歓喜に歌え!~作・演出/上田 久美子

かんぽ生命 ドリームシアター
レビュー・アラベスク『シルクロード~盗賊と宝石~』作・演出/生田 大和

東京公演千秋楽(4月11日)おめでうございました。この状況下で1月1日初日の宝塚大劇場公演から4月11日まで、雪組子ひとりも欠ことなく、千秋楽を迎えられたこと、奇跡のように思います。その営々と積み重ねられた努力と尽力に敬意を評します。お疲れ様でございました。『fff』と『シルクロード』の感想を書いていきたいと思います。途中でくじけませんように。自分へ。

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4月16日から星組東京公演『ロミオとジュリエット』が始まりますが、大過なく千秋楽が迎えられますよう。


よく死ぬことは、よく生きることだ

4月11日、『f f f -フォルティッシッシモ-』の千秋楽ライブ配信を見ながら、『よく死ぬことは、よく生きることだ』という言葉を思い出していた。

これは1987年に乳がんの3度目の再発のために46歳で亡くなった千葉敦子さんのがん闘病記のタイトルで、本作品とは関係ない。ただ『f f f』で望海風斗が演じるルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの生き様は、千葉さんが本書で述べている「自分の人生をどう生きてきたかが、どう死ぬかを決定するのだ」という言葉を思い起こさせたのだ。


おまえの芸術にのみ生きよ!

上田久美子は本作で、人は生きるために何が必要なのか、自らの思想に基づいた解釈をもって、「楽聖」と呼ばれたベートーヴェンの半生を読み解いた。

音楽家でありながら、耳が聞こえなくなるという不幸に見舞われたルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは、その不幸な運命に負けずに交響曲第6番「田園」、「歓喜の歌」を含む交響曲第9番などの数多くの名曲・大曲を後世に残したことで知られる。

ベートーヴェンは音楽家は芸術家であるという認識に立ち、音楽を芸術作品と位置づけた。当時の音楽界ではそれはまさしく革命的な思想であったという。

それまでの音楽家は聖職者や王侯・貴族の庇護のもとに、聖堂や宮廷、社交界からの注文に応じて楽曲を提供した。物語化されたミュージカル『モーツアルト!!』や『ロック・オペラ・モーツアルト』では、モーツアルトがザルツブルクのコロレド大司教によって放逐され、父レオポルドの意向のもとに宮廷での職を求めてパリやウイーンを彷徨う姿が描かれるが、当時はパトロンなしで音楽は立ち行かなかった。

ベートーヴェンも初期にはルドルフ大公などの貴族をパトロンにし、名声を得ていたが、ナポレオンの台頭など時代の変化を感じ、宗教や王侯貴族のための音楽からまだ見ぬ新しい世界のための音楽、芸術としての音楽を目指すようになっていく。

ベートーヴェンの書簡や手紙には「芸術」という言葉が頻出するという。彼にとって「芸術」とはどういう意味だったのか。

ベートーヴェンが耳疾を患い、主治医のすすめで静養したハイリゲンシュタットで書かれた通称「ハイリゲンシュタットの遺書」からは、彼が芸術と呼んでいたものは「使命を自覚している仕事」、「自分に課せられていると感じる創造」と読み取れる(翻訳者によって表現が異なる)。

自らの創造意欲のおもむくままに作品を作ること。それをベートーヴェンは芸術と呼んだのか。

ベートーヴェンは「おまえの芸術にのみ生きよ!今はお前は(耳の)感覚のために大きい制約を受けているが、これがおまえにとって、唯一つの生き方なのだ」と自らを鼓舞するメモを残している。

  • 青空文庫>ベートーヴェンの生涯ー「ハイリゲンシュタットの遺書」(ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン、ロマン・ロラン、片山敏彦 訳)
  • ベートーヴェン 音楽ノート(岩波文庫 青 501-2)L. V. ベートーヴェン (著), 小松 雄一郎 (翻訳)(1957/12/5)
  • ベートーヴェン 音楽の革命はいかに成し遂げられたか (文春新書) 中野 雄 (著),(2020/11/20)

「死への準備」日記

千葉さんの著作を、私は『よく生きることは、よく死ぬことだ』と覚えていて、検索して間違いに気づいた。

私はその覚え間違いを、乳がんの3度目の再発で目前に迫る死への準備を始めていた千葉さんととりあえず死を目前にはしていない私の差なのかなと思ったりしたけれど、新型コロナ・ウイルス感染症のパンデミック真っ只中、誰もが「死への準備」から逃れられないという状況ではあるね。

千葉敦子さんが死の二日前まで書いていた『「死への準備」日記』 (文春文庫)(1991/5/1)を読み直したい衝動に駆られている。ただし今はもう中古でしか入手できない。

続きます。