[Zuka] 宝塚音楽学校における「予科事」の見直し

宝塚歌劇団と宝塚音楽学校
宝塚歌劇団と宝塚音楽学校

宝塚音楽学校(音高)のニュースは入学式、すみれ売り、文化祭、卒業式くらいだったんですが、先週、音高の伝統的な慣習を見直しているという話題が飛び込んできました。

規律を重んじ、上下関係が厳しく、予科・本科合わせて2年間、カリキュラムびっしりの授業と自主稽古に励むことで有名な宝塚音楽学校。

宝塚音楽学校卒業後は宝塚歌劇団の団員(生徒)になることを前提としており、タカラジェンヌになるためには宝塚音楽学校を卒業しなければならない。憧れの宝塚歌劇の舞台に立つために音高生は2年間の年月を必死で頑張るという噂の宝塚音楽学校!受験資格は15歳から18歳。在籍するのは20歳以下の若者約80名。

その宝塚音楽学校が、音高生の間に存在する「不文律」「暗黙の了解」「伝統的指導や作法」を見直しているそうです。


宝塚音楽学校からの公表

9月12日に宝塚音楽学校が取り組んでいる見直しが一気に発表され、以下のような記事も出たために、卒業生やファンの間に動揺が走っているのが見受けられます。記事中に取り上げられた本科生の指導にはたしかに、ハラスメント、いじめ、スパルタ・シゴキと呼ばれるものが含まれていますね。

宝塚音楽学校OG、本科生の指導「ハラスメントだった」:朝日新聞デジタル (2020年9月12日)

そこでWeb上で読める新聞記事等を読んでまとめてみました。

朝日新聞の報道では、音高には、予科生に課せられるお作法である「予科事(よかごと)」という慣習があり、「予科事」とは、最下級生の予科生が行う「不文律=明文化されていないしきたり、暗黙の了解」のようです。

「予科事」は、”上級生の前ではみけんにしわを寄せて口角を下げる「予科顔」を作る”と記事中に書かれているように予科生が歌劇団の上級生や音高の本科生に対する礼儀などが多く、守れなかった場合は上級生に怒られたり指導が入ったりする様子。

阪急電車への一礼、やめます 宝塚音楽学校が不文律廃止朝日新聞デジタル (2020年9月11日)

「予科事」について音楽学校側が発表した代表例は以下です。

同校によると、予科生と呼ばれる後輩は
①先輩が普段利用する阪急電車に礼をする
②遠くの先輩に大声であいさつ
③先輩への返事は「はい」か「いいえ」に限定
④先輩の前では眉間(みけん)にしわをよせて口角を下げる
――などのルールがあった。

阪急電車に一礼、先輩の前では口角下げる…宝塚音楽学校が「伝統的作法」廃止 – 毎日新聞(2020年9月12日)

「予科事」の他に、必要なルールを定めた「生徒心得」というものもあり、これは宝塚音楽学校が明文化している校則のようなものと思われますが、この改訂も今回の報道で合わせて公表されました。

同校はまた、必要なルールを定めた「生徒心得」も改訂。髪の色は「黒色」と表記していたが、「自然なままの色」に今春改めた。

生徒の精神的なケアの態勢も整えたという。

阪急電車への一礼、やめます 宝塚音楽学校が不文律廃止:朝日新聞デジタル (2020年9月11日)

その他に、現役生やOGが思い出として語ることが多く、中身の一部がよく知られている始業前に行う校内のお掃除。これも本科生と予科生が1組になる「お掃除分担さん」が、昨年春に見直しがなされ、グループ体制になったようです。

2019年春に現在の本科生が入学した時点で、一対一の指導体制を廃止。予科生が担う清掃も、3グループに分けてするように変更した。(中略)。

同校はその他の慣習も見直しを進めるといい、今年3月末の合格発表後の入学説明会では、その方針を生徒らに伝えた。

阪急電車にお辞儀…未来のジェンヌ“暗黙の作法”見直し中神戸新聞NEXT(2020年9月12日)

音高時代の「一個上さん(本科)」と「一個下(予科)」という先輩後輩の間柄は退団後も続くご縁になる貴重なものです。構造的な問題によって間が割かれることがないような配慮がなされるといいですね。

「予科事」と「生徒心得」、作業分担ルールの見直し

まとめると、予科生に課せられるお作法「予科事」という慣習と「生徒心得」、それから学校側が生徒に課しているお掃除などの作業分担ルールの見直しが行われている。その見直しは、「舞台人として必要不可欠なルールではなく、近年のハラスメントに厳しい時代状況も鑑みた」(毎日)という理由で行われているそうです。

音高は、「生徒の自主性に委ねられ」、なにかあると「連帯責任」という話も聞きます。宝塚歌劇の舞台は集団の演技や踊りもアピールポイントですし、他者との協調性や指導に従う従順性を身につけておくのも大切なことでしょう。

ただ記事を読んでいると「上級生や本科生の顔色を伺う予科生」という姿が見えてきて、本科生による予科生への指導はなんのために行われるのか、という目的が見えにくいです。

20倍を超える入試倍率の受験に合格した音高生ですが、社会規範やルールの基準がまだよく判っていない未成年(20歳未満)です。厳しい指導は愛の鞭とか、指導はその厳しさあればこそとか、厳しさを乗り越えて一人前というような意識があると、指導は厳しいほうに傾き、理不尽なことも起こり得るでしょう。

社会はハラスメントに敏感になっており、大学でも、キャンパス・ハラスメント(セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント、パワー・ハラスメントの総称)の防止は重大な課題です。宝塚音楽学校の教育・管理者側が社会の潮流に合わせて、目的を明確化し、組織的に改善や調整を図る取り組みがなされるのは、人権概念の向上や進歩に即した動きと言えるでしょう。

宝塚歌劇団と宝塚音楽学校が、組織的な課題をマスコミに公表して、風通しをよくしようとする今回の動きをファンとしてはとても好ましいものだと受け止めています。

96期のときに問題が表面化したこともあり、この見直しが生徒が心身ともに健やかに芸道に励むための環境づくりの一環であるようにして頂きたいと願っています。


おまけ

阪急電車に礼するのは上級生や本科生が乗ってるからかもしれないから、というのは目的を見失った例なのかなと思います。

私も阪急バスに乗って降りる際には運転手さんにお礼を言いますが、高校時代に教員に指導されたからです。同級生LINEで確かめたよ。あれからうん十年経ちますが、今も阪急バスを降りる時に現役高校生がお礼を言ってるのを見るので、その指導は今も続いているものと思われます。公共交通機関に高校生が大量に乗ってお世話をかけるんだから礼儀正しくしろよってことです。